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――己のために行なったことはみな、己の命とともに消え失せる。(中略)わが身のためだけに用いれば、人の命ほど儚く、むなしいものはない。されどそれを他人のために用いれば、己の生には万金にも値する意味が生じよう。(本文より抜粋)時は天平――。藤原氏が設立した施薬院の仕事に、嫌気が差していた若き官人・蜂田名代だったが、高熱が続いた後、突如熱が下がる不思議な病が次々と発生。それこそが、都を阿鼻叫喚の事態へと陥らせる“疫神(天然痘)”の前兆であった。我が身を顧みず、治療に当たる医師たち。しかし混乱に乗じて、病に効くというお札を民に売りつける者も現われて……。第158回直木賞と第39回吉川英治文学新人賞にWノミネートされた、「天平のパンデミック」を舞台に人間の業を描き切った傑作長編。解説:安部龍太郎。
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Posted by ブクログ
本作を敢えて一言で言えば「奈良時代を背景にした“時代モノ”の小説」ということにしかならないと思う。が、その「一言」に収まらないような、「憑かれる」かのように嵌ってしまうような側面も在る。
余り経験も無いことであるが、本作に関しては「憑かれる」かのように夢中で読み進め、ふと顔を上げて、作中で展開している様々な出来事が「小説の作中世界、更に古代の出来事」と改めて考え、ふうっと息を強く吐きながら安堵するような、そういう按配でもある。
主要視点人物の名代(なしろ)と諸男(もろお)とだが、恐るべき疫病の流行による大混乱という中、各々に変わって行く。2人が各々に自身の中の「闇」と「光」に向き合って行くということになる。そこが本作の肝であろうが…
「8世紀前半の寧楽(なら)」という、本作を読んでいる時間や空間からは遠く遠く隔たった場所で展開する、なかなかに凄惨な状況であるが、何か「変に胸に迫る」というように感じた。
疫病で夥しい死者が発生しているという中、色々な意味での“不寛容”が拡がり、それが混迷に拍車を掛けてしまうというような展開が見受けられるのだが、そういう辺りが「偶々読んでいるフィクションの小説」でありながら、何処となく「妙なリアリティー」を感じた。
文庫本としては未だ新しい本作である。一寸、御薦めだ。
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