あらすじ
――己のために行なったことはみな、己の命とともに消え失せる。(中略)わが身のためだけに用いれば、人の命ほど儚く、むなしいものはない。されどそれを他人のために用いれば、己の生には万金にも値する意味が生じよう。(本文より抜粋)時は天平――。藤原氏が設立した施薬院の仕事に、嫌気が差していた若き官人・蜂田名代だったが、高熱が続いた後、突如熱が下がる不思議な病が次々と発生。それこそが、都を阿鼻叫喚の事態へと陥らせる“疫神(天然痘)”の前兆であった。我が身を顧みず、治療に当たる医師たち。しかし混乱に乗じて、病に効くというお札を民に売りつける者も現われて……。第158回直木賞と第39回吉川英治文学新人賞にWノミネートされた、「天平のパンデミック」を舞台に人間の業を描き切った傑作長編。解説:安部龍太郎。
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Posted by ブクログ
2020/6/20
すごいものを読んでしまった気分。
新型コロナの流行を機に読もうと思ったあるあるパターンです。
寧楽(なら)、つまり奈良時代の天然痘パンデミックもの。
奈良時代の天然痘ともなると現代の新型コロナよりかなりエグい描写の地獄絵図が繰り広げられるわけですが、乱世の人心は現代にも通じるものがあるんだろうね。
本の紹介に「光と闇」とありますが、光みたいなものも確かに感じた。
医療従事者の志が尊かった。
澤田瞳子さん知らなかったので他のも読まなければ。
Posted by ブクログ
一気に読み終わりました。
いやぁ、もう、言葉を失ってしまうほど激動の物語。
人のなんと脆く強く温かいのでしょうか。
コロナ渦の今だから、なお響いたのかもしれません。
人の弱さ強さも生死も、全てが紙一重。
この積み重ね、犠牲や痛みの上に今の我々があると痛感し感謝の念。
医療従事する全ての方へ感謝。
Posted by ブクログ
本の雑誌ベスト・歴史小説部門から。現パンデミックを見越したかのような内容。それもあって、元の物語の求心力が、自分の中で倍加されたみたいな感じ。たまたまだけどここ最近、奈良時代モノに触れる機会が多い、ってのもポイント。殆どキャラ付けもされないし、いわゆるちょい役なんだけど、子どもたちに与えられた運命が切なすぎる…。でも、タイトルだけ見ると、疫災じゃなくて火災の物語かと思っちゃう。読んだことないけど、”ペスト”もこんな感じの物語なのかな、とか想像しちゃった。
Posted by ブクログ
天然痘の症状や、死後の人間の状態の描写が壮絶でした。想像が全然追いつかなかった。
生きる価値と死んだ意味を一点集中で突き付けてくる作品で、葛藤の中から生まれる心理に有無を言わせない力強さがありました。希望の光が見えてくるまで、ゆるみがなく、どこまでも苦しかったです。見えた希望が、この先に、またある困難を照らして終わりますが、それでも失われない希望を手に入れたところがよかったです。揺れ動く心模様が凄かったです。
Posted by ブクログ
舞台が奈良時代の都なので、正倉院宝物や平城京の様子を思い浮かべながら読むのが楽しい。コロナの時代を予見していたかのような物語で、面白かった。
それにしても、マンガや小説だと光明皇后のことが全くよく描かれてなくてびっくり。
Posted by ブクログ
本作を敢えて一言で言えば「奈良時代を背景にした“時代モノ”の小説」ということにしかならないと思う。が、その「一言」に収まらないような、「憑かれる」かのように嵌ってしまうような側面も在る。
余り経験も無いことであるが、本作に関しては「憑かれる」かのように夢中で読み進め、ふと顔を上げて、作中で展開している様々な出来事が「小説の作中世界、更に古代の出来事」と改めて考え、ふうっと息を強く吐きながら安堵するような、そういう按配でもある。
主要視点人物の名代(なしろ)と諸男(もろお)とだが、恐るべき疫病の流行による大混乱という中、各々に変わって行く。2人が各々に自身の中の「闇」と「光」に向き合って行くということになる。そこが本作の肝であろうが…
「8世紀前半の寧楽(なら)」という、本作を読んでいる時間や空間からは遠く遠く隔たった場所で展開する、なかなかに凄惨な状況であるが、何か「変に胸に迫る」というように感じた。
疫病で夥しい死者が発生しているという中、色々な意味での“不寛容”が拡がり、それが混迷に拍車を掛けてしまうというような展開が見受けられるのだが、そういう辺りが「偶々読んでいるフィクションの小説」でありながら、何処となく「妙なリアリティー」を感じた。
