澤田瞳子のレビュー一覧
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人はとかく、目を惹くものばかりを信じがちである…人目にはつかねど内心で案じている者は幾人もいる…p.336
順調でなかったり不幸だったりどん底では辛く悲しく孤独に陥ったりしたこともあり、そんなこともあったときには静か〜
に寄り添ってくれる優しさもあったなと…この本を読み終え改めて思い心温もる。
頼賢の生い立ちには辛いこと悲しいことが多々あったけど、受けた優しさは心に染み込んでいいて、朝児との出会いが転機となり難ありながらも良い方へ成長していくののが微笑ましく嬉しく読み進めました。
この物語の三条天皇の妃達の心内は平安時代の姫で卑しくないのがよかった。 -
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許される限り、この世のありとあらゆる物をこの目で見ておきたい。
そしてそれを書き記して世の人々に知らせたい、という「物書きの業」
人々はどのような読み方をしてくれるのか、密かに込めた真意を汲み取ってくれるだろうか?
紫式部が、清少納言が、そして赤染衛門が抱いたそんな思いを、作者も胸に抱いているに違いない。
『栄花物語』を著した、赤染衛門の物語。
憎しみに身を焦がし、復讐だけを生きる糧とする乱暴な若き僧だった頼賢(らいけん)の成長と、
夫・大江匡衡(おおえのまさひら)亡き後、叡山の高僧・慶円に請われるまま、訳ありの頼賢を学問の弟子とした朝児(あさこ)こと赤染衛門が、権謀術数渦巻く宮城の歴史を見たままに書き留めようと決意するまで。
世は、藤原道長vs三条天皇。どちらに着けば己の身が安泰か、朝堂は二つに割れている。
平安絵巻はきらびやかな地獄絵図である。
有明/上弦/十日夜(とおかんや)/小望月(こもちづき)/十六夜(いざよい)/暁月(あかつき) -
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12の短編が1章ごとに薄く繋がり、日本橋から京までに起こる小さな出来事を紡ぐ。人情物や滑稽話が多いが、江戸時代の悲しい真実・世相を反映した話も多い。
20〜30pの中で読者を引き込み、少し意外な展開と変化する主人公らの心情を鮮やかに映し出す作者の筆力には感嘆する。
どの話にも思いところはあるが『「なみき屋」の客』や『池田村川留噺』のように小さな空間に集まった人々が他人の心配をして心を痛めたり助け合ったりする話がシンプルに好きだ。前者は火事で一切を失った家族という悲劇が題材だが、皆がそれを自分の責任と思い、大工に至ってはそのまま酔い潰れて次の日の仕事に穴を開けてしまうなど非常に愛おしい。
澤田先生の作品は『若冲』『定朝』のような絵師物や奈良平安政治史物をよく読んでいたため、江戸の市井物は新鮮に感じたが、この分野でも一つ抜きん出た作家さんだと思った。 -
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飛鳥時代、白村江の大敗から壬申の乱を歌を交えつつ、額田王視点で描かれる。
この小説の特徴は、額田王が色の識別ができない設定であり、葛城(中大兄)、大海人の異父兄の漢皇子の存在。
額田王が色がわからないというのは、史実かどうかはわからないけれど、色のわからない額田に「茜さす〜」の歌を読むことができるのかとすぐに頭をよぎるが、読み進めるうち違和感なく、額田の人格や思考も、色がわからないが故、むしろ納得できる不思議さがあった。
漢皇子については不便強でこの本を読むまでは存在を知らなかった。額田、大海人、中大兄の話しだけでなく、漢皇子の存在が拗れた人間関係を描く上でわかりやすくなっていたように思う。
額田の大海人、中大兄に対する気持ちが恋愛感情ではないのも良かった。
鎌足が忠臣なのは明らかで、ただ不気味で冷ややかに感じるのは、なるほどと思う。思考はさすが藤原氏の祖と思わせる。晩年は額田を教育しているようにも伺える。
