澤田瞳子のレビュー一覧

  • 火定

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    鎌倉殿と同世代に奈良では、こんなことがおこっていたとは!
    見る方によって 事実もいろいろな捉え方ができる。
    勉強になった

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    2022年07月31日
  • 恋ふらむ鳥は

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    しきしまの大和の国は 言霊の幸わう国ぞ ま幸くありこそ

    額田王の物語。この壬申の乱は…
    大海人王子がこのように描かれるとは驚き。
    『天智と天武』をもう1度読み直そう❗️

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    2022年07月27日
  • 恋ふらむ鳥は

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    長い物語だし、古代のなじみ薄い時代の小説ですが登場人物が生き生きと人間らしく、生き方について自分ならどうするか考えさせられるなど、深く入り込める物語でした。

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    2022年07月09日
  • 若冲

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    江戸時代に京都で活躍した画家の生涯。物語の根幹を成す「妻の自死」が作者の創作によるところに小説の自由さを感じる。確かに300年も前の画家の生活の記録などは残っているはずもないものの、同世代に活躍した画家達を上手くかけ合わせつつ、人間、若冲いきいきと描いています。
    実在の市川君圭を生涯の宿敵、盟友とするところも「鳥獣花木図屏風」から着想を得たのでしょうね。
    少し違和感を感じたのは「つくも神」の章で、半次郎が綿高倉市場を潰す暗躍に立ち向かう若冲の章、なんだからしくないなぁと感じるとともに物語が横道に逸れる感があった。
    機会があれば作者の絵画を鑑賞したいです。

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    2022年07月03日
  • 与楽の飯~東大寺造仏所炊屋私記~

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    東大寺造仏所で働く人々のために飯を作る炊屋(かしきや)の炊男(かしきおとこ)、宮麻呂。
    客である造仏所の働き手たちのために、自ら材料を集めに回り、少しでもうまい飯を提供する。
    ぶっきらぼうだが面倒見がよい彼の周りには、多くの人々が集まってくる。
    近江の国から仕丁として働きにきた真楯もその一人だ。
    真楯は時々宮麻呂の仕事を手伝いながら、次第に宮麻呂の過去を知ることとなる。
    その過去には、八十歳を超えた大徳、行基が関わっているらしい。

    まず、大仏建立という題材の設定が面白い。
    金属を鋳る作事場の熱、大勢の働き手が飯を掻き込む炊屋の賑わい、奴婢小屋のにおい―ーこうした場面に、本当に立ち会っているような気分になる。

    東大寺の大仏は二回見に行った。
    恥ずかしながら、ただ、でっかいなあ、と思って見ただけだ。
    そこに故郷に残した家族を恋しがったり、上役とやりあったり、組織の理不尽に歯噛みをしたりした人々いたなどと想像することもなかった。
    そこだけでも、作家の想像力ってすごい、と思う。
    きっと今度大仏を見る機会があったら、見る目が変わっているはずだ。

    人物は大勢出てくる。
    その描き分けは大変なことだろうと思う。
    が、この作品ではしっかりなされていて、安心して読める。

    写経所のまだ若い経師である黒主は「僕は~です」といった話し方をする。
    奈良時代に?と、最初違和感もあったけれど、しかしキャラには合っている。
    真楯は宮麻呂に基本的には敬語で話すが、呼びかけは「宮麻呂」というのにも驚いたが、この時代はこんなものなのかもしれないと思ったりもする。

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    2022年04月17日
  • 泣くな道真 大宰府の詩

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    ネタバレ

    菅原道真については、教科書に書いてあるくらいのことしか知らなかったので、こんなに大人げない人だとは!と驚いた。(いや、これフィクションだし)
    何しろ身に覚えのない罪で左遷されちゃったので、ひきこもる、人にあたる、物にあたる。
    とてつもなく教養のある文人貴族じゃないの?