文庫本としては未だ新しい本作である。一寸、御薦めだ。
Posted by ブクログ
天平時代の奈良を襲う天然痘の猛威を、主に悲田院や施薬院で働く下級武士や庶民を通して描いている。食欲が無くなる程のグロテスクな状態を淡々と乾いた文章で表しているので何とか読み終えた。パンデミックの中で、人間の持つ二面性やエゴ、集団心理など考えさせられた。
読み終えた後で気がついたが、今作品は2017年上梓されたものらしい。その後の世界を襲ったコロナの極限状況を彷彿させると言うか、そのままを予言しているかの様。そう言う意味でも凄い作品だった。
Posted by ブクログ
知り合いから勧められて読み始めたが一気読みしました。奈良時代の天然痘のパンデミック…
今の時代にあまりにもリンクし過ぎて戦慄を感じざるおえない…
医師の使命感…市井の人々…色々な思いやそれぞれの行動が交錯して一級の時代小説に仕上がっている。かなり読み応えがありました。
Posted by ブクログ
天平7年(735年)から同9年(737年)にかけて大流行した天然痘は首都・平城京(奈良)でも大量の感染者を出し、国政を担っていた藤原4兄弟も相次いで死去した。日本の政治経済や宗教が大混乱に陥り、後の大仏建立のきっかけとなる未曾有のパンデミックであった。
本書はその混乱の中、病の蔓延を食い止めようとする献身的な医師、偽りの神をまつりあげ混乱に乗じて銭をかき集める才覚者、周囲の者を押しのけて自分だけ生き長らえようとする者などパニック時の人間の行動を生々しくドラマチックに描き出し、直木賞候補作にもなっている。
主な舞台となるのは、光明皇后が設立した「施薬院」といわれる庶民救済施設で、怪我や病気で苦しむ貧しい人たちに施薬・治療を行い、薬草園も備わっていた。
中心となる人物は、施薬院において、金や出生に興味を持たず危険も顧みず懸命に働く町医師・綱手、仕事に疑問を持ちながらも手伝いとして働く下級官僚・蜂田名代ら。
加えて、努力して皇室の侍医を務めるほどになりながら、同僚の妬みや企みにより無実の罪で投獄され、地獄の苦しみを味わい、医師が信頼できなくなった猪名部諸男の物語が絡む。
感染力が尋常でない天然痘に対して、講じられるのは、薬用植物を煎じた薬のみ。化学薬品や抗生物質などない世界。しかし、隔離、うがい、手洗いを大事にするといった基本的な対処はコロナ禍の今と変わらない。また、人と人との縁や信頼、理性すら破壊し、社会の奥底に潜む差別感情を助長し、人の世の秩序まで打ち砕く様子も形は違えど、今とダブるところがある。
パンデミックに出現する善きも悪しきも包含した人間の性を物語を通して味わえる。コロナ禍の今こそ賞味してみる価値のある本だと思う。
Posted by ブクログ
藤原氏の大きな危機を招いた天平の天然痘の大流行を描いた作品である。
単行本から文庫化するのを待っていたのだ、まさか、コロナという新たな病のパンデミィック下で読むことになろうとは皮肉なものである。
舞台は二つ。一つは貧しい人々を受けいれ治療している施薬院で不満を抱えながら働く下級役人名代の行く道のり。
もう一つはかつて侍医として帝に仕えていた医師である諸男の選ぶ道のり。
二人を囲む病は暴力や詐欺を生み出して、病以上に人々を苦しめる。
現代も奈良時代も変わらない人の浅ましさ。だか、それ以上の気高いものもある。
今、火定にある世界も同じように、大事なものを見失わないことを切に思う。
Posted by ブクログ
時は天平年間。誰であろうと区別なく人を喰らい尽くす感染症が海を渡ってやって来る。次々と命果てる数多の患者を前に無力感に苛まれながらも自らの使命と治療に当たる医療従事者たち。恐怖と絶望感に翻弄され平常心を失う民。無論貴族も例外ではない。秩序が崩壊する京の陰惨な光景を直截的な表現で淡々と描かれた作品に全身が粟立つような臨場感を体験した。理性と感情のガチンコが本書の面白さのひとつと思う。語彙力を試されるような文体も魅力。
Posted by ブクログ
字が大きいので早く読み終わるかなと思いきや、人名や役職や物の名前などが昔風なので読みづらい。
最初は文句ばっかりの兄ちゃん。疫病を通して色んな経験をしながら、「医者とは何か」「人の死の意味とは」みたいなことを考えるようになっていく。
予想外の展開やどんでん返しみたいな盛り上がりはない。だけど話は現実味があり上手くまとまってるし、冤罪で捕まって捻くれて拗らせてるお爺ちゃんの復讐(?)も上手く行きそうだからスッキリと読み終えられた。
