澤田瞳子のレビュー一覧
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2015年に雑誌連載された作品らしいがテーマは実にタイムリー。
裳瘡(天然痘)が大流行し夥しい人々が亡くなりパニックに陥っていく寧楽(なら)の都を、施薬院で働く蜂田名代(はちだのなしろ)と冤罪により投獄されたことにより世を怨む元侍医の猪名部諸男(いなべのもろお)の視点を通して描く。
『病とは恐ろしいものだ、と名代は思う。それは人を病ませ、命を奪うばかりではない。人と人の縁や信頼、理性すら破壊し、遂には人の世の秩序までも、いとも簡単に打ち砕いてしまう』
正に今のご時世を表現している。時代が移り変わり医学や科学、技術の進歩があり手段は変わっても人の心の不安定さは変わらないのか。
出世コースから -
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ネタバレ藤原氏の大きな危機を招いた天平の天然痘の大流行を描いた作品である。
単行本から文庫化するのを待っていたのだ、まさか、コロナという新たな病のパンデミィック下で読むことになろうとは皮肉なものである。
舞台は二つ。一つは貧しい人々を受けいれ治療している施薬院で不満を抱えながら働く下級役人名代の行く道のり。
もう一つはかつて侍医として帝に仕えていた医師である諸男の選ぶ道のり。
二人を囲む病は暴力や詐欺を生み出して、病以上に人々を苦しめる。
現代も奈良時代も変わらない人の浅ましさ。だか、それ以上の気高いものもある。
今、火定にある世界も同じように、大事なものを見失わないことを切に思う。 -
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奈良時代の女官たちの働きぶり。
キャラ設定がわかりやすい歴史小説です。
1300年前の平城京、聖武天皇の御世。
宮廷を支える後宮には、多くの女性たちが働いていた。
表紙のイラストのようなキャラ設定で、読みやすい。
おっとりした若子が上京し、しっかり者の笠女、色っぽく可愛い春世と同室に。
3人とも10代後半で、地方の出身。
若子は出仕するはずだった妹の代わりに急遽仕事に就いたため、覚悟も準備も出来ていなかったが…
後宮には12の司(部署)があり、13歳から30歳までの女性が登用される。
地方の豪族出身だと采女(うねめ)になり、畿内の貴族出身の氏女(うじめ)とは身分の差があった。
総合職と一般 -
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ネタバレ持統天皇の治世、律令制の確立に奔走する者たちを描いた壮大な物語。概略だけを見れば地味なテーマではあるが、過去の遺産を捨てきれない古い勢力による反抗により話は国家を揺るがす大きな事件を生み出す。
主人公の廣手たちの行動が律令国家の未来への希望を原動力としている点が非常に気持ち良い。制度は作るだけでは不十分であり、その中で動く人間がよく理解し、柔軟に対応してこそ本当の価値を生み出す(413p)。今に通じるものもある。
ハイライトは廣手が兄の仇である大麻呂と対峙するシーン。諦観と後悔から自分を殺してみろと挑発する大麻呂に対し、廣手は兄の首を取るより国家に尽くすよう懇願する道を選ぶ(p403)。そ -
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ネタバレ主人公をはじめとした何人かの架空の人物、および『日本書紀』、『続日本紀』、『万葉集』、『懐風藻』に登場する(多分)実在の多数の人物(ただし、それらに名前しか出てこない人物も多い)が登場し(架空の人物もそれぞれの出自が史実や古代史の説などに基づいてます)、書紀や続紀などに記された史実を巧みに読み替えて想像した(つまり、史実の裏に別の真実があったという、史書のトリックを大胆に想像してます)、非常によくできた飛鳥時代末期が舞台の物語で、史実にはほとんど表れていない、ある3極の対立構造を想定して手に汗握る展開に持ち込みます(飛鳥時代にかなり知識がある方は「そうきたか!」とちょっと唸るかも)。
この作 -
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能の曲目を題材とした短編集。小説のタイトルだけでなく、能の曲目が記載されているので、時代小説などを読んだことがない人は、あらかじめ曲目で検索して、あらすじを確認してから読んだ方が良い。小説は完全に曲目と一緒ではないので、あらすじを読んでいてもネタバレにはならない。
作品としては、身分の差や貧富の差、様々な立場の中で人が生きている中、富める者が幸せか、貴族は幸せなのか、教訓めいたものも示してくれる。人の優しさを感じる表題作の「稚児桜」、人の強さを感じる「猟師とその妻」、人の怖さを感じる「秋の扇」、人の執念を感じる「照日の鏡」など、様々な角度で読者を楽しませてくれる。 -
