あらすじ
仏画、絵巻、浮世絵――美に魅了された人々の営みを描いた歴史小説集
六十路を越した老境の絵師・喜平治(宮川一笑)は、肉筆美人画の名手・菱川師宣の曾孫である姉弟と知り合う。絵描きを志す弟の伊平の面倒を見ることになった喜平治は、幼いながらも確かな筋の良さに感嘆するが、折しも町絵師の宮川一門と表絵師の狩野家の間で諍いが起きてしまい……。(表題作「しらゆきの果て」)
鎌倉、戦国、江戸、幕末
時代と歴史を超えて、
人々を狂わせ、神仏さえも惑わせる、
あらゆる「美」の真髄を描く5つの物語
装画/原裕菜
装幀/長崎綾(next door design)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
時代時代に生きた絵師の短編集。直木賞作品「星落ちて、なお」でも素晴らしかった作品たちの表現に想像力がかき立てられる。「輝ける絵巻」の白河院が作った源氏絵巻、目にしたいものだ。
Posted by ブクログ
短編集。ほぼ全てに絵師が出てくるが、語り手は様々。美しい文章で綴られるのは時代に翻弄されながらも自分らしく生きようとする姿が多かったような印象。
「さくり姫」
頼朝の妹、有子は政子や政治にその身が巻き込まれるとさくり(しゃっくり)が激しく出るのでさくり姫と呼ばれる。そんな有子の夫が京都守護となり、兄が秀でた絵師である基清に仕事を依頼したため、彼女を知り、政子を知る。自分の仕事も見つめる。
「紅牡丹」
多聞山城に人質として九歳で入った苗は、母から渡され、立派な花をつけていた牡丹の苗が、いつまでもたっても花をつけないことが気がかりだった。しかし、花をつけないことには深い理由があったのだ。
「輝ける絵巻」
1654年、京の貴族は雅の道を極めることで活路を見いだしていた。左近衛中将・李賢は源氏絵の完成に財産を使う正体不明の宗連を身分を下に見ながらも面白く感じていて、さらに彼から見せられた焼失したと思われる絵巻を我が物にしたく、彼の要望に答え、色々無理しながら貴族しか見られないようなものを融通したりする。東福門院和子がこのお話の中で重要な役割果たす。
「しらゆきの果て」
菱川師宣の行方を探す宮川長春の弟子喜平治。探し当てたものの、孫娘は絵師を嫌い、貧乏なのに弟が絵師になりたがっても長春のところにさえいかせようとしない。そんな家族と交流しているとき、力のある絵師から回された仕事(仕事の時も嫌な扱い受けたのに)の対価が払われないことが原因で大きな事件が起きる。
「烏羽玉の眸」
大和国山辺郡、布留社の寺では、譲位の声を聞き、院主が還俗し、神職とならんと住職全員に鹿の汁を無理やり食べさせようとしていた。二十歳の寺男、八太吉の目線から、用意したこじかや少し前に時代に乗り遅れ時勢の悪さで殺された絵師、式部のこと、彼を悼み、還俗に断固反対しようとした僧、舜叡などの話。
Posted by ブクログ
仏画、絵巻などをメインにした、5篇からなる歴史短編集。鎌倉、戦国、江戸、幕末と時代の移ろいの中でも変わらない芸術を突き詰める其々の主人公の哀しさが切なかった。表題作のしらゆきの果ても良かったが、9歳で松永久秀の人質となった苗を描いた紅牡丹が好きだった。