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ご一新から五年。花見客で賑わう上野の山に、かつて南町奉行を務め、「妖怪」と庶民から嫌われた鳥居耀蔵の姿があった。失脚し、二十三年の幽閉の末に耀蔵が目にしたのは変わり果てた江戸の姿。明治を、「東京」を恨み、孤独の裡に置き去られていた男の人生は、金春座の若役者・滝井豊太郎と出会ったことで動き始める。時代の流れに翻弄されながらも懸命に生きる人々を描く感涙の時代小説。(解説・末國善巳)
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Posted by ブクログ
華々しい経歴の主人公が 失意のうちに老いて登場すると 普通は、回想で物語が展開するが この作品は違う。未来に進み ジジイがいい感じに成長していく。 1話目と後半で別人のような イケメンならぬ イケジジイへの変化が 面白い!
・鳥居耀蔵(とりい ようぞう)/鳥居胖庵(はんあん)77歳。かつて南町奉行を務め、奢侈を厳しく取り締まり、庶民からは「妖怪」と嫌われた。 失脚して23年の幽閉生活を過ごすうちに、時代は明治へと変わった。 まるで浦島太郎。帰ってみればこはいかに。 各章、能の演目に題材を取っている。 江戸時代、能は公的...続きを読むな儀式の場で上演され、幕府や大名たちの庇護を受け、能役者は武士身分に取り立てられていたが、徳川の世の終わりと共に、他の武士たち同様に没落し、生活のために能を捨てて他の職業に就く者も増えた。 胖庵も、能役者たちも同じく「お江戸に置き去りにされてしまった」前世紀の遺物である。 明治の世をどう生きていけばいいのか。 【名残の花】 胖庵、上野の花見客の騒がしさに憤懣やる方ない。 かつて取り締まった猿楽の家の者、滝井豊太郎(たきい とよたろう)と出会う。 かつて取り締まった芸者の娘の女掏摸(すり)に仕返しをされる。 【鳥は古巣に】 ・中村平蔵(なかむら へいぞう)86歳。金春座の地謡方 ・滝井豊太郎(たきい とよたろう)16歳。平蔵のただ一人の内弟子。師匠の身の回りの世話をする 胖庵は思い上がった能楽者たちが嫌いだったが、将軍家の行事に連なり、数々の舞台を観てきたので、能には詳しく耳も肥えている。 演目は「箙(えびら)」秀でた才能がなくても小鼓を手放したくないと決意する能楽者 【しゃが父に似ず】 「歌占(うたうら)」が元ネタの狂言を書いた若者は、かつて胖庵の部下だった武士の息子 【清経(きよつね)の妻】 平蔵の家で金春役者たちによる稽古能が開催されることになった。五番立てのうち、豊太郎は二番目ものの「清経」のツレに大抜擢された。シテ、平清経の妻の役で、ツレだが謡も所作も多く、見せ場のある役。 豊太郎の叔母は、夫の形見であるはずの香炉を井戸に投げ込んだ。その真意はどこにあるのだろう。 【うつろ舟】 「鵺(ぬえ)」 金春座太鼓方・多崎一家が心中した。 鍛治橋御門内で狐狸妖怪が西洋風のラッパや太鼓を打ち鳴らしているという噂が流れている。妖怪でさえ洋風化している明治の世には古典芸能は滅びるしかないのかと嘆いた。 【当世実盛(さねもり)】 「実盛」は、73歳の実盛が白髪を黒く染めて出陣する、老将の矜持を題材とした修羅能。 「武家の体面」に散々苦労した末、武家を憎むようになった、元武士の喜十郎は、古いものを守ろうとする若者の志をくじいてまで洋風化に洗脳しようとした。 胖庵は、戦国の世を終わらせて打ち立てられた徳川幕府も、その時は「新しい世」だったのだ。時を経るうちに綻びが生じ、やがて滅ぼされて明治の世になった。この明治の世も、西洋化を急ぎすぎればいずれ歪みが生じ、次の世がやって来るかもしれないと説いたが、喜十郎の胸には響かなかったようだ。 時の流れの中では、永遠に勝者でいられる者などいない。
