澤田瞳子のレビュー一覧

  • 火定

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    史実をベースにした感染症(天然痘)パンデミックの小説。
    感染症に抗う術のない恐怖が伝わってくる。あらためて医療の発展に感謝。描写がキツイので読み進めるのにはパワーが必要。

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    2026年06月27日
  • 金波銀波

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    海に生きる人間の死生観が通底している本。陸に生きる自分のほのかなそれに対する憧れに対して、かけられる言葉にうならされる。人物が皆魅力的で惹き込まれた。

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    2026年06月24日
  • 京都はんなり暮し 〈新装版〉

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    京都生まれの京都育ち、母も時代小説家ということで、謂わば京都文化を文章化することについては文句なしの存在である澤田瞳子さん。
    期待通りガイドブックには載っていない生の京都が活き活きと描かれています。
    京都で過ごした学生時代を思い出すと共に、定年後に再度ゆっくり味わってみたいと思いました。

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    2026年06月17日
  • 星落ちて、なお

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    「画鬼」と呼ばれた天才画家 河鍋暁斎の娘として、
    必死に絵に向きあった
    女絵師・暁翠の一生。

    直木賞受賞作。
    コンプレックスにまみれながら、亡き父の作品に
    囚われ続けた彼女の人生は、はたして幸せだったのだろうか

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    2026年06月02日
  • 赫夜

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    面白かった!
    富士山噴火。
    記録が残されなければ何があったのかは分からない。
    賤民、良民。
    生きるとは。

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    2026年05月16日
  • 月ぞ流るる

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    藤原道長が強大な権力を持っていた時代。
    あくまでも天皇による親政を目指す三条天皇との対立。
    その板挟みとなって苦悩する道長の娘である中宮妍子。

    妍子つきの女房として宮仕えをしていた赤染衛門(朝児)から見た華やかであるはずの平安貴族の世界は、悲しいものだった。
    「この時代の事実を書き残そう」栄花物語を書こうと思い立つきっかけとなった。

    それにしても、ちょっと前に読んだ「道長ものがたり」やNHK大河の「光る君へ」とは、道長の描かれ方が全く違う。ものすごく嫌な奴になってる。

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    2026年05月16日
  • 春かずら

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    時代小説が今、楽しい
    なぜだろう…たぶん…人っていつの時もあまり変わらない、って思えたり、暮らしって同じなんだな、って思えたり…古の人達とどこか繋がっている感覚が面白いのかもしれない

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    仇討ちという使命を帯びて国許を離れ12年もの間、仇を探し回った清史郎だが、いざ故郷に帰ってみるとそこに待っていた「真実」とは…

    仇の子供達、昔の想い人、旧友、恩師…
    共に過ごした時間が様々な色を成して清史郎を包み込む…秘め事が明かされる…果たして清史郎の答えは?


    ****************

    人間ドラマでもあり、謎解きでもある
    ミステリーとしても上質だと思う

    そして、つくづく主人仕えの武士も勤め人となんら変わりない…組織の歯車として日々、あくせくと働き意に沿わぬ事に苦心しストレスに苛まれ、清濁合わせ飲むことを「仕方なし」とする諦観…


    清廉潔白に生きようとする清史郎を「青臭い」「大人になれ」と揶揄するも、本当はそんな人間が羨ましいのだろう…もしも、自我を通そうとするならば、それなりの代償を払わなければならなくなるから


    それに比べて、「女性」のなんと逞しいこと!
    愛人を堂々と囲い、その世話をさせる夫をもつ商家の女将…テキパキと仕事をやりくりし、清史郎に助け舟をだし、歯に衣着せぬ物言いに恩着せがましい気配などなく、全くもってイケメン!自分のことは自分で決める、そのキップの良さたるや…ジクジクと煮え切らない男性どもを颯爽と置き去りにする感じ…
    ご立派で、胸がすく!

    そして、清史郎の想い人であった早苗
    「烈女」と評される彼女の肝の座った言質!
    政だ、お家だ、と走り回る男性陣に振り回されるのはごめん被る、知りたい事、知らなければならない事は自分で成す、という決意
    その行動力と物怖じしない度胸の良さ!