    藤原氏全盛の時に、実力(教養)だけでのし上がってきた道真には、根回しとか、相手を立てるということがなかったのだろう。
    真っ向から藤原氏とぶつかってしまい、分不相応な出世をよく思わない多くの貴族たちを敵に回し、冤罪で大宰府に流される。
    大宰府への道中にかかる費用も一切本人負担で、一族はことごとく田舎に飛ばされ、孤独と憤懣でどうしようもない気持ちはわかるけど、同行の7歳の娘と4歳の息子がいるんだから、もうちっと大人げを持てよ、と思ってしまう。

    が、大陸からの書画骨董がどこよりも早く手に入る博多津で、埋もれた骨とう品を発掘したり贋作を発見したりしているうちに、少しずつ生気を取り戻す。
    が、その中で道真は、今まで自分が見ていたものは本当の庶民の姿ではなかったことを知る。

    律令制度が形骸化しつつあり、国も地方も財政難。
    道端には飢えて死ぬ者が転がり、畑は耕すものもなく立ち枯れ…なんて実情は、都から視察に来るような偉い人には見せられない、隠さねばならないものなのである。
    ある程度体裁を整えた地方の窮状を見て、策を施し、それで満足していた己を道真は恥じる。
    そして、そんな世の中とは無縁とばかりに雅に現を抜かす朝廷の人々や大社大寺に怒りを覚える。

    さて、大宰府の窮状を救うために、横領品の横流しをするのはいけなくて、贋作製作はいいの?
    というような疑問を覚えつつ。

    私が気に入ったのは、大宰府の大弐(だいに・次巻のようなもの)である小野葛絃(くずお)です。
    いつもニコニコ温厚で、できる男風ではないけれど、いうべき嫌味はとことん鋭く、見ないふりして全てをご承知。
    好きだなあ、こういう人。うん。

    ひとつ不満は、道真があまり子どもと絡まなかったこと。
    この当時の父親がどの程度子どもと接するのかわからないけれど、ほぼほぼ子供と触れ合うシーンがない。
    だから隈麿のことはショックだったのはわかるけど、私もショックだったけど、でも違和感。

    あと、第四章のタイトルで予想はついていたけれど、恬子はやっぱりあの方でしたか。
    詳しくない時代の話でしたが、面白かったです。

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    2022年04月11日
  • 泣くな道真 大宰府の詩

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    歴史小説の醍醐味の一つに、史実では証明されていない同時期の人物の邂逅があげられる。
    今回楽しんだのは道真と小野小町のやりとりだった。
    現代以上にもののけや闇を恐れた平安人に恐怖を感じさせた菅原道真が、こんな気さくなおじさんだったと知ったらさぞや驚いただろう。
    話は面白く読みやすいのでお薦めできる一冊と思う。

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    2022年03月26日
  • 夢も定かに

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    平安初期の後宮に仕える女官たち。
    平安中期の、道長の時代辺りに材をとった小説はたくさんあるが、奈良時代を舞台にするものは初めて読む。

    へえ、こんなもの食べてたんだ。
    油飯って、割とおいしそう。
    年老いた女官は光永寺という寺で隠居したのか。
    女官の官舎に舎監がいるなんて、何か学校の女子寮みたいだなあ。
    地方豪族の娘たちである采女たちと、都の豪族の娘たる氏女の対立なんて、いかにもありそうな…。
    描かれる生活のディテールがやはり興味深い。

    藤原家系譜でしか見たことのない藤原麻呂や房前。
    ただの名前が、人に見えた瞬間を味わった。

    本当は見目麗しい妹が采女になるはずだったのに、妊娠により「繰り上げ当選」されてしまった十九歳の若子。
    官舎で笠女、春世という二人の采女と同室になる。
    笠女は、能筆で、男性と張り合える知性の持ち主。
    一方春世は美貌に恵まれ、大勢の男性と浮名を流している。

    若子は新参で彼女たちと比べても「何もない」。
    けれど、実直な勤務ぶりと持ち前の人情の厚さで、さまざまな困難を切り抜ける。
    やがて、権力者である藤原房前を恋人にし、さらに彼を利用するしたたかささえ身に着けていく。

    春世という人物が面白かった。
    いわゆる「女の武器」を使って世渡りする女性だ。
    自分の魅力に自覚的で、どう価値を最大化するかを知っている。
    そのため、彼女に言い寄る男は引きも切らず、女たちは彼女を「浮かれ女」扱いし、毛嫌いする。
    こんな人が身近にいたら、私も偏見を持って対するのかもしれない。
    でも、この作品を読んでいると、この人のことが嫌いになれないのだ。
    しかし、大貴族である藤原麻呂に生んだ息子を取り上げられ、権門に育つ幼い息子自身にも切り捨てられる。
    彼女の孤独さ、悲しみにもクローズアップしているからか?

