澤田瞳子のレビュー一覧
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菅原道真というと、天神様。
藤原時平の謀略で、無実の罪で太宰府に流され、失意のうちに亡くなった文人政治家。
そして、その死後、雷神となり、都を脅かした…。
しかし、それ以外、自分は何を知っているのだろう?
本作では、道真が太宰府に流されてからの日々が描かれる。
面白いのは、道真の目線ではなく、彼を迎え入れた太宰府の役人たちの側から描かれることだ。
中心的な視点人物の一人が、うたたね殿と見くびられる官人、龍野穂積。
道真は、太宰府に到着して以来、ずっとひきこもり、すさんだ生活をしている。
体を壊しでもしたら、不当な扱いをしたという誤解を与えかねない。
それを恐れた小弐小野葛絃の命で、道真の身 -
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天平7年(735年)から同9年(737年)にかけて大流行した天然痘は首都・平城京(奈良)でも大量の感染者を出し、国政を担っていた藤原4兄弟も相次いで死去した。日本の政治経済や宗教が大混乱に陥り、後の大仏建立のきっかけとなる未曾有のパンデミックであった。
本書はその混乱の中、病の蔓延を食い止めようとする献身的な医師、偽りの神をまつりあげ混乱に乗じて銭をかき集める才覚者、周囲の者を押しのけて自分だけ生き長らえようとする者などパニック時の人間の行動を生々しくドラマチックに描き出し、直木賞候補作にもなっている。
主な舞台となるのは、光明皇后が設立した「施薬院」といわれる庶民救済施設で、怪我や病気で苦し -
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ネタバレ連作短編集の形式で、謎に満ちた絵師・若冲の生涯を描く。
京都の青物問屋・桝源の跡取り息子でありながら家業を顧みず、一室に籠ってひたすら絵を描く源左衛門(若冲)。
同じく家の中で妾腹の子として疎んじられ、ひっそりと若冲の身の回りの世話をする妹・志乃。
そして、若冲の妻・お三輪が自死したのは、桝源の人々のいじめのせいと考え、絵に没入してお三輪を庇うこともしなかった若冲にも深い恨みを抱えている義弟・源蔵。
独自の奇抜な画題や技法を突き詰めながら絵を描き続ける若冲と、贋作を描くことで若冲を貶めるために絵師となった源蔵(君圭)は、作品を通じて互いの存在を強烈に意識し合い、心をたぎらせ合う。
澤田 -
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「若冲」と言えば、多彩な色彩とその美しい彩色を思い出す。「動植綵絵」は、その多色彩もさることながら、写体の生々しさの中に実物とかけ離れた幻想的な鶏、鳳凰、草花などに見ているとその迫力に疲れを感じる時がある。
本作の第一章のタイトルとなっている「鳴鶴」は、以前行った特別展示会で、中国の文正の「鳴鶴図」が原画との説明があった。
色彩にしろ構図は似ているとしても私には全く違う鶴にみえる。鶴と言えばのイメージカラーの紅白も全く異にする白と赤である。実物とかけ離れたその姿は、意匠性を感じる。
これは、フランスの印象派ならぬ日本における印象派ではないかと個人的には思っている。
歴史小説として、若冲の生涯 -
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2015年に雑誌連載された作品らしいがテーマは実にタイムリー。
裳瘡(天然痘)が大流行し夥しい人々が亡くなりパニックに陥っていく寧楽(なら)の都を、施薬院で働く蜂田名代(はちだのなしろ)と冤罪により投獄されたことにより世を怨む元侍医の猪名部諸男(いなべのもろお)の視点を通して描く。
『病とは恐ろしいものだ、と名代は思う。それは人を病ませ、命を奪うばかりではない。人と人の縁や信頼、理性すら破壊し、遂には人の世の秩序までも、いとも簡単に打ち砕いてしまう』
正に今のご時世を表現している。時代が移り変わり医学や科学、技術の進歩があり手段は変わっても人の心の不安定さは変わらないのか。
出世コースから -
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ネタバレ藤原氏の大きな危機を招いた天平の天然痘の大流行を描いた作品である。
単行本から文庫化するのを待っていたのだ、まさか、コロナという新たな病のパンデミィック下で読むことになろうとは皮肉なものである。
舞台は二つ。一つは貧しい人々を受けいれ治療している施薬院で不満を抱えながら働く下級役人名代の行く道のり。
もう一つはかつて侍医として帝に仕えていた医師である諸男の選ぶ道のり。
二人を囲む病は暴力や詐欺を生み出して、病以上に人々を苦しめる。
現代も奈良時代も変わらない人の浅ましさ。だか、それ以上の気高いものもある。
今、火定にある世界も同じように、大事なものを見失わないことを切に思う。 -
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奈良時代の女官たちの働きぶり。
キャラ設定がわかりやすい歴史小説です。
1300年前の平城京、聖武天皇の御世。
宮廷を支える後宮には、多くの女性たちが働いていた。
表紙のイラストのようなキャラ設定で、読みやすい。
おっとりした若子が上京し、しっかり者の笠女、色っぽく可愛い春世と同室に。
3人とも10代後半で、地方の出身。
若子は出仕するはずだった妹の代わりに急遽仕事に就いたため、覚悟も準備も出来ていなかったが…
後宮には12の司(部署)があり、13歳から30歳までの女性が登用される。
地方の豪族出身だと采女(うねめ)になり、畿内の貴族出身の氏女(うじめ)とは身分の差があった。
総合職と一般 -
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ネタバレ持統天皇の治世、律令制の確立に奔走する者たちを描いた壮大な物語。概略だけを見れば地味なテーマではあるが、過去の遺産を捨てきれない古い勢力による反抗により話は国家を揺るがす大きな事件を生み出す。
主人公の廣手たちの行動が律令国家の未来への希望を原動力としている点が非常に気持ち良い。制度は作るだけでは不十分であり、その中で動く人間がよく理解し、柔軟に対応してこそ本当の価値を生み出す(413p)。今に通じるものもある。
ハイライトは廣手が兄の仇である大麻呂と対峙するシーン。諦観と後悔から自分を殺してみろと挑発する大麻呂に対し、廣手は兄の首を取るより国家に尽くすよう懇願する道を選ぶ(p403)。そ