澤田瞳子のレビュー一覧
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天然痘が猛威をふるい、多くの人々が病に伏し、亡くなっていく。なのに、治療法が見つからない。そのような状況下、寧楽の都はパニックに陥っていく。
そして、偽りの神を信じた人々が、そそのかされ、略奪し、外国人の命を奪っていく。
でも、そのような中にあっても、理性を失わず、医者として人のために尽くす綱手の生き方、考え方に深い感動を覚える。
本の最後に書かれていた「彼岸よりの慈雨」という言葉が心に残っています。
この本で描写されていたことは、「神も仏もいるものか」って思っても仕方のないような状況。
でも、「彼岸よりの慈雨ではあるまいか」と主人公が呟いたように、慈しむ神は確かにいるのだと、この本を -
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本作を敢えて一言で言えば「奈良時代を背景にした“時代モノ”の小説」ということにしかならないと思う。が、その「一言」に収まらないような、「憑かれる」かのように嵌ってしまうような側面も在る。
余り経験も無いことであるが、本作に関しては「憑かれる」かのように夢中で読み進め、ふと顔を上げて、作中で展開している様々な出来事が「小説の作中世界、更に古代の出来事」と改めて考え、ふうっと息を強く吐きながら安堵するような、そういう按配でもある。
主要視点人物の名代(なしろ)と諸男(もろお)とだが、恐るべき疫病の流行による大混乱という中、各々に変わって行く。2人が各々に自身の中の「闇」と「光」に向き合って行くとい -
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「7世紀の終わり頃から8世紀に切り替わるような頃」というのは、日本史では「持統天皇から文武天皇の時代」というようなことになる。現在の奈良市に在った平城京に遷都する前の、現在の橿原市に在った藤原京、読んだばかりの小説では推定される当時の呼称の新益京(あらましのみやこ)が築かれて日が浅い頃のことである。
本作の主要視点人物は、阿古志連廣手(あこしのむらじひろて)(=作中では主に「廣手」)である。一部は讃良大王(さららのおおきみ)(=作中では主に「讃良」)となっている。
因みに讃良大王(さららのおおきみ)というのは女帝の持統天皇である。現在でも知られている「〇〇天皇」というのは「諡号」というもので没 -
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時代が明記されていない作品もあるものの、おおむね古代~平安時代あたりが舞台でしょうか。
能楽の名曲からインスパイアされた作品が並ぶ短編集です。
もちろん元ネタは知らないものばかりでしたが、能楽の名曲が基底にあるとはいえ、どれも絶妙なひねりを加えている印象を受けました。
本書は貧しい立場に置かれた人々が主人公となっているものが多いです。
例えば表題作はかつて貧しさゆえに親から売られた少年たちの物語です。
稚児という立場を受け入れ、したたかに日々を生きる少年と、稚児という立場に馴染めず、周囲からいじめをうけている少年。
ある日前者の少年の元に、自分を捨てた父親を名乗る男が7年ぶりに会いにくるの -
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ネタバレ奈良時代、三人の采女たちの青春群像劇であり、難しく弱い立場で生きねばならない彼女たちの、意思と強さの物語。
宮人である彼女たちの、現代の会社勤めに通じるような人間関係や様々な縛り、男女の差、その中でもがきながら友情を育む様がよく、終盤での大きな権力にしたたかに舌を出して守るべきものを守る姿に感動した。というか、素直におもしろいし泣ける!
そして古代史専攻の作者のこと、時代考証もしっかりしていて勉強になる。特に彼女たちのモデルがいて、その記録に触れ、作品がまた広がる感じがよい。
(その後の大事件や疫病を思うと……な部分もあるけどそれも含めて) -
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友人に「絶対に好きだと思う」とオススメされた本。
めちゃくちゃおもしろかった!
天平の時代
栄華を極めた藤原四兄弟をもおののかせ、
都の京都をはじめ、日本国中を揺るがせた天然痘
その病と闘った医師、
疫病の恐ろしさから混乱する人々
さらにその恐怖に乗じて国内を騒がそうとする人々
死に至る病に対面した時、不条理な死に取りつかれた時、愛する人を成すすべもなく奪われた時、人はその死に何を思うのか?そして病気から救えなかった人々への医師たちの葛藤と思い…
コロナ禍で混乱する現代にも通じる作品
今だからこそ読みたい作品!!
天然痘を恐れ隠遁生活を送る比羅夫の
「お気を付けくだされよ。疫病の流 -
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奈良時代に猛威をふるった疫病とたたかう医師ら。
重すぎて読みにくいかと思ったけれど、力強い筆致に引き込まれ、感動しました。
聖武天皇の御世。
都の施薬院に勤める名代(なしろ)は、病人の世話に飽き、出世の可能性がないことを嘆いていました。
上司の綱手は治療に打ち込む良心的な医師ですが、思わぬ疫病がはやり始め、打つ手に困るほどに。
一方、侍医だった諸男は罪を着せられて、この時期に獄にいました。運命に翻弄されることになります。
皇后の兄である藤原家の四兄弟が権勢をふるっていたのが、天然痘に襲われたら無力で、つぎつぎに命を落としてしまう。
かと思えば、この機に乗じて怪しげな札を売り出す宇須という男 -
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奇矯な絵で人々を魅了した伊藤若冲。
取憑かれた様に彼を作画にのめり込ませるのは、贖罪の思いなのだろうか。
彼を憎み、贋作を描き続ける義弟・弁蔵に描かせるものは激しい憎悪である。
若冲は弁蔵に追われ、弁蔵は若冲を追い、さながら光と影のように、または撚り合わさった縄のように存在する、二人の絵師と、作品たち。
知らぬ間に、お互いがなくてはならない存在となっていったのではないか。
長い相克の末に、理解に似た境地に至ったのではないか。
影から見つめる、若冲の妹・志乃の視点だが、兄に寄り添い、弁蔵を慕い、「見届ける者」として確かな存在感がある。
若冲を失った弁蔵の慟哭は悲しいが、二人の絵師の長い愛憎を浄化 -
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ネタバレ古代日本史の本というのをあまり読んでないので、他の作品とは比較できないが、この本は面白かった。戦のシーンはほとんど出てこない政争劇なのだが、適度に緊張感があり登場人物たちの描写も分かりやすくて、ボリュームやテーマの割に読みやすい。
持統天皇以前まで、天皇ではなく大王(おおきみ)であったこと。そしてその時代まで日本ではなく倭であったこと。
聖徳太子が小野妹子に託した文書が有名すぎて、その影響が大きいのだが、中央集権制という意味で日本が真に国家の体制を整えたのは、大宝律令が出来て以降だということが良く理解できる小説。
国家の基盤となる法律があってこその法治国家、そしてその国家には有能な官僚がつ