    この本、本当に読むのが楽しかったのだが、最後に僭越ながら苦言を。
    帝の子を宿した志斐弖を、長屋王からも藤原家からも守っていかに宮中から逃がすか。
    物語は緊迫し、若子は恋人の房前さえも手玉に取ることとなる。
    これから、若子はどんな女性になっていくのかが楽しみになってきたところで、物語が終わってしまうのだ。

    この終わり方、どこかで見たようなー。
    あっ、同じ澤田さんの『泣くな道真』か!

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    2022年03月20日
  • 若冲

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    名だたる代表作の描写が想像を掻き立て、詳細を求めてネット検索してその作品を見ながら読んだ。設定が面白い。若冲の明らかに逸脱している作風に対する考察にストンと腑に落ちるものがあった。
    著者の作品を読むのは初めて。同志社大学で史学の修士号を取得されてるという著者ならではの作品はこれからも読んでいきたい。

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    2022年02月05日
  • 与楽の飯~東大寺造仏所炊屋私記~

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    奈良時代の仏像の造営現場を通して、当時の人々の様子や食べていたものを垣間見ることが出来る。仏像の話なのに、仏教でいうところの仏ではなく、市井の人の中の「仏」を描いているのがいい。

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    2022年01月10日
  • 満つる月の如し 仏師・定朝

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    ネタバレ

    平等院の阿弥陀如来像へと至る仏師定朝の軌跡を藤原道長全盛の時代の中で描く.延暦寺の僧侶隆範との関係,関わってくる貴族の横暴,国母彰子の苦悩,貧しい人々の救いなどたくさんの登場人物のそれぞれがそれぞれの苦しみに喘いでいる末法の世が現れている.読みながらとても息苦しく感じた.
    敦明親王の苦悩にみんなが同情しているが,この甘ったれの大人子供に腹が立って仕方なかった.みんなお前のせいだ!と言ってやりたい.

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    2021年10月21日
  • 若冲

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    なかなか味わい深い本で感想が難しい本です。まず、このタイトルが何を意味しているのか読むまで全く知らず。江戸時代の有名な画家だったのですね。その絵師、若冲の生涯を描いた連作短編ですが、この手の話を読むといつも、読みながら、思わずググってしまいます。今回も鹿苑寺障壁画とか、石峰寺とか、鳥獣図とか思わず調べてしまいました。自分の絵の贋絵を描き若冲を憎む義理の弟、そして憎まれることを糧に名作を生み出す若冲の物語を堪能しましたが、当人たちの心情は複雑で、正直難しく感じました。

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    2021年10月16日
  • 泣くな道真 大宰府の詩

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    菅原道真というと、天神様。
    藤原時平の謀略で、無実の罪で太宰府に流され、失意のうちに亡くなった文人政治家。
    そして、その死後、雷神となり、都を脅かした…。
    しかし、それ以外、自分は何を知っているのだろう?

    本作では、道真が太宰府に流されてからの日々が描かれる。
    面白いのは、道真の目線ではなく、彼を迎え入れた太宰府の役人たちの側から描かれることだ。

    中心的な視点人物の一人が、うたたね殿と見くびられる官人、龍野穂積。
    道真は、太宰府に到着して以来、ずっとひきこもり、すさんだ生活をしている。
    体を壊しでもしたら、不当な扱いをしたという誤解を与えかねない。
    それを恐れた小弐小野葛絃の命で、道真の身辺に侍る。
    やがて、博多津での唐物屋へ連れ出すことに成功するが、そこで道真は眼識を買われ、目利きとして雇われることになる!

    葛絃の妹、恬子(しずこ)も関わることになり、物語は起伏が生まれてくる。
    やがて、太宰府を揺るがす不正会計事件が発覚し、その解決に道真が乗り出していく。

    道真がとにかくいきいきしていて面白い。
    「~ぞよ」というキャラ語、初めて使われているのを見た(笑)のはともかく、泣きわめき、時に周囲を困らせ、好きな唐渡りの美術品を買いあさる。
    おとなしい人かと思っていたので、こんな道真像は新鮮だ。

    それから、やはりこの人らしいのは、官人の生活や、当時の人々の生活の様子を描いているところだろうか。
    のたれ死ぬ庶民を看取る僧侶の姿を見て、道真が衝撃を受けるところは、作品中でも最もドラマティックなところ。