    藩のため、政のため、主人のため、と、自分の理を犠牲にして本意ならざる人生を歩むことを余儀なくされる男性人に対し、この女性陣の自由奔放さが対照的に描かれていて…なんとも…


    「男って可哀想」とか「男って不器用」とか…確かにそういう事もあるけれど、個人的にはそんな男性陣が悲しくなるほどに、なんだか愛おしい

    どちらがより過酷かとか、正しいとかではない
    漢には漢の、女には女の、それぞれの修羅があり、闘い方がある、という話し

    翻弄されながらも、心の中で泣いて、怒って、迷って、、、命までも捧げてしまうような不器用さ、生真面目さ…それらがなぜか悲しいくらい愛おしい

    道理や忠義、誇り…
    清濁合わせ飲むことで果たして人はどんな答えをだすのか…清史郎の答えは…この時代にしては「理想」すぎて…

    できれば、その後を見てみたい
    清史郎が江戸かどこかで健やかに生きていることを願ってしまうと同時に、郷里に残った人達もまた幸せであってほしい、とも思う

    清史郎の12年が無駄ではなく、この答えに行き着くための長い旅路だったのだ、と思えたことで報われるだろうし、仇の子供と結んだ絆が、この先、蕾となり花を咲かせ実りとなって、また再会できたらどんなに幸せか…そんな未来を待ってしまう

    とにかく、丁寧に描かれた秀逸な一冊でした

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    2026年05月09日
  • 火定

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    初瞳子。直木賞候補作。時代小説をこれまで読んできて、漸くわかったことが——時代小説ほど、人の生き死にを描けるジャンルはないのだと。
    綱手、諸男の二人の医師。それに一刻も早くこの職場から逃げ出したい名代。この三名を通して、医師、医療とはなんたるかの「本質」を見た気がする。本当に良い作品であった。

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    2026年05月03日
  • 梧桐に眠る

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    久しぶりの澤田さんの本。
    とても面白かった。
    大きな事件の起こる隣で起こっていること。
    1人の人の生き様を描くのがうまい。

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    2026年03月31日
  • 赫夜

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    ネタバレ

    延暦富士山噴火をベースにした歴史時代小説。

    富士山噴火の中で最も古く、記録もほとんどないものをモチーフに、坂上田村麻呂の陸奥征討を絡めるなんてすごい。
    同じ時代の二つの出来事を関係あるように描くのは自分の大好物です。
    噴火によって新たに開通させた箱根道も、陸奥征討も理由の一つにしているのもすごい。
    主人公は富士山ふもとの市井の人々なのだが、その被災状況は近年の御岳噴火などを想起させるほどリアルでありつつも災害小説にとどまっていないところもさすがです。

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    2026年03月20日
  • 京都はんなり暮し 〈新装版〉

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    ネタバレ

    京都人は八ツ橋を食べない、京都でも空襲はあった、等、今まで知っているつもりで知らなかった京都の側面を、長年京都で暮らしている澤田先生の視点で知ることができ、たのしかった。
    旅行した際に、紹介されていた「なか卯」は行ったことがあったので、膝を叩き、そういう裏背景があったのか! と驚いた。もっと澤田先生の京都エッセイが読みたくなった。表紙もかわいくてお気に入り。

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    2026年03月08日
  • 梧桐に眠る

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    この時代をこれだけ仔細に描いた物語も少ないので、それだけでも楽しめた。

    『弧鷹の天』を読んでいないので、どう繋がっていくのか読むのが楽しみだ。

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    2026年03月04日
  • 火定

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    奈良時代に都で天然痘と戦った人々のお話。会話などが現代語になっているので読みやすく、場面もしっかり目に浮かんで、テレビドラマを見ているような感覚で読み進められました。描写はかなりリアルでした。

