澤田瞳子のレビュー一覧
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許される限り、この世のありとあらゆる物をこの目で見ておきたい。
そしてそれを書き記して世の人々に知らせたい、という「物書きの業」
人々はどのような読み方をしてくれるのか、密かに込めた真意を汲み取ってくれるだろうか?
紫式部が、清少納言が、そして赤染衛門が抱いたそんな思いを、作者も胸に抱いているに違いない。
『栄花物語』を著した、赤染衛門の物語。
憎しみに身を焦がし、復讐だけを生きる糧とする乱暴な若き僧だった頼賢(らいけん)の成長と、
夫・大江匡衡(おおえのまさひら)亡き後、叡山の高僧・慶円に請われるまま、訳ありの頼賢を学問の弟子とした朝児(あさこ)こと赤染衛門が、権謀術数渦巻く宮城の歴史を見 -
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12の短編が1章ごとに薄く繋がり、日本橋から京までに起こる小さな出来事を紡ぐ。人情物や滑稽話が多いが、江戸時代の悲しい真実・世相を反映した話も多い。
20〜30pの中で読者を引き込み、少し意外な展開と変化する主人公らの心情を鮮やかに映し出す作者の筆力には感嘆する。
どの話にも思いところはあるが『「なみき屋」の客』や『池田村川留噺』のように小さな空間に集まった人々が他人の心配をして心を痛めたり助け合ったりする話がシンプルに好きだ。前者は火事で一切を失った家族という悲劇が題材だが、皆がそれを自分の責任と思い、大工に至ってはそのまま酔い潰れて次の日の仕事に穴を開けてしまうなど非常に愛おしい。
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飛鳥時代、白村江の大敗から壬申の乱を歌を交えつつ、額田王視点で描かれる。
この小説の特徴は、額田王が色の識別ができない設定であり、葛城(中大兄)、大海人の異父兄の漢皇子の存在。
額田王が色がわからないというのは、史実かどうかはわからないけれど、色のわからない額田に「茜さす〜」の歌を読むことができるのかとすぐに頭をよぎるが、読み進めるうち違和感なく、額田の人格や思考も、色がわからないが故、むしろ納得できる不思議さがあった。
漢皇子については不便強でこの本を読むまでは存在を知らなかった。額田、大海人、中大兄の話しだけでなく、漢皇子の存在が拗れた人間関係を描く上でわかりやすくなっていたように思う。
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「知恵の神様」或いは「3大怨霊」として言わずと知れた菅公こと菅原道真。怖そうな人物のわりに表紙のイラストがとてもかわいらしく、思わず手にした1冊。
彼は中流貴族でありながら、自らの才能により文章博士・右大臣にまで昇進したものの、藤原氏の妬みにあい、大宰府に流された。当初、この宿命を恨み続けていた菅公であったが、あるきっかけから、全く無関係であった菅公と恬子(小町)と穂積のトライアングルが動き出し、朝廷を欺き、意趣返しを成功なるか?
豪華絢爛なる貴族社会を描きつつも、視点はいつも名もなき民衆の側にある澤田歴史文学。爽快感の残る作品である。 -
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ネタバレ螺旋シリーズ7冊目。
唯一の欠点は、登場人物の名前と読み方や出てくる漢字の読み方が一向に覚えられないこと!最後まで家系図のところに栞挟んで読んでたわ。
それ以外は果てしなく良かった!
螺旋シリーズで一番良かったかも知れない。
何が良かったかというのは正直はっきりとは語れないんだけど、なんかこう、しみじみと、良かった。
良かったと言ってもハッピーエンドとか爽快感とか勧善懲悪とかスッキリとかそういうのではなくて、ただただ良い物語を読んだという、良い読書をした、読書って良いなぁ、という、良さ。
天皇の話なのに基本ネガティブで、大っぴらに話してたら不敬罪に当たるのでは?とかの不謹慎厨めいた感想を持 -
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螺旋プロジェクト(私の中で)4冊目。
一言で言うととても好みの本だった。
螺旋プロジェクトは海族と山族の対立をテーマとしているが、この本は聖武天皇の内なる葛藤を対立として描いたもの。
以下少しネタバレ含む
父親から受け継ぐ天皇家としての山族、それを侵食するかのような藤原氏の血を引く母親は海族として描かれて、その二つの血を引く聖武天皇が自らの天皇としての有るべき姿に苦悩する。その姿が、天皇を取り巻く人々の一人語りのような形で物語が進む。
章が進むにつれて聖武天皇のさまざまな顔が見えてくる様子は、劇的な展開こそないものの生き生きとしていた。聖武天皇も文中では首(おびと)と書かれていたりと、歴 -
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太宰府へと貶遷された菅原道真の活躍を描く痛快歴史ロマン。シリーズ1作目。4章および終章からなる。再読。
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澤田瞳子さんには珍しくコミカルで軽めの作品ですが、その分すべての主要人物が生き生きと描かれていました。
まずは「うたたね殿」・龍野保積。出世の先が見えた中年地方官僚です。
このトボけた味の狂言回しが道真の心情を刺激し、生きる意欲を引き出していきます。彼のみが実在の人物ではなさそうですが、あとのキャスティングが見事でした。
主人公の菅原道真からして、真面目で堅い学者肌とは打って変わり喜怒哀楽の激しいガンコじじいに、小野恬子はこれがあの小町か