    その後、道真は都に戻ることなく亡くなるはず。
    しかし、本作ではそこまで描かない。
    それによって、この作品はとてもさわやかで、力強い読後感を与えている。
    道真がその後、政治家として、さらに大きくなった、という、歴史とは異なる別の結末を想像してみたくなる。

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    2021年10月10日
  • 泣くな道真 大宰府の詩

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    奈良仏教史を専攻する作家が描いた太宰府へ流された後の道真さんの物語。本当にこんな風だったらいいな。有名な女性歌人も登場して、てんこもりで痛快。

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    2021年08月21日
  • 火定

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    天平7年(735年)から同9年(737年)にかけて大流行した天然痘は首都・平城京(奈良)でも大量の感染者を出し、国政を担っていた藤原4兄弟も相次いで死去した。日本の政治経済や宗教が大混乱に陥り、後の大仏建立のきっかけとなる未曾有のパンデミックであった。
    本書はその混乱の中、病の蔓延を食い止めようとする献身的な医師、偽りの神をまつりあげ混乱に乗じて銭をかき集める才覚者、周囲の者を押しのけて自分だけ生き長らえようとする者などパニック時の人間の行動を生々しくドラマチックに描き出し、直木賞候補作にもなっている。
    主な舞台となるのは、光明皇后が設立した「施薬院」といわれる庶民救済施設で、怪我や病気で苦しむ貧しい人たちに施薬・治療を行い、薬草園も備わっていた。
    中心となる人物は、施薬院において、金や出生に興味を持たず危険も顧みず懸命に働く町医師・綱手、仕事に疑問を持ちながらも手伝いとして働く下級官僚・蜂田名代ら。
    加えて、努力して皇室の侍医を務めるほどになりながら、同僚の妬みや企みにより無実の罪で投獄され、地獄の苦しみを味わい、医師が信頼できなくなった猪名部諸男の物語が絡む。
    感染力が尋常でない天然痘に対して、講じられるのは、薬用植物を煎じた薬のみ。化学薬品や抗生物質などない世界。しかし、隔離、うがい、手洗いを大事にするといった基本的な対処はコロナ禍の今と変わらない。また、人と人との縁や信頼、理性すら破壊し、社会の奥底に潜む差別感情を助長し、人の世の秩序まで打ち砕く様子も形は違えど、今とダブるところがある。
    パンデミックに出現する善きも悪しきも包含した人間の性を物語を通して味わえる。コロナ禍の今こそ賞味してみる価値のある本だと思う。

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    2021年08月07日
  • 若冲

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    ネタバレ

    連作短編集の形式で、謎に満ちた絵師・若冲の生涯を描く。

    京都の青物問屋・桝源の跡取り息子でありながら家業を顧みず、一室に籠ってひたすら絵を描く源左衛門(若冲)。
    同じく家の中で妾腹の子として疎んじられ、ひっそりと若冲の身の回りの世話をする妹・志乃。
    そして、若冲の妻・お三輪が自死したのは、桝源の人々のいじめのせいと考え、絵に没入してお三輪を庇うこともしなかった若冲にも深い恨みを抱えている義弟・源蔵。

    独自の奇抜な画題や技法を突き詰めながら絵を描き続ける若冲と、贋作を描くことで若冲を貶めるために絵師となった源蔵(君圭)は、作品を通じて互いの存在を強烈に意識し合い、心をたぎらせ合う。


    澤田瞳子さん、初読。
    もともと、若冲は、凄いと思いこそすれ、好きとは言い切れないところがあった。ちょっと偏執狂的というか…緻密に描き込まれた画面に、何か過剰なものを感じて。
    本作は歴史小説ではなくフィクションで、若冲の画業の謎に迫るもので、だから当然これが正解ですという事でもないわけだけれど…
    ああ、そんな悔恨と復讐の念にさらされていては、より深く深く画面の中にのめり込まなくてはいられなかったのかも…という説得力があった。

    そのふたりそれぞれの不器用な優しさ、温かさを知る志乃の存在が、普通の女として生きている安定感をもっていて、苦しい物語の中で、息継ぎのできる場面を作っているようだった。