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    2026年03月02日
  • 龍華記

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    藤原氏の出でいずれは興福寺の院主になるはずが、父の失脚によりその座を失った範長を主人公に、平氏による南都焼き討ち、平氏の滅亡、南都の復興の様子を描いた作品。
    例に劣らず公家の歪んだ価値観と、人として僧としての本質を対照的に描きつつ、怨みごころは恨みを捨てるとこによってのみ消ゆるがメッセージでした。

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    2026年02月28日
  • 梧桐に眠る

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    平城京の都を舞台にした作品は初めてで、凄く面白かった!!
    普段、時代小説だと、江戸時代や幕末維新が背景のものを読む事が多いので、平城京時代の物語は新鮮で、舞台背景を少し知ることができました。
    主人公の袁晋卿が、唐の都である長安から日本にやって来る事になり、そこには遣唐使として日本から唐に渡っていた玄昉と吉備真備による企みがあり、それはどういう事なんだろう?晋卿は何に巻き込まれているんだろう?ということを頭に置きながら、奈良で過ごす日々を読み進める内に、その世界の中に没入していました。
    晋卿が日本に連れてこられ、更に唐に帰ることが許されない理由が判明し、大宰府に移る事になり、そこでの生活で、次第にその事実を受け入れていくようになる晋卿の気持ちの変化、玄昉や藤原広嗣に対する思いの変化に、良かったと安心すると同時に、私が晋卿と同じ立場だったら、受け入れられるだろうか?と、考える所がありました。
    一冊の小説に没入した、面白い物語でした。

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    2026年01月29日
  • 梧桐に眠る

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    ネタバレ

    もう二度と家族にも会えず
    祖国にも帰れない

    というのは
    辛いかもしれない。


    タイトルは素敵だなと思った。
    タイトルの様に生きられるのなら
    良かったな

    と思う。

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    2026年01月23日
  • 若冲

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    ”星落ちて、なお”を読んでいたからか、「あーこれが澤田瞳子さんの小説か!」という色を味わえた作品。

    若冲は終生未婚だったと言われており、史実とは異なる点もある歴史小説ではあるが、読み応え十分。そして影の主役と言える弁蔵あってこその若冲であろう。このように人物を描けるのは、なかなかないと感じている。

    澤田瞳子さんの人物像の描き方に非常に興味が出てきたので、他の作品も読んでみます。

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    2026年01月10日
  • 名残の花(新潮文庫)

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    ・鳥居耀蔵(とりい ようぞう)/鳥居胖庵(はんあん)77歳。かつて南町奉行を務め、奢侈を厳しく取り締まり、庶民からは「妖怪」と嫌われた。
    失脚して23年の幽閉生活を過ごすうちに、時代は明治へと変わった。
    まるで浦島太郎。帰ってみればこはいかに。
    各章、能の演目に題材を取っている。
    江戸時代、能は公的な儀式の場で上演され、幕府や大名たちの庇護を受け、能役者は武士身分に取り立てられていたが、徳川の世の終わりと共に、他の武士たち同様に没落し、生活のために能を捨てて他の職業に就く者も増えた。
    胖庵も、能役者たちも同じく「お江戸に置き去りにされてしまった」前世紀の遺物である。
    明治の世をどう生きていけばいいのか。

