鹿島茂のレビュー一覧
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乱世の世をいかに生ききるか。
平成の世、堀田善衛(ほったよしえ)はあまり読まれなかった。けれども一周回って、今こそ読まれるべき時代になっているのではないだろうか。
池澤夏樹、吉岡忍、鹿島茂、大高保二郎、宮崎駿という現代の知識人が、如何に堀田善衛に惚れ影響を受けてきたか語り尽くした新書である。これは、富山県の高志の国文学館の特別展の図録になっている。絶妙の堀田善衛入門にもなっていた。
堀田善衛の青春時代に親交があったのは、池澤夏樹の父親たちマチネ・ポエティックという詩人グループであり、その関係からその前半生を語っている。昭和の初めから戦後間も無い頃の文学を語る上で、堀田は幅広い親交があり、か -
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『パンセ』に触れたのがほぼ初めてだったので、その思想への共感が先ず大きいが、そうした初心者に対して非常にわかりやすいのが本書。パンセとは、フランス語で「思想」を意味する言葉。ここではパスカルの著作『パンセ』の意味。パスカルの人間は考える葦であるは有名だが、それだけではない。
私が最も好きだったのは、少し(だいぶ)表現は違うが、「人生は気晴らしであり、それをし続けないと死を想像してしまうから、幸福になれない」という思想。これに共感し、感銘を受けつつ、深掘りしていくのが『パンセ』の面白さであり、本書の分かりやすさの魅力である。
ー 人間はすべて幸福になろうとしている。これには例外がない。
幸福 -
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ネタバレ彼が"ナポレオン"を背負って生まれなければどうなっていたのだろうか?
彼にとって家名、というより叔父の名は人生を縛り続ける鎖であり、生きる目標や誇り(こだわり?)ともなり、世に出る際には大きな助けともなった。人生の最後までも晩年の叔父の敗北と再起をなぞろうとするかのようにも見える。"ナポレオン"ではない彼を想像できないほど人生と家名が一体化している。こういった人物は珍しいのではないだろうか?
名家の出や、有能な父祖と同じ職業に就いている人達なら彼の生い立ちや人生について私とは違った気持ち、実感でこの物語を読むのだろうか。
本書は国内外の研究書や資料を参 -
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「幸福とは何か」
暇になると、人間は不幸になる。なぜなら生きている意味を否定されるから。忙しい方がまだマシ。忙しいから、気晴らしができる。気晴らしこそ人生。
地位が上がると、真実から遠ざけられていく。なぜなら、耳触りが良くて口当たりがいいことしか言わない部下がまわりに集まってくるから。
真実は人を傷つけるから、たいていの人は「真実という薬」をくれた人にひそかな恨みを抱くようになる。
→職場で上司の悪口がよく出るが、ほとんど改善されることがないのがいい例。実際言えないし、言った所でその人との関係性が悪くなり自分が不利になるってことが殆どだから。この「上司」を自分に当てはめると、非常に怖い。自 -
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人類学者エマニュエル・トッドの理論を著者がわかりやすく解説した本。4つの家族類型(直系家族、絶対核家族、共同体家族、平等主義核家族)をベースに各国の特徴を分析する。それに加えて、識字率と出生率もポイントとなる。それによると、男性の識字率が50%を超えると社会変革の気運が生まれ、女性の識字率が50%を超えると出生率が下がり、社会が安定すると考えられる。トッドは女性の識字率向上から「テイク・オフ」と呼び、その地域、社会は近代化し、暴力性は失われたと推定する。
以上がトッドの理論の基本的事項だが、本書はこれらをもとに、今世紀における日本および世界の動向を読み解く。なかでも興味深いのが、今後の対中 -
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「パリのパサージュ」という題名であるが、普通の人にとっては、では、「パサージュ」って何?ということになるはずだ。
それについて、筆者は「まえがきに代えて」の中に下記のように記している。
【引用】
ところで、パサージュを日本人に説明するときには、「まあ、日本のアーケード商店街のようなものですね」と言うのだが、そう言ってから、「いや、本当はまったくちがうものなんですが」と言い直したくなる。しかし、その実、具体的にどこがどうちがうのかを具体的に語るのは案外むずかしい。形態的にはよく似ているからである。
ただ、形態的には同じでも、パサージュはパサージュで、アーケードの商店街はアーケードの商店街なのであ -
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小林さんの人柄や功績、戦前戦中戦後の日本社会(経済、娯楽、政治など)の状況が具体的に知れる有意義な本でした。
自分の持ち駒の強み弱みを正確に把握し、社会の情勢と予測される変化を踏まえて、慎重でありつつ勇敢に目的達成に突き進む人。
住む環境や娯楽を豊かにすることを通して社会の豊かさや発展を着実に実現してきた人。
戦時中の政府においても、国家による統制ではなく民間の自由な活動が経済を強くするという主張を曲げなかった人。
どの年代にこのようなパーソナリティーの土台が築かれたのか興味深い。慶應在学中か、銀行マン時代なのだろうか。
また、小林さんが本格的に事業家として活躍し始めたのが40歳手前 -
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今年、神保町では、3年ぶりに古本まつりを開催された。大勢の人が古本を手にとってパラパラめくっていた。
そんな神保町を取り上げたのが今回の本だ。しかも著者は本好きで、様々な古い資料を集めていることで有名な鹿島茂。
文庫というには分厚い766ページで、定価は2000円+税と他の文庫に比べて高い。
神田神保町を取り上げようと思ったら200ページぐらいなんて済まないのだろう。
神田という地名は、「むかし各国に一ヵ所ずつ大神宮の御供米を植える田が設定され、これを神田と称したので、武蔵国の供米田は即ち今日の神田にあったのである」と矢田挿雲『江戸から東京編(一)麹町