    プロフィールを見ると、思いのほか若い作家さんなのに驚き。他の作品も読んでみよう。

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    2021年05月28日
  • 火定

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    奈良時代におこった天然痘のパンデミックを背景に、人の哀しい性や医療従事者の葛藤などを描いた作品。自分だけは助かろうと自己中心的になる人、混乱に乗じて一儲けしようとする人、デマや噂に翻弄されて理性を失う人など、色々な人が登場する。世界的なコロナ禍のいま読むと、似たような出来事が思い当ってリアルに思える。
    名代(なしろ)と諸男(もろお)のダブル主人公という感じで、二人の視点から交互に語られるのが上手いと思った。
    初めて読んだ作家さんだけど、他の作品も読んでみたいと思った。

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    2021年05月08日
  • 火定

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    奈良時代、天然痘。
    病を持ち込んだと罪悪感に苛まれるもの、
    流行を食い止めようと必死な医師、
    流行に乗じて儲けよう、流言で混乱させようとするもの、
    疫病への恐れ、不安、怒りから、混乱に巻き込まれ暴徒と化す民衆。

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    2021年05月06日
  • 若冲

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    「若冲」と言えば、多彩な色彩とその美しい彩色を思い出す。「動植綵絵」は、その多色彩もさることながら、写体の生々しさの中に実物とかけ離れた幻想的な鶏、鳳凰、草花などに見ているとその迫力に疲れを感じる時がある。
    本作の第一章のタイトルとなっている「鳴鶴」は、以前行った特別展示会で、中国の文正の「鳴鶴図」が原画との説明があった。
    色彩にしろ構図は似ているとしても私には全く違う鶴にみえる。鶴と言えばのイメージカラーの紅白も全く異にする白と赤である。実物とかけ離れたその姿は、意匠性を感じる。
    これは、フランスの印象派ならぬ日本における印象派ではないかと個人的には思っている。

    歴史小説として、若冲の生涯が記されている。1716年(正徳6年)、京の青物問屋「枡屋」の長男として生を受ける。
    23歳で父・源左衛門の死去に伴い、4代目枡屋(伊藤)源左衛門として、家督を継ぐも、
    1755年(宝暦5年)、弟・白歳(宗巌)に譲り渡す。そして名も「茂右衛門」と改め、はやばやと隠居し絵の世界に没頭する。
    本作は嫁・お三輪を娶るも、その2年後に自らが命を立っている。この妻に対する気持ちと、お三輪の弟で市川圭君の怨み、執念が絵師・若冲の作品制作の原動力となるようなストーリー展開である。

    が、巻末の解説にも記載がある通り、実際には生涯婚姻歴はない。
    若冲が残す作品の力強さについて、理由があった方が理解がしやすく事実ではなくても、次に作品を見たときの感じ方に広がりが出る。また、時代背景、政治的な背景は歴史通りであるようなので、この画家を理解する上でとても参考になる。

    本作の最後に登場する白象群獣図、鳥獣図屛風にしろ、作品の力強さはもちろんのこと、写実でありながら奇想天外な想像を巧みに融合させた技は、実物からかけ離れたその意匠性を感じる。同じく江戸時代の画家である曾我蕭白や、長沢芦雪らと並び称せられているが、同じく想像的な作品ではあっても、全く異なった趣がある。
    フランスの印象派ならぬ日本における印象派の画家ではないかと個人的には思っており、フランスの印象派時代よりも前にその動きが日本であり、日本では受け入れられていたと個人的な見解を持っている。

    歴史的小説で時代を確認しながら読むことが好きなこと、日本画が好きなこともあり、読みやすかったこともあるが、この作品の理解しやすさの理由は、作者の描写、表現力だと思うところがいくつもあり、それを見つける楽しさもあった。

    余談ではあるが、ゲイだと信じていた若冲が結婚して、その妻の死を引きずっていたという設定が私には新鮮であった。

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    2021年04月09日
  • 若冲

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    史実とは異なると思うが、とても面白い小説に仕上げている。著者は京都で学んだおかげで絵に対する造詣も深いのか。絵に対する描写も細やかで、物語が真に迫る。若冲が、なぜ独特の奇矯な絵をなぜ描けたのか、独創的な想像力で物語に仕上げている。しかもただ、単に面白い物語だけではなく、もしかしたら筆者が絵の中に見た若冲の姿は、本当に若冲のなかにあったのではないか、と思わせる。最後の弁蔵の独白。「美しいがゆえに醜く、醜いがゆえに美しい、そないな人の心によう似てますのや。そやから世間のお人はみな知らず知らず、若冲はんの絵に心惹かれるんやないですやろか」

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    2021年04月06日