澤田瞳子のレビュー一覧
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"しかしこの華やかな後宮のただ中で、夢も定かに見られぬ身だからこそなお、自分たちは各々の生き方を全うするため、足掻き続けずにはおられぬ。いつか、夢を掴むその時まで。"
奈良時代。聖武天皇の頃。平城宮に仕える采女たちの物語。
メインの登場人物は3人。それぞれモデルとなった実在の采女がいる。
采女、という音の響きでは想像がなかなかつかないが、彼女たちはバリバリの官僚である。
明日はどうなるかわからない。それは奈良時代の後宮でも変わらない。
信念を変えず、しかし時に変化させながら生き抜いてやる。自分を守れるのは自分だけなのだからという、女性官僚たちの物語。
そして、ラストは長屋王の変の2年前で終わる。彼女たちがどう生き抜いたのかも知りたくなった。
また澤田さんの本を読みたい。 -
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最近詩吟を始め、菅原道真が左遷された際に詠んだ詩を吟じるにあたって、道真の人となりが知れる本を探していました。
すると、ドンピシャ。左遷後の様子を書いたこちらの小説に辿り着きました。
詩吟に関しては、左遷されたあとも醍醐天皇を想って余香に浸る・・・そんな様子が詩から見て取れ、とても重く悲しい道真を想像。
ですが、こちらの小説を読み、たしかに左遷の事実に打ちのめされてはいるものの、『喜怒哀楽を露わにする雷神』と例えられるほど、怒って泣いて、笑って企んで・・・。ジェットコースターのような日常が描かれていてなんともコミカルな道真。
勝手に救われた気持ちになりました。
お節介を焼いてくれる小野恬子(小野篁の孫と説明があるまで小野小町だと気づかなかった)や、世話役に任命された龍野保積など、周囲との関わり合いによって徐々に活力を取り戻す姿にとても親しみが持てました。
道真も人間だったんだなぁ。
京に居たときには、本当の人の暮らしや貧しさを感じ取ることができなかった(隠された事実もあれど)と気づき、「私はなんのために・・・」と嘆く姿が印象的。
決して自分の才に傲慢にならず、人の世を良くしようと努めた政治家で、人の世を見たまま表現しようとした歌人だったのかなと想像しました。
人ひとりの生き方を変えられぬ者に、大いなる国を動かせるはずがない。
そう思うと、道真の存在がたくさんの影響を及ぼしたわけであって、左遷という辛い事実も少し報われる気がします。
どこで、どう生きるのか。自分の才をどう生かすのか。
すべては自分次第で、出会い次第で、人生捨てたもんじゃないなと思わせてくれる素敵な物語でした。 -
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澤田氏らしい美しい物語だった。12月にして今年のベスト本。これは、朝児と頼賢、三条天皇と姸子の4人物語。
序盤は朝児と頼賢師弟の信頼関係の醸成を楽しみつつも、頼賢の養母の原子の死の謎に迫っていく、静かな嵐の気配を感じさせられる展開。ただ後半早めに死の真相は判明し、そこからは一転三条天皇と姸子の物語に移行していく。月が満ちるように栄華を極める道長に対し、国のトップでありながら道長に両手両足を縛られ、実際に耳目も機能しなくなる天皇。そしてその対立のもとで天皇を慕いながらも政敵の子として愛情を向けてもらえない姸子。
ここに頼賢と原子を絡め、三条天皇が何故ここまで苦しみながらも譲位しないかに解を与えていく。かつて自身が犯した罪を自らが苦しむことで償う、譲位して解放されることこそが罪だと。
そしてラストシーン。百人一首で有名な「心にも〜」とそれに対する姸子の変化。前者は天皇のままならぬ苦しみへの叫びと解釈するのが通説だが、本作では姸子への愛情と受け取れる。「いつかはこの月も恋しくなるだろう」ではなく、「生きながらえたおかげであなたと月が見れた」と。歌が苦手な姸子がすぐに返歌を送るのも良い。そのへ返歌も朝児がかつて頼賢とその父を重ねて思い返した歌で、別の解釈であることも素晴らしく、澤田氏の和歌への造詣の深さに感嘆するばかり。
さらに、上記出来事が朝児の栄花物語への思い、史書でも物語でもないかな文字の歴史書の意義、読んだ人が怒ったり悲しんだりすることで少しでも現実のモヤモヤから解放されることを願う気持ちの決心に帰着する展開は、賞賛の他に言葉が見つからない。 -
