あらすじ
パリに居座るゲニウス・ロキ(地霊)は、多くの秘密を生む――エッフェル塔、モンマルトルの丘から名もなき通りの片隅まで。数百年の時を経てなお、パリに満ちる「秘密」の香りは遊歩者(フラヌール)を惹きつけてやまない。夢の名残を追って現代と過去を行き来する、瀟洒なエッセイ集。
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Posted by ブクログ
サン・テグジュペリの星の王子さまに点燈夫っていう日本人がピンと来ない職業が出てくるけど、光の都パリに来たら意味が分かった。こういう憧れてた海外文学の意味が体験を通して分かる瞬間が好き。
ヨーロッパの魅力は歴史的な地層
シネマの聖地パリ
パリの街の視覚化出来ない謎の魅力と中毒性ってこれなんだろうな。パリは歩いても歩いても面白いスルメ的な街。
街自体が骨董品はほんまそれ
「東京のど真ん中に暮らしていると、東京は永遠に普請中の都市であると実感せざるをえない。 いつもどこかでビル工事の槌音が響いている。鉄筋のビルでも、保ってせいぜい三十年。クラッシュ・アンド・ビルドがたえまない。二十年に一度、遷宮する伊勢神宮の伝統が、いまなお日本に生きているのかもしれない。 一事が万事、この調子だから、東京でゲニウス・ロキ(地霊)が生き続けるのは難しい。建物ごと、いや土地ごと消失してしまうのだから、ゲニウス・ロキも行き場がなくなってしまうのだろう。東京では、自分のいる場所が昔どうだったかを知ることは、それが五十年前でも、いや三十年前でも難しい。」
—『パリの秘密 (中公文庫)』鹿島茂著
「本書は、二〇〇三年から三年間、東京新聞に隔週に連載された記事をまとめたものである。連載中は年に三、四回はパリに足を運んで、現場感覚を失わないようにつとめた。取り上げたスポットは書物で存在を知ったところも少なくないが、かならず現地に出向いてその場の空気を吸い込んでから一文を起こすようにしている。」
—『パリの秘密 (中公文庫)』鹿島茂著
「八百年前の城壁が至るところに残る街、それがパリなのであり、街自体が最高の骨董品なのである。」
—『パリの秘密 (中公文庫)』鹿島茂著
「ユダヤ教の禁忌の影響か、キリスト教社会では馬肉は不浄であるとされ、長い間、売買も禁止となっていた。馬車馬として人間のために働いてくれる動物を食べてはいけないという考えも根強かったのだろう。」
—『パリの秘密 (中公文庫)』鹿島茂著
「ナポレオンとノートル =ダム大聖堂? 一般人にはピンとこない組み合わせのようだが、じつは、キリスト教関係者にとってナポレオンは、大革命以後、カトリック信仰をコンコルダート(世俗権力者と教皇との政教協約)によって復活させた大恩人なのである。だからこそ、ナポレオンの戴冠式もノートル =ダム大聖堂で行われたのだ。」
—『パリの秘密 (中公文庫)』鹿島茂著
Posted by ブクログ
フランス旅行前に。
一章ごと軽めのエッセイという感じでサクッと読める。
他で聞いたことのない知識が多く、歴史や、パリジャンが犬好きだとか馬肉をよく食べるとか初めて知ることが多かった。
Posted by ブクログ
先日、神戸オリエンタルホテルのカレー復活のドキュメンタリーを観た。阪神大震災以来途絶えていた伝説の絶品カレーを、15年ぶりに甦らせた料理人の執念の物語であった。苦心惨憺の末探しあてた、独特のコク・深み・旨味の決め手は「注ぎ足し」だった。
有名おでん店の秘伝と全くおなじで、何十年と注ぎ足しながら使い続けられた汁とルーが、食通をうならせる味の秘密なのだ。
『パリの秘密』と題するこの一冊。連綿と続く西洋文化の坩堝であり煮込み鍋である花の都パリの魅力を、絶妙な文で綴っている。書き手は自他共に認める日本一の読書家、鹿島茂さんだ。
鹿島さんは「遊歩者(フラヌール)」というものを生んだ世界最初の都市がパリであると、あとがきの中で言っている。いくら歩いても「歩き足りない」パリの魅力を表現したかったのだろうが、私は鹿島さん本人こそが類まれな遊歩者だと思う。ふたつの意味で。
まずありきたりな意味の方から。
街歩きの達人。路上観察者として鹿島さんは追随を許さぬパリ歩きの猛者である。
同時に、文字どおり「万巻の書に埋もれた」姿が報じられたり、増え続ける書物のためにだけ何軒もの家を持っているエピソードが有名なほどの博覧強記の主だ。たとえていうなれば「知」の遊歩者である。
だから、カルチェ・ラタンを歩いていて、狭い通路を見逃さずに見つけ「なんだ、ここは?」と足を踏み入れる。すると突然、まるで、地球の空洞伝説の地底湖のような感じで、周りを建物に囲まれた広大な空間を発見する。まさに、路上観察者たるパリ遊歩人の真骨頂である。
さらには、それがローマ時代の闘技場の遺跡であること、200年ほど前にそれが発見され発掘されたこと。それ以前、蛮族来襲に備えるシテ島の要塞建設の建築材として石を持ち去られて破壊されてしまっていたこと。発見時の敷地保有者が乗合馬車会社で、その会社に代替地を提供する予算がなく発掘が沙汰やみになっていたこと。もうこれ以上書くと疲れるぐらい延々と何十冊か分の蘊蓄が語られる。
こういった「へぇ~」連続のエピソードが70編以上鏤めらているのがこの一冊である。その一遍一遍が、それぞれの時代ごとの魅力を常に注ぎ足し続けてきたこの街の深い魅力の断面を、すこしづつだけ垣間見せてくれる。
廃品回収業者の出した市の中に、レンブラントの作品やストラデバリとかが見つかって評判になり、大きくなったのが「蚤の市」だとか、「蚤」とは「フリー」といい、フリーマーケットとは要するに蚤の市だ、だとか、ほんとにもう面白すぎる逸話満載です。
では、早速この一冊を手に一路パリへ、と言いたいところだ。
だがやはり、「欧羅巴はあまりに遠かりし」である。
誰の言葉だったかな。