澤田瞳子のレビュー一覧
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レビューに入る前に少しばかり前置きを。
以前読んだ『咲かせて三升の團十郎』にて、歌舞伎など娯楽全般を取り締まった南町奉行 鳥居耀蔵。『咲かせて…』ではさすが團十郎一座の天敵とだけあって、話し方は陰湿、目つきや顔色もとことん悪かった。舞台であれば、青い隈取りが施されているに違いない…
しかし意外にも、(團十郎の他に)読後わが心に留まったのは鳥居耀蔵だった。気になって調べた末、晩年の彼が登場する本書にヒットした…というのが経緯である。
計6話がおさめられており、いずれも1話完結型。タイトル及びストーリーは全て能や狂言の演目にちなんでいる。あれだけ嫌悪していた娯楽に全話丸ごと関わるのは、見方によ -
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飛鳥時代に生きた、額田王(ぬかたのおおきみ)を描く。
「大海人王子(おおあまのみこ)の妻となり、十市王女(とおちのひめみこ)を産む」
という、日本書紀の確実な記録のみを尊重し、澤田瞳子の額田像を作り上げている。
額田をめぐって、天智・天武が三角関係だった、とか、絶世の美女だった、とか、カリスマ歌人だった・・・というのをあたかも史実のように言う人もいるが、実は全てうわさや憶測が後から作り上げた像だ。
この作品の額田は、大海人と離婚したあと、宝女王(斉明天皇)、葛城王子(天智天皇)と、2代の大王(おおきみ)に宮人(くにん)として仕えた。
今風に言うと、シングルマザーのキャリアウーマンだ。
葛城に -
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頼れない国
感染病、パンデミックに対する藤原時代の官民の動き。現代と変わらず、国を司る医事薬事等は病人から退避、健闘するのは庶民の医者と看護する下働き者だけ。現代で風で言うならば国から補助金をもらっている医療機関はほんの一部が治療するだけで、国民が頼れるのは民間の医者と看護婦だけだ。さらに最終的な感染病に対する処方箋は「自己予防対策」しかないと言うことだ。
出自、コネで出世、後は競合他者を排除すれば例え学がなくとも頂点に立てるのが現代社会の出世の道だ。周りには生まれた時から大臣などと言われた輩もいるだろうが果ては中身の無い薄い出世欲しか無い人間になるだけとなる。 現代、政治家を見ているとまさに -
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江戸時代に京都で活躍した画家の生涯。物語の根幹を成す「妻の自死」が作者の創作によるところに小説の自由さを感じる。確かに300年も前の画家の生活の記録などは残っているはずもないものの、同世代に活躍した画家達を上手くかけ合わせつつ、人間、若冲いきいきと描いています。
実在の市川君圭を生涯の宿敵、盟友とするところも「鳥獣花木図屏風」から着想を得たのでしょうね。
少し違和感を感じたのは「つくも神」の章で、半次郎が綿高倉市場を潰す暗躍に立ち向かう若冲の章、なんだからしくないなぁと感じるとともに物語が横道に逸れる感があった。
機会があれば作者の絵画を鑑賞したいです。 -
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東大寺造仏所で働く人々のために飯を作る炊屋(かしきや)の炊男(かしきおとこ)、宮麻呂。
客である造仏所の働き手たちのために、自ら材料を集めに回り、少しでもうまい飯を提供する。
ぶっきらぼうだが面倒見がよい彼の周りには、多くの人々が集まってくる。
近江の国から仕丁として働きにきた真楯もその一人だ。
真楯は時々宮麻呂の仕事を手伝いながら、次第に宮麻呂の過去を知ることとなる。
その過去には、八十歳を超えた大徳、行基が関わっているらしい。
まず、大仏建立という題材の設定が面白い。
金属を鋳る作事場の熱、大勢の働き手が飯を掻き込む炊屋の賑わい、奴婢小屋のにおい―ーこうした場面に、本当に立ち会っているよ -
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ネタバレ菅原道真については、教科書に書いてあるくらいのことしか知らなかったので、こんなに大人げない人だとは!と驚いた。(いや、これフィクションだし)
何しろ身に覚えのない罪で左遷されちゃったので、ひきこもる、人にあたる、物にあたる。
とてつもなく教養のある文人貴族じゃないの?
藤原氏全盛の時に、実力(教養)だけでのし上がってきた道真には、根回しとか、相手を立てるということがなかったのだろう。
真っ向から藤原氏とぶつかってしまい、分不相応な出世をよく思わない多くの貴族たちを敵に回し、冤罪で大宰府に流される。
大宰府への道中にかかる費用も一切本人負担で、一族はことごとく田舎に飛ばされ、孤独と憤懣でどうし -
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平安初期の後宮に仕える女官たち。
平安中期の、道長の時代辺りに材をとった小説はたくさんあるが、奈良時代を舞台にするものは初めて読む。
へえ、こんなもの食べてたんだ。
油飯って、割とおいしそう。
年老いた女官は光永寺という寺で隠居したのか。
女官の官舎に舎監がいるなんて、何か学校の女子寮みたいだなあ。
地方豪族の娘たちである采女たちと、都の豪族の娘たる氏女の対立なんて、いかにもありそうな…。
描かれる生活のディテールがやはり興味深い。
藤原家系譜でしか見たことのない藤原麻呂や房前。
ただの名前が、人に見えた瞬間を味わった。
本当は見目麗しい妹が采女になるはずだったのに、妊娠により「繰り上げ -
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菅原道真というと、天神様。
藤原時平の謀略で、無実の罪で太宰府に流され、失意のうちに亡くなった文人政治家。
そして、その死後、雷神となり、都を脅かした…。
しかし、それ以外、自分は何を知っているのだろう?
本作では、道真が太宰府に流されてからの日々が描かれる。
面白いのは、道真の目線ではなく、彼を迎え入れた太宰府の役人たちの側から描かれることだ。
中心的な視点人物の一人が、うたたね殿と見くびられる官人、龍野穂積。
道真は、太宰府に到着して以来、ずっとひきこもり、すさんだ生活をしている。
体を壊しでもしたら、不当な扱いをしたという誤解を与えかねない。
それを恐れた小弐小野葛絃の命で、道真の身 -
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天平7年(735年)から同9年(737年)にかけて大流行した天然痘は首都・平城京(奈良)でも大量の感染者を出し、国政を担っていた藤原4兄弟も相次いで死去した。日本の政治経済や宗教が大混乱に陥り、後の大仏建立のきっかけとなる未曾有のパンデミックであった。
本書はその混乱の中、病の蔓延を食い止めようとする献身的な医師、偽りの神をまつりあげ混乱に乗じて銭をかき集める才覚者、周囲の者を押しのけて自分だけ生き長らえようとする者などパニック時の人間の行動を生々しくドラマチックに描き出し、直木賞候補作にもなっている。
主な舞台となるのは、光明皇后が設立した「施薬院」といわれる庶民救済施設で、怪我や病気で苦し