川上弘美のレビュー一覧
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“「わ、わたしも、遠近両用にできないんですか」
勢いこんで聞くと、お店の人は重々しく頭をふり、
「残念ですが、お客さまは、遠くを見る時は左の目しか使っていらっしゃらないし、近くを見る時には右の目しか使っていらっしゃらないのです。遠近両用にしても、無駄なのでございます」
と、きっぱり答えるのだった。
す、すると、わたしはいつも片目でしか世界を見ていなかったのか!?
ころびやすいのも、すぐに部屋の中のものにぶつかってあざをつくりやすいのも、すべてそのせいだったのか!?
生まれて初めて知るその事実に、大ショック。”[P.16_無駄なのでございます。]
これは本当かなぁ嘘かなぁとぼんやり思いながら読む。
“昨日はようやくお酒のおかげで言葉が通じました、と、同行の日本の人に言ったら、
「カワカミさんって、ジェスチャーが上手なんですね。ことにお酒をたくさん飲んだ後では、動きがますますなめらかに」と。
言葉が通じていたのではなく、すべて身振り手振りだったのである。”[P.67_外国。] -
Posted by ブクログ
“六月某日 曇
携帯電話が鳴る。
いさんで通話ボタンを押し、「もしもし」と、自負に満ちた気持ちで言う。
「あの、今国分寺の踏切を渡ったところなんですけど、法事、大丈夫ですか」相手が言う。
国分寺。踏切。法事。まったく覚えのないことばかりで、驚愕する。
「あの、どちらにおかけですか」
「は?カワダさんですよ?」
もしかするとわたしは本当はカワダという名字で、今日は法事の日で、今すぐ国分寺の踏切まで行かなければならないのではないかと、恐れおののく。
居ながらにして。
携帯電話を握りしめながら、つぶやく。やはり携帯電話は、怖いものなのだった。”[P.20_居ながらにして。]
3巻目。
日記と称しつつ語り口が小説ぽいからふわふわする。
“九月某日 晴
洗濯を干しているおばさんとみえたものは、実は大きなひまわりだった。
ひまわりが干そうとしているのは、小さなひらひらしたパンツと、紺色のダッフルコートである。
ひまわりなので、当然顔にはびっしり種がつまっている。
話しかけたが、むろん無視された。”[P.127_とひょう。] -
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“十二月某日 曇
コンビにに年賀状を取りにゆく。
がんばって書いてね、と、コンビニのおばさんに言われる。今年もあと二日しかないから、心配してくれているのである。
ええまあ、と心細そうに答えると、おばさんは顔をのぞきこんできた。
ほんとにがんばるんだよ。ものすごく暖かな声で、はげましてくれる。
ありがたくて、涙がにじんでくる。年末は寒さのせいか、涙腺がゆるんで、困る。”[P.44_ぽそ。]
2巻目。
ぼんやりと読む。
“二月某日 曇
数日前からこどもがインフルエンザにかかっている。うつるかな、うつるかな、とびくびくしていたら、案の定うつった。
午前中、まだ熱がなくて寒けだけの時にマーケットに行き、山ほど食料品を買う。帰ってから、ものすごい勢いで、おでんと煮こみうどんのおつゆ部分をつくる。
つくり終えたころに熱が高くなって、ばったり倒れこむ。[P.51_たまやー。] -
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子供がいても女っけたっぷりの母親と、
子供も大人として扱う凛々しい祖母と暮らす高校生の男の子、翠くんの恋と友情と少しおかしな家庭の事情を描いたお話。
何でもフツーと答える翠くん。
心の中はボキャブラリーが豊富なのに、自分の気持ちはうまく言えない翠くん。
自由になることは高校生の大きなテーマだね。
大人の事情に振り回されて、仕方がないと納得しつつもどこか不満を抱えて早く大人になりたいという気持ち。
平坦を好んでるような翠くんとその友人が、長崎の島で 夏休みを過ごして成長していくところでいきなりよくある青春小説になり驚いた。
ラスト、意外と普通に収まってしまったような…。
前半と後半で別の話を読んでる気がした。
前半の日常はぐいぐい世界に入り込めたけど、後半の非日常はトーンダウンという珍しい小説。
今ではあまり使われなくなった美しい日本語を多用するところがとても好きです。
日本語の楽しさに触れられるので、国語好きにはたまりません。
それに、古典の名文のようなものが章ごとにテーマに沿って出てくる構成も好き!
これを読んでいて小説のリアリティって、私はどうでもいいと思っているんだなって改めて思いました。
意外とこういう家族の形はスタンダードになりつつあるのでなんだか怖いな…とも思いました。
(母親が”女性”を子供の前でも表すこととか、実際は個人的に好きではありません。)
保守的ですね、私。 -
Posted by ブクログ
“五月某日 曇
吉祥寺の絵本屋さんに行く。
数冊買ってから外に出ると、そろそろ夕方になろうとしていた。
荷台に大きな籐のかごをくくりつけた自転車を引いて、おねえさんが歩いてくる。店のすぐ前でおねえさんは止まった。自転車のスタンドを、ゆっくりと立てる。
おねえさんは、籐のかごを開けて、たたずんだ。しばらくすると並びの店から店員さんたちが出てきて、籐のかごの中にあるクッキーやケーキやキッシュを買っていった。
おねえさんは、移動ケーキ屋さんなのであった。
「いつもこの時間にくるんですか」と聞くと、おねえさんは「うーん、気が向くとね」と答えてにこにこした。商売ではなく、趣味の移動ケーキ屋さんなのであるらしい。
かぶのキッシュを二個買う。”[P.16_銀座のてんぷら。]
五分の四本当日記。
どうやら1冊目だったみたい。
ゆるりゆるりと。
“六月某日 雨
人にたくさん会った月だったので、誰にも会わない三日間を設定する。今日はその最後の日である。
誰にも会わないと決めたので、子供が学校から帰ってきたときも、ずっと横を向いたままでいる。子供も理由を承知して、横向きに異議をとなえたりしないのが、助かる。
みそ汁をよそう時に、横向きを忘れて子供と向き合ったら、「おかあさんっ」と注意される。あわてて横になおった拍子に腕に熱い汁をこぼしてしまったが、じっと我慢する。”[P.117_いつも着ている。]