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平城京を襲う天然痘の発生から収束までを2つの目線から描いた物語。1,300年前の話なのに今と同じ現象が起きていたという点は学術的にも歴史的にも面白い。また、名代・師男の「医師」という職業に対する認識の変化や成長が、グロテスクで地獄絵図の環境下で爽やかに描かれている。
★現代との共通点
①変な噂やデマが流行る。
→物語では黄虫信仰、現代ではトイレットペーパー騒動やライオン脱走など。
②誰かが隠すことでパンデミックに繋がる。
→物語では新羅からの使節が隠したせいで一気に広がった。
③恐怖に駆られた異常行為
→物語では異国人の排除、現代でも国際政争に走りがち。
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「7世紀末。迫り来る唐・新羅に立ち向かう女王がいた。」という帯に惹かれ手に取った。なるほど歴史の教科書に何度も出てきた大化の改新や大宝律令等も、このような深遠な意味があったのかと驚いた。しかも、令和で一躍脚光を浴びた梅花の宴の作者で万葉集の編集に大きく関わった大伴旅人・家持親子が、「倭国」「大王」に代わる「日本」「天皇」という表現を使い始めたという。天智・天武からの改革を受け継ぎ外敵に立ち向かえる日本国の礎を完成に導いた持統天皇と腹心の忍裳という二人の女性の真摯な生き方にスポットを当て、遥か遠い古代日本の壮大なロマンが描かれていて楽しい1冊でした。この一連の事件こそが所謂「大国主の国譲り」「日
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能の曲目に題材をとった短編集ということで、サブタイトルに、元になった曲目が添えられている。
生で能を観たことが無いけれど、興味はあって、少し本など読んだことはある。
個人的に能のイメージは、途中で世界が一転するということ。
目の前の老婆がいきなり美女の霊になったり、人が精霊の姿を現して舞ったりする。
現実が、いきなり夢幻の世界に変わる。
もともと、美しい能面の下はおじさんの顔だったりして、外と中身は違う世界なのだ。
この本の物語も、そういった、“変わる”"本性を現す"瞬間がある。
時代を映してか、親子別れの話も多い。
子育てに向かない女、夫には向かない男、稚児にむかない -
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連作短編集?という気もしなくもない。
若冲の隠居の頃から、八十を超す高齢での死の後までが、間歇的に描かれている。
短編間では描かれる時間に少し間があるが、その間何があったのかはわかるように描かれている。
物語の結末は、こう言っちゃ何だが、半ばくらい読んでいくと見えてくる気がする。
けれど、その結末に向かって、じっくり、丁寧に描いていくのがこの作家の特質yのような気がする。
周到な書き方はは「枡屋源左衛門」から「茂右衛門」を経て、「若冲」と呼び方を変えていくことにも表れている。
こういった細かい事実が、説得力を生んでいる。
京都の老舗の野菜問屋の主人であった若冲。
生来の弱気から、母にいびられ -
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ネタバレ澤田瞳子にしては珍しい時代小説。とはいえ、舞台が京都となれば彼女の土俵という感じ。関西在住、京都にもほど近いところに生活圏をおく俺にとって、出てくる地名や方言が身近に感じられるのが嬉しい。
人情モノでミステリー仕立てではあるんだけど、あっさりした感じ。所謂江戸市井人情物に比べたらベッタリ感はなく、このジャンルが好きな人にはちょっと薄味で不満が残るのかも。俺はべたつきが少ないナチュラルは好感が持てたが。
解説にある「驚異の十割バッター」はおおげさにしても、作者の作品で既読作品に大外れがないのは事実。日本の歴史のどこをとっても小説の舞台にできるってのは凄いなぁ。澤田ブランドさすがである! -
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ネタバレ多くが明らかになっていない江戸時代の画家、伊藤若冲の生涯を、独身ではなく妻がいたのではないか仮定して物語られる。
色彩豊かでありながら、テーマや絵の雰囲気になんとなく影があるように語られる理由を、妻がいたこと、その妻が自死したこと、その妻の親族に恨まれること、などを背景に結びつけることで妙に納得させられてしまう作者の筆力に圧倒される。
若冲の主観的な描写でなく、若冲が死ぬまで助手となって働く妹の目線で、それがものすごく客観的に語られることによって、より作品の信ぴょう性を増しているように感じる。
完全なる創作作品でありながらあたかも史実であったかのように錯覚してしまうほどの若冲の背景のテー