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ネタバレGPSの進歩により、灯台がその役割を終えていっているという事実を初めて知った。
「海と灯台プロジェクト」協力のもと、灯台が存在することの意義を、その土地のあらましや歴史、灯台を守ってきた人々にスポットライトを当てることで言語化した、6名の作家さんによる紀行文。
作品を読みながら旅行気分に浸れるので愉しい。作家のみなさんが灯台の中の螺旋階段を登り、灯台室に入られる場面のわくわく感が伝わってきた。フルネルライトを初めて検索したが、見事なライトであった。
灯台の父と呼ばれるイギリス人のブラントンさんという方が、菜種油で火を灯す木造の灯明台が主な海の道標だった日本に、西洋式の灯台をもたらした。また、戦時中は灯台が攻撃の対象になったこと、灯台がある場所には神社があることなども知ることができた。
絶滅危惧種ともいえる灯台に、何を感じ、何を見るかは、そのひとの感応力によるのかもしれない。
灯台が海をわたる人々の命を守るために重要な役割を果たしてきたことは、時を経ても語り継がれなければならないと思った。 -
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時は天平9年、藤原光明子によって設立された施薬院で働く名代(なしろ)は、有能だがきつい上司の広道に辟易し、頑張っても庶民の相手ばかりで出世の道のない職場に嫌気がさしていた。そんな中、新羅から戻った帰国団員に発熱が見られ、次第に京の町は裳瘡(天然痘)による地獄絵図の様相を呈すようになる。病魔が蔓延る都ではあやしいお札や宗教、異国のものの排斥など様々な思惑が織り交ざり、出世という観念からしか考えられていなかった名代の気持ちも人々(施薬院で孤軍奮闘する綱手(民間の医者で出世しない)、まじめな役人の真公、出所不明だが仕事のできる謎の女性絹代、医師の家系ではないが実力で従医になったが謀られて罪人となり囚人生活で底辺を味わった諸男(恩赦で牢を出て、獄中での知的行動により藤原房前家に使える)と獄中で知り合った宇須、虫麻呂。施薬院の隣にある悲田院の子どもたちとそれを見守る隆英。)と関わりながら変化していく。
名代と諸男の二人が天然痘の悲惨な状況下で心境を変化させていくところ、天然痘が収まっていくまでの人々の頑張りや思い、治療法の判明していく様など、様々な角度から読みごたえがあって面白かった。個人的に難しい言葉の使い方や話の構成などが好みなので★5ですが、合わない人は多いかも。
難しいので高校生くらいから。死骸の表現がかなりグロテスクなので、知的に大丈夫でも中学生以上がいいと思います。 -
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画鬼・河鍋暁斎の娘、とよ。
彼の弟子でもある彼女は異母兄・周三郎と反発し合い、競い
ながら、絵師として父の画業を追い、明治・大正期を生きる。
蛙鳴く 明治二十二年、春 かざみ草 明治二十九年、冬
老龍 明治三十九年、初夏 砧 大正二年、春
赤い月 大正十二年、初秋 画鬼の家大正十三年、冬
解説 東山彰良
とよが22歳のとき、父は亡くなった。それは河鍋暁斎。
様々な画風を自在に操り、奔放な画巧の稀代の画家。
絵を描くことが父との紐帯であり、異母兄・周三郎も同様。
赤い血でなく黒い墨で結び合わされたようで、お互い反発し、
競いながらも、父の画風を守るために画技を磨き合う。
偉大な星が落ちても、その画業を追い、行き着こうとする二人。
だが、時代の変化、画壇の変遷の波。明治は遠くなりにけり。
その中で、とよは多くの出会いと別れを体験する。
父の弟子たちの姿、彼らの家族、結婚と離婚等々。
長い年月の歩みは葛藤がありながらも、とよ自身を変えてゆく。
人は喜び、楽しんでいいのだ。苦難を乗り越えた清兵衛の
言葉がとよの心に使命を示す。父と兄のことを話すのが務めと。
とよの真っ直ぐな生き方が印象的な作品でした。
若い頃の、もがき苦しむ画業。兄の技巧への嫉妬。
でも徐々に変化し、達観していく彼女自身の姿が良かったです。
とよ・河鍋暁翠の絵が見たくなりました。