澤田瞳子のレビュー一覧
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螺旋プロジェクト 奈良時代編。
対立する天皇家と藤原家の両方を血を持つ聖武天皇が苦悩するお話。死後に周辺の人たちの回想によって、主人公を多面的な角度から描いていく手法を取っている(「阿寒に果つ」が同じ手法だったような)。
奈良・平安のドロドロとした争い。誣告、密告、呪い、毒殺、放火…。高校生の時かな、古本屋で買った小松左京の「応天炎上」の3篇が面白く、以来なんども読んでる。その中で聖武帝が何度も遷都したのは地震のせいではないかという説があった。災害があると、権力基盤が揺らぐのはいつの時代も同じか。
古刹や大社に行った際には、昔の権力者たちが作った建築物や庭園(再建されたものが多いのだろうけ -
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澤田先生の代表作、満を辞して読破。
若冲についてはほぼ予備知識のない状態で入ったため、全てが新しく感じられた。澤田先生が描くからなのか心境への影響を与える事件は多かれど、人生への大打撃は天明の大火くらいだったのだなという印象。
本作は妹の志乃と若冲が章ごとに交互に一人称となり話が進む。1章ごとに明確なテーマがあり、1つの短編としての面白さを持ち、更に全体として少しずつ変化していく若冲の心境の描き方が秀逸。
そして、本作を貫くテーマである“憎しみと尊敬(畏敬)”。若冲は義弟の君圭に負けないよう自らの絵を磨き、君圭は若冲への憎しみから彼の絵を研究し、技術を高める。『鳥獣楽土』で若冲は君圭の -
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ネタバレ道真の太宰府ライフに危機?
京から役人が来る。流人の道真が唐物商に出入りして目利きをしている暮らしがバレては一大事と頭を抱える小野葛根。京から来る役人は宮廷に献上された品が贋物だったことを調べに来る。もしかすると義父・小野葛絃が危ないかもしれない。世話になった伯父のためになんとかこのピンチを切り抜けたい葛根は——。
よく働くのは誰のためだろう。孤児を雇い育てていた善珠、ケチと名高い唐物商の老婆・幡多児、「うたたね殿」龍野保積、人のよい外見に鋭さを隠す小野葛絃、京から調査に来た藤原俊蔭、太宰府の衛士・三百樹、そして菅原道真、小野葛根。それぞれが自分の守りたいもののためにそれぞれの働き方で働い -
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額田王の物語であるのだが、読み終えた直後の感想としては讃良王女の物語を読みたくなってしまっている。
葛城王子、額田王、中臣鎌足ら3人が追い求めた理想を、1人の思いが打ち砕いてゆくという破壊の物語になってしまうから、読後は良くないものになるのだろうけど。
彼女の野望を達成するだけの、ただそれだけに至高の座へと上り詰める物語が読みたくなってしまいました。則天武后に通じる成り上がりとしての物語が読みたい。
額田王たちに対しての敵役としての役割が大きかったための、キャラクターづけだったとの思うのですが、作中で最もぞくぞくしながら読んでいたのは事実。一番、魅力を感じました。
作者の意図したものとは -
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「泣くな道真」の続編。道真が太宰府に流されて5ヶ月。唐物の目利きという愉しみを覚えて落ち着いてきたかと思っていたら、延喜への改元の詔を読んで、あろうことか天皇の正式文書を怒りに任せて破り捨てて仕舞う。道真今日も元気です。
集英社「いきなり文庫」シリーズ。元はWEB連載だったらしい。前回は、キチンと描かれることがなかった太宰府が舞台と新鮮だった。今回はあまり目新しさがなかった。前回は、お世話係に抜擢された保積という小役人の目を通した道真だった。今回は、太宰小弐の小野葛根の目を通した道真だ。面倒を起こさぬよう、叔父の太宰大弐小野葛絃(くずお)に迷惑がかからぬようのみ気を配る管理職役人の目を通して -
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ネタバレ今回はうたた寝殿こと、龍野保積の出番があまりなくて残念(´・ω・`)ショボーン
その代わりに活躍するのが小野小町の兄である小野葛根。大宰府長官である小野葛絃の甥で彼の補佐をしている人物。
改元の詔に怒り心頭のあまり、それを破り捨てた道真に伯父に迷惑が掛かると思い、唐物の目利きを楽しむ彼を内心ではよく思っていないところが何とも若造という感じの人物。
そんな詔騒動の最中に帝に献上していた唐物が品が献上するに値するものではないと、都から唐物使の一行がやってくると聞いて、葛根は道真が唐物の目利きをしていることを何とかごまかそうと、彼を屋敷に閉じ込めてしまうのですが~。
今回も楽しませ -
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レビューに入る前に少しばかり前置きを。
以前読んだ『咲かせて三升の團十郎』にて、歌舞伎など娯楽全般を取り締まった南町奉行 鳥居耀蔵。『咲かせて…』ではさすが團十郎一座の天敵とだけあって、話し方は陰湿、目つきや顔色もとことん悪かった。舞台であれば、青い隈取りが施されているに違いない…
しかし意外にも、(團十郎の他に)読後わが心に留まったのは鳥居耀蔵だった。気になって調べた末、晩年の彼が登場する本書にヒットした…というのが経緯である。
計6話がおさめられており、いずれも1話完結型。タイトル及びストーリーは全て能や狂言の演目にちなんでいる。あれだけ嫌悪していた娯楽に全話丸ごと関わるのは、見方によ -
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飛鳥時代に生きた、額田王(ぬかたのおおきみ)を描く。
「大海人王子(おおあまのみこ)の妻となり、十市王女(とおちのひめみこ)を産む」
という、日本書紀の確実な記録のみを尊重し、澤田瞳子の額田像を作り上げている。
額田をめぐって、天智・天武が三角関係だった、とか、絶世の美女だった、とか、カリスマ歌人だった・・・というのをあたかも史実のように言う人もいるが、実は全てうわさや憶測が後から作り上げた像だ。
この作品の額田は、大海人と離婚したあと、宝女王(斉明天皇)、葛城王子(天智天皇)と、2代の大王(おおきみ)に宮人(くにん)として仕えた。
今風に言うと、シングルマザーのキャリアウーマンだ。
葛城に -
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頼れない国
感染病、パンデミックに対する藤原時代の官民の動き。現代と変わらず、国を司る医事薬事等は病人から退避、健闘するのは庶民の医者と看護する下働き者だけ。現代で風で言うならば国から補助金をもらっている医療機関はほんの一部が治療するだけで、国民が頼れるのは民間の医者と看護婦だけだ。さらに最終的な感染病に対する処方箋は「自己予防対策」しかないと言うことだ。
出自、コネで出世、後は競合他者を排除すれば例え学がなくとも頂点に立てるのが現代社会の出世の道だ。周りには生まれた時から大臣などと言われた輩もいるだろうが果ては中身の無い薄い出世欲しか無い人間になるだけとなる。 現代、政治家を見ているとまさに