    【名残の花】
    胖庵、上野の花見客の騒がしさに憤懣やる方ない。
    かつて取り締まった猿楽の家の者、滝井豊太郎(たきい とよたろう)と出会う。
    かつて取り締まった芸者の娘の女掏摸(すり)に仕返しをされる。
    【鳥は古巣に】
    ・中村平蔵(なかむら へいぞう)86歳。金春座の地謡方
    ・滝井豊太郎(たきい とよたろう)16歳。平蔵のただ一人の内弟子。師匠の身の回りの世話をする
    胖庵は思い上がった能楽者たちが嫌いだったが、将軍家の行事に連なり、数々の舞台を観てきたので、能には詳しく耳も肥えている。
    演目は「箙(えびら)」秀でた才能がなくても小鼓を手放したくないと決意する能楽者
    【しゃが父に似ず】
    「歌占(うたうら)」が元ネタの狂言を書いた若者は、かつて胖庵の部下だった武士の息子
    【清経(きよつね)の妻】
    平蔵の家で金春役者たちによる稽古能が開催されることになった。五番立てのうち、豊太郎は二番目ものの「清経」のツレに大抜擢された。シテ、平清経の妻の役で、ツレだが謡も所作も多く、見せ場のある役。
    豊太郎の叔母は、夫の形見であるはずの香炉を井戸に投げ込んだ。その真意はどこにあるのだろう。
    【うつろ舟】
    「鵺(ぬえ)」
    金春座太鼓方・多崎一家が心中した。
    鍛治橋御門内で狐狸妖怪が西洋風のラッパや太鼓を打ち鳴らしているという噂が流れている。妖怪でさえ洋風化している明治の世には古典芸能は滅びるしかないのかと嘆いた。
    【当世実盛(さねもり)】
    「実盛」は、73歳の実盛が白髪を黒く染めて出陣する、老将の矜持を題材とした修羅能。
    「武家の体面」に散々苦労した末、武家を憎むようになった、元武士の喜十郎は、古いものを守ろうとする若者の志をくじいてまで洋風化に洗脳しようとした。
    胖庵は、戦国の世を終わらせて打ち立てられた徳川幕府も、その時は「新しい世」だったのだ。時を経るうちに綻びが生じ、やがて滅ぼされて明治の世になった。この明治の世も、西洋化を急ぎすぎればいずれ歪みが生じ、次の世がやって来るかもしれないと説いたが、喜十郎の胸には響かなかったようだ。

    時の流れの中では、永遠に勝者でいられる者などいない。

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    2025年12月30日
  • 恋ふらむ鳥は

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    額田王の一生。壬申の乱となっていく兄弟・親子皇位相続のごたごた、百済滅亡でやってきた難民などの話がからみあう。後の持統天皇となる讚良が悪役(笑)
    中臣鎌足が面白いキャラクターとなっている。
    能の「国栖」がまた見たくなった。

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    2025年12月02日
  • 梧桐に眠る

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     まさに澤田氏にしか書けない物語。唐から来た異邦人と孤児の二人を中心に、玄昉と藤原広嗣でここまで豊かに、これほど面白く描き切る力量には舌を巻く。特に、物語の終盤・太宰府に赴く四名の組み合わせが良い。いずれも唐語を操りながら、京では“異物”として扱われる孤独な存在。ただ、志邑だけが最終章で急に主役のような扱いになった点には少し違和感があり、中盤でもう少し存在感をにじませても良かったように思う。

     本作では、石上乙麻呂の排斥、広嗣の乱、玄昉の死といった有名な事件は描かれない。それを“あえて描かない”という選択こそ、名作家ならではの大胆さだと感じた。

     孤児だった駒売・狗尾・挟虫の三人の生き方も実に興味深い。孤児時代は性格こそ違っても、物乞いで生き延びるしかなかった彼らが、ひとたび安息を得ると次の欲へと手を伸ばしてしまう。それは悪ではなく、ごく自然な変化。晋卿の恩を忘れたと批判するのは筋違いで、むしろ狗尾の強かさや嗅覚は、孤児として培われてきた“普通”の帰結であるとも言える。恩を忘れず太宰府まで付き添った挟虫の方が、ある意味では異例なのだと思う。

     狭虫の「帰る家がないから、どこへでも行ける。孤児で良かった」という言葉には深い真理が宿っており、考えさせれる。現代でも、社会に規則正しく順応することで得られる利益がある一方、生きづらさや不公平を感じることも少なくない。どちらの生を選べるかという点こそ、現代人の特権とも言えるだろう。この観点で、広嗣を不憫に思う晋卿の気持ちにも共感できる。広嗣こそ、貴族社会でなければもっと自由に生きられた典型的な人物だったのではないか。籠の中の鳥。澤田氏の『夢も定かに』の「藤影の猫」で描かれた、伊勢斎宮へ向かう前夜の皇女(斎皇女)の哀しさを思い出した。

     梧桐の木――鳳凰の棲む木の下で眠ることができる幸福を静かに考えさせてくれる物語。

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    2025年12月02日