額田は大海人と別れ、宮人になるべく鎌足に負けじと必死で、この本の中の額田王は鎌足を意識し過ぎているようにも思えるけど、案外そういう女性像の方がしっくりきた。
額田王に視点を置くと、鎌足や讃良の印象が変わる。讃良は感情を露わにし、彼女の憎しみが、大海人を動かし壬申の乱への引き金になるのも永井路子さんの小説と重なりあい面白く読めた。
額田が詠んだ「熟田津 の歌」、額田が詠めなかった時に備えて中大兄が詠んだ歌を、彼が亡くなってから、彼の作った政が崩れ落ちるその時に聞かされるのは、儚すぎて涙が出た。
この小説に登場するのは、まだ幼い不比等。兄の死をどう思ったか、父と中大兄を見てどう感じていたのか。
ここにこの先の藤原一族の礎があると思うと、それも興味深い。
日本書紀、古事記を読んでみようかなぁ…
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「知恵の神様」或いは「3大怨霊」として言わずと知れた菅公こと菅原道真。怖そうな人物のわりに表紙のイラストがとてもかわいらしく、思わず手にした1冊。
彼は中流貴族でありながら、自らの才能により文章博士・右大臣にまで昇進したものの、藤原氏の妬みにあい、大宰府に流された。当初、この宿命を恨み続けていた菅公であったが、あるきっかけから、全く無関係であった菅公と恬子(小町)と穂積のトライアングルが動き出し、朝廷を欺き、意趣返しを成功なるか?
豪華絢爛なる貴族社会を描きつつも、視点はいつも名もなき民衆の側にある澤田歴史文学。爽快感の残る作品である。 -
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ネタバレ螺旋シリーズ7冊目。
唯一の欠点は、登場人物の名前と読み方や出てくる漢字の読み方が一向に覚えられないこと!最後まで家系図のところに栞挟んで読んでたわ。
それ以外は果てしなく良かった!
螺旋シリーズで一番良かったかも知れない。
何が良かったかというのは正直はっきりとは語れないんだけど、なんかこう、しみじみと、良かった。
良かったと言ってもハッピーエンドとか爽快感とか勧善懲悪とかスッキリとかそういうのではなくて、ただただ良い物語を読んだという、良い読書をした、読書って良いなぁ、という、良さ。
天皇の話なのに基本ネガティブで、大っぴらに話してたら不敬罪に当たるのでは?とかの不謹慎厨めいた感想を持ってしまったのがなんか我ながら嫌だったりした。
話のメインは、結局天皇は男性でなきゃいけないということ。今考えると普通にド炎上しそうな内容なのに、天皇が男性であるということは現代でも当たり前のように扱われている。そう考えるとなんでなんだろう、という根本的な疑問を持ってしまう。今でもできていないのに狙って子供の性別を決めるなんてできるわけがなく、そんなときに限って男子が生まれなかったり早逝してしまったりする。だから本妻だけじゃなく側室なり愛人なりを作りまくって、男子が生まれたらその子を天皇にするという、改めて説明されるとおかしな話ではあるんだけど、文化としては別に日本に限った話ではなく世界中で起きてることなんだよなぁ…。男性の肉体的優位は否定できないけど、支配者になれるかならないかという能力は男女に差があるわけではないのになぁ、としみじみと考えてしまう。
しかも、そう考えると今でも天皇はやはり男性でなきゃいけないのに、現代の倫理観から側室も愛人もなにも無理となると、皇后様のプレッシャーたるや凄まじいのでは。と、天皇家を見る目がちょっと変わってしまう。変な意味ではなく。
そして螺旋要素としては、それほど表に出てこない。あくまでも補佐的な使われ方で、とても良い。ただ、後半から藤原氏が海、天皇家が山ということがはっきりと明示され、それに翻弄される聖武天皇と周りの人たちが読んでてとにかくつらい。おおる、おおるという泣き声の使われ方も一番印象的だったし、巻き貝の飾りもどこで出てきたかちゃんと覚えている。