でも読み返すことはないかも…。
Posted by ブクログ
天平の時代の天然痘パンデミックの話
これが出版されたのはコロナパンデミックの前
起こる事態が想像できすぎて辛い。
よく生き残って今の命に繋げてくれたなと思う、先祖様。
Posted by ブクログ
天平の平城京で巻き起こった
天然痘パンデミックの話。
本望でなく医療に従事している名代と
志を政治に翻弄され
医者としての役目を放棄した諸尾。
ふたりを軸に都の混乱が
どうやって広まっていったのか描かれる。
どのキャラも二面性があって
諸尾を詐欺に引き込む有須は悪党だけど
同房だった虫麻呂を見捨てないし
懸命に治療を続ける施療院の関係者でも
いざ自分が罹患するかもと思ったら
恐怖で逃げ出す。
さまざまな人間の業があらわになって
しんどい展開ではあったけど
そんな中で生きていくことの力強さも
感じられた物語でした。
Posted by ブクログ
奈良時代の天然痘のパンデミックのお話でコロナ禍の今と通じる部分があった。見えない恐怖に対してパニックになり、何かにすがろうとしたり、何かを悪者にして攻撃したりする大衆心理が、グロテスクな表現で描かれている。医者の矜持も素晴らしいと思った。
Posted by ブクログ
パンデミックによって浮かび上がる、人間の光と闇。これほどの絶望に、人は立ち向かえるのか。
疫病の流行、政治・医療不信、偽神による詐欺……絶望的な状況で露わになる人間の「業」を圧倒的筆力で描き切った歴史長編。
Posted by ブクログ
Yちゃん布教本
今まで天平ものを読んできたけど華やかなやつ
これは…グロい…すっ飛ばして何とか心を保ってます
読み休憩しながら、平和を感じてます
Posted by ブクログ
目に見えない疫病の恐怖。そして死と破滅が隣り合わせの中、人は何を見出すのか。奈良時代の平城京を舞台にパンデミックを描いた歴史小説です。
庶民相手に多忙を極める施薬院の仕事に嫌気が差していた官人の名代は、同僚と薬の買い付けに向かった市で、高熱で倒れる若い男を見かける。そしてその男を看病した、諸男という男には、前歴があるらしいが……
その後、高熱が続いた後、一端熱が下がる病が、都のあちこちで発生。それはかつて国を恐慌に陥れた天然痘の流行の始まりだった。
ストーリーの運び方がとにかく上手だった。静かに始まった異変が徐々に広がり、都を地獄に変えていく。その過程で容赦なく描かれる人々の運命の末路。発疹に全身を侵される人。幼い子供たちへの感染。死を覚悟した人たちと、それをただ見送る事しかできない名代たち。
病魔の過酷さと、名代たち医療関係者の奮闘が物語の片輪を担います。そしてもう一人、物語の中心人物となるのが猪名辺諸男。元は地位の高い医師だった彼だが、同僚の嫉妬から無実の罪で獄舎へ送られることに。
この部分の描写も壮絶。食事や衛生環境も劣悪で、命も顧みられない場所でなんとか生き抜く諸男。彼の中で膿んでくるのは、自分を陥れた同僚、裏切った恋人、そして世間全てに対する復讐心。恩赦により獄舎から釈放された諸男は、天然痘が流行り始めると、獄舎で知り合った宇須や虫麻呂と一緒に、病気に効くというお札を民衆に売りつけ始めます。
こうした諸男の半生と、そして真っ黒な心理描写は、病の描写以上に読みごたえを感じました。
致死率の高い病が流行し、自分の命も危険な中、施薬院の仕事を辞めようとしていた名代が、施薬院の頼れるベテラン医師、綱手の懸命な行動や言葉によって、徐々に何のために生きるか、どう生きるべきかの道を見出していく。
一方で世間への復讐心に燃える諸男は、徐々に宇須の狂気に引き込まれていく。そして宇須は、天然痘は新羅から持ち込まれた、と民衆を焚き付け、興奮した民衆は暴動を起こし、外国人を襲い、略奪や暴力行為を始め……
物語は天然痘の恐怖だけにとどまらず、人間の復讐心、恐怖心、そして暴走を浮かび上がらせます。復讐の炎が自らの手を離れ、手の付けようがないほど都に燃え広がっていく中、諸男の心中には、復讐心以外の感情が徐々に頭をもたげてくる。
そして最終章。身を燃やすほどの復讐心を抱えた諸男に訪れた運命。そして多くの死に触れる中で、名代がたどり着いた真理。そこに続くまでのストーリー構成に力があり、なおかつ丁寧だったので、壮絶な感情も物語も、最後にはすとんと、自分の中に納まりました。
病が浮かび上がらせる人の業とそして光。タイトルに使われている仏教用語『火定』の意味も、読み終えると生と死の概念を超えて、人の営みが歴史の中で綿々と続いていくことを感じさせる、印象的なものに変わります。