山口恵以子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
物語の舞台は、19世紀半ばに上海に設定された外国人居留地、即ち租界が舞台となっています。
上海租界では様々な様式のモダンなビル群が並び、最先端の文化を享受することが可能な衛星都市で、ファッションの面でも大胆な最先端モードが発信されていました。
『月下上海』で描かれている上海租界は、当時の雰囲気がとてもリアルに描かれ、まるで私は彼の地の風景を眺めているような感覚を抱いてしまいました。
主人公の八島多江子は財閥の美しい令嬢であり、愛する夫との破局を機に、画家を目指して昭和17年に上海に赴きます。
多江子は持前の美貌と才能に加え、物事に動じない性格が相まって、上海租界で画家としての社会的地位を確立します。
当然多江子の才と美しさに惹きつけられる男性も登場し、租界を舞台に戦時中の複雑な社会変化の中で、多江子は辛苦を味わう事となります。
圧倒的な男性社会の時代、ましてや海外である上海租界で、多江子は財閥令嬢の立場をフルに利用し、そして男達の視線を一同に集める美貌を武器に、雑多な様相を呈す上海の地で埋没する事なく堂々と生きて行く姿は、まるでハードボイルドな劇画的な女性の雰囲気を醸し出していました。
そんな多江子に、中国人の実力ある実業家に接近して情報を得るようにとのスパイ行為を強要され、波乱の物語が展開する事になります。 -
Posted by ブクログ
東京都中央区佃。江戸時代から庶民の町として栄え、現代でも旧佃島地域は昔ながらの人情と風情のある古い街並みで知られている。
そんな佃で2人のおばちゃんが営む食堂兼居酒屋を舞台にしたグルメ&ヒューマンドラマ。『食堂のおばちゃん』シリーズ 10 作目。
全5話で表題作は4話目に配されている。
* * * * *
本巻のポイントになる話は、1話目と5話目でしょう。
1話目は「発達障害」にスポットを当てた作品です。
こだわりや思い込みが強い傾向にあるのが発達障害を持つ人たち。それは食べ物の好き嫌いにも顕著に現れます。
それでも味覚の嗜好が狭いだけで、かつて口にできなかった食べ物でも将来的に好きになる可能性はある。その可能性の芽を摘んではいけない。
そんなメッセージ、しっかり伝わってきました。
相変わらず温かく優しい目線が感じられて心地よい。これまで LGBT やハラールを取り上げた時と同様、シリーズならではのスタンスです。
5話目は、瑠美の学生時代の彼氏が登場する話です。
はじめ食堂を取材する雑誌社のスタッフとして訪れた元カレと再会した瑠美。2人の間に漂う空気に (たぶん) 気づいていながら問題にせず受け流す康平。
そして、瑠美が康平や二三たちに思いを打ち明けるラストシーン。温かく受け止める康平が印象的でした。康平と瑠美の仲がさらに深まった感のある最終話。グッときました。
それにしても康平をスコッチエッグに例えたのは秀逸だと思いました。
ところで、はながストーカー被害に遭う表題作。万里の大活躍もないし犯人は小物感満載だし、尻切れトンボのようなラストだし。
本巻の中心に据えるには軽すぎる気がしました。表題作には5話のほうが……。 -
Posted by ブクログ
東京都中央区佃。江戸時代から庶民の町として栄え、現代でも旧佃島地域は昔ながらの人情と風情のある古い街並みで知られている。
そんな佃で2人のおばちゃんが営む食堂兼居酒屋を舞台にしたグルメ&ヒューマンドラマ。『食堂のおばちゃん』シリーズ9作目。
全5話で表題作は5話目に配されている。
* * * * *
またまた新準レギュラー登場。江戸川で青果店を営む松原団という好青年。今後の活躍が楽しみな存在です。
さて今回は2つの騒動が起こります。
2話目の瑠美に対する誹謗中傷記事事件と、3~4話目のお騒がせ女・永野つばさの「寿退社」事件です。
2つ目の厄介事を持ち込んだつかさは、もうこの辺で退場させてくれないでしょうか。身勝手だし軽率でもあり、もともと好きなキャラではありません。つかさに同情して協力した大河の株まで下がってしまうのは残念に思います。
さて、心温まる最終話。「思い出」が料理にとっての重要なソースであることが描かれていました。まったくそのとおりだと思います。
それにしても、「思い出の味」の隠れた筆頭がナポリタンであることには意外でしたが、なるほどとも思いました。
素朴な料理ほど懐かしさが増すものだということは、実感として頷けるからです。
そして、いま最大の楽しみである康平と瑠美の恋模様について。
いつの間にか互いに名前で呼び合うようになり、文中でもさり気なく「カップル」と書かれている最終話。なんと微笑ましくてよかった! 次巻への期待がいやがうえにも高まりました。