28年振りに維新後の東京変な戻って来た悪役界の超大物 鳥居耀蔵を通して、江戸時代の文化が失われていく町の様子を描いた作品。 妖怪とまで言われながら徳川の世を守りたかった鳥居からすれば西洋風にかぶれた風潮が許せなく、また自分が弾圧してきた能や大衆娯楽がかたや凋落、かたや逞しく生き残っている様を見て複雑...続きを読むな心情のなかでの行動など、非常に上手く描かれている。 この話は現代にも通じるところが多く、グローバルスタンダードとタイパ、コスパの波に負けず日本の伝統を残していきたいと思いました。
「妖怪」と恐れられた元南町奉行の鳥居耀蔵。 失脚し、23年もの幽閉の後、目にしたのは 明治なり「東京」とかわった街の姿だった・・・ 老武士の憤懣 能役者たちの矜持 それでも生きていかなければならない人々を描いた良作
202210/面白かった!鳥居耀蔵になんならちょっとした愛嬌も感じるほど、さすが澤田瞳子うますぎる…。感涙と胸アツの読後感、名残の花というタイトルも納得、見事だ。
鳥居耀蔵を主人公にしたら、一筋縄ではいかない作品になるだろうと思ったけど、さすがに、澤田さん、非常に面白い話だった。歴史は一面からばっかり見てはいけないということだろう。
レビューに入る前に少しばかり前置きを。 以前読んだ『咲かせて三升の團十郎』にて、歌舞伎など娯楽全般を取り締まった南町奉行 鳥居耀蔵。『咲かせて…』ではさすが團十郎一座の天敵とだけあって、話し方は陰湿、目つきや顔色もとことん悪かった。舞台であれば、青い隈取りが施されているに違いない… しかし意外にも...続きを読む、(團十郎の他に)読後わが心に留まったのは鳥居耀蔵だった。気になって調べた末、晩年の彼が登場する本書にヒットした…というのが経緯である。 計6話がおさめられており、いずれも1話完結型。タイトル及びストーリーは全て能や狂言の演目にちなんでいる。あれだけ嫌悪していた娯楽に全話丸ごと関わるのは、見方によれば滑稽に映るだろう。 直属の上司だった水野忠邦を裏切った罪により23年間幽閉されていた耀蔵(以下、本書に合わせて胖庵(はんあん))が、維新後の東京を嘆くところから物語は始まる。『咲かせて…』では風紀取締のついでに私欲に走る悪代官だったが、ここでは真面目一辺倒の遊び心がない人間という描写だ。 そして徳川家のバックアップを失った若き能楽師との思いがけぬ接触が、頑なだった胖庵の心を溶かし始める。 「何が古く、何が新しいかなぞ、考えるな。ただ己の道だけを見つめ、そのために精進すればよい。それが新しき世を器用に渡れぬ者の定めじゃ」 不平を垂れながらも胸中では相手のことを認めていたり、かつての江戸を懐かしんでいる。老い先短く何の権力もない孤独な隠居に成り下がっても、今の自分に出来ることをしたい。 だから、衰退の途を辿る能の道を選んだ豊太郎を自分と重ねたり、自分が出会った人々の窮地に四の五の言わず駆けつけた。(ご隠居が暗躍する図が水戸黄門チックだったし、毎回ナイスタイミングなのもちょい引っかかったけど笑) それから、胖庵と行動を共にする豊太郎くんの思いやりスキルが16歳とは思えない高さ!彼もまた出会った人々のために東奔西走。そのうえ胖庵の現役・幽閉時代をリアタイで知っているわけじゃないのに、彼の心痛を不憫に思い、誰よりも慕っている。 読後胖庵の最晩年を調べてみると、物語のラストから翌年、多くの子や孫に見守られ臨終を迎えたという。 好好爺ではなかったと思う。ただ新しき世に取り残された人々の世話を焼く一方で、いつも家族のことを気にかけていたのは確かなのだろう。 團十郎が表立って人々の心を救ったヒーローだとすれば、晩年の胖庵はさながらダークヒーローか。
明治初期の 負け組となった人々の矜持 古いとき新しいとかではなく 自分の信じることをすれば良い 物事を大局から見ることができる人が どれぐらいいるだろうか。
明治になって、丸亀藩での蟄居閉塞から解かれた鳥居耀蔵の話。蛮社の獄首謀者鳥居耀蔵は好きじゃないので、どうしても癇癪爺さんにしか見えなくて楽しめなかった。
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名残の花(新潮文庫)
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