語られ方としては、章ごとに一人の人物がひたすら語り倒しているだけ、それを10章続けていくだけという、特に凝った仕組みではないのだが、なんかミステリーというか京極夏彦でよく読む感じの文章構成というか、まあなんかこの形式を表す文学用語はあるんだろうけどとにかく引き込まれるおもしろい形式だった。色んな人が聖武天皇について語っていき、人となりが分かっていくように見えて急に違う展開になったり。でも結局他人から見たことなので、真実かどうかは誰にもわからないという…
あ、あと火の鳥とか読んで仏教嫌いになっている自分だが、今作でも仏教が割と敵みたいな感じに描かれていて、共感してしまった。いや、文化としては好きなんだけどやっぱり日本古来の文化の方が好きというか。
まあともかく聖武天皇という、天皇家であればそれ自体が宗教みたいなもののトップが仏法を尊ばれたというところの違和感をきちんと描いているところも良かった。良いとかダメとかではなく、たしかに不思議ではあるよね、という。
あ、あと道鏡が話の聞き手として出てくるが、話しそのものには全く関わらない。というかテキスト的には一言も発しない。割と有名な人じゃなかったっけ…
まあともかく天皇家に天皇以外の血が入った(初めてなのかどうか知らないが)出来事を海と山に絡めてくるというのは素晴らしかった。わかりやすいし、悲しいし。今思うと海族が局地的過ぎはしないかという気もするけど。 -
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螺旋プロジェクト(私の中で)4冊目。
一言で言うととても好みの本だった。
螺旋プロジェクトは海族と山族の対立をテーマとしているが、この本は聖武天皇の内なる葛藤を対立として描いたもの。
以下少しネタバレ含む
父親から受け継ぐ天皇家としての山族、それを侵食するかのような藤原氏の血を引く母親は海族として描かれて、その二つの血を引く聖武天皇が自らの天皇としての有るべき姿に苦悩する。その姿が、天皇を取り巻く人々の一人語りのような形で物語が進む。
章が進むにつれて聖武天皇のさまざまな顔が見えてくる様子は、劇的な展開こそないものの生き生きとしていた。聖武天皇も文中では首(おびと)と書かれていたりと、歴史の知識に乏しい私は最初の50ページくらいは巻頭の家系図と行ったり来たりでかなり読みにくいと感じたが、関係図が分かればあとは物語にどっぷりと浸かることができて面白い。一人語りをする登場人物もユニークで色々な立場の人が出てくることで、より聖武天皇像が立体的になった。
今のところ、螺旋プロジェクトの「対立」構造というものに対してのアプローチで一番好きな本となった。残りの本も楽しみだ。 -
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太宰府へと貶遷された菅原道真の活躍を描く痛快歴史ロマン。シリーズ1作目。4章および終章からなる。再読。
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澤田瞳子さんには珍しくコミカルで軽めの作品ですが、その分すべての主要人物が生き生きと描かれていました。
まずは「うたたね殿」・龍野保積。出世の先が見えた中年地方官僚です。
このトボけた味の狂言回しが道真の心情を刺激し、生きる意欲を引き出していきます。彼のみが実在の人物ではなさそうですが、あとのキャスティングが見事でした。
主人公の菅原道真からして、真面目で堅い学者肌とは打って変わり喜怒哀楽の激しいガンコじじいに、小野恬子はこれがあの小町かと思うほどおきゃんでサバサバした女性に、それぞれ描かれています。実に思いきったイメージ変更だと思いました。
なのに、読んでいて少しも不自然さがなくむしろ好もしく感じてしまうほどです。
他にも、大宰大弐の小野葛絃やその甥の葛根も十分過ぎるほどの存在感を放っていました。(名前だけ登場の道風兄弟の活躍も見たかった)
再読だったのですが、前回読みとれなかった部分に気づけた分、面白さは初読を上回りました。さり気なく雷を絡めたラストの場面もよくできていてニクイほどです。
まったく澤田さんの豊富な知識と作品構築の緻密さにはほとほと感心するばかりです。