沙名子の仕事のあり方や生き方に感銘を受けた。
予定調和で決めた事を決めた通りに波風を立てずに淡々とこなしていくと言うことはなかなかできることではない。イチローのルーティンのようにそれを繰り返していき洗練されていき次第に高みに上り詰めていく人も多い。
一方で若くして確立した生き方をしているように見える沙名子でも、周囲の職場の人間達とのやり取りの中で、そんな自分の生き方に、迷いや揺らぎを感じていている描写もみられる。
十年後も二十年後も同じ格好で、新しい何かを作り出すことなく、同じ事をしている自分があまりに安易に想像できてしまって、そこに退屈さや虚無感を感じてしまうこともあるのかもしれない。
あまりに波風のない整い過ぎた生き方は果たして豊かな生き方と言えるのか、それは大事な何かを失っているのではないだろうか、退屈や虚無から解放されるにはどうしたらいいのか?最後に沙名子は静かに流れる川に波風を立てることを勇気を振り絞ってやるわけで、そこがなんとも初々しくていい。
太陽とのやりとりに忘れていた胸のときめきも思い出させてくれて、読んでいて楽しかった。
まだまだ続編があるみたいなので続きも楽しみにしたい。
ドラマの方はギャグ要素も多かったので、キャラを思い浮かべるとついニヤニヤしてしまう場面もある。
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以下、備忘録
19 全てはあるべき場所に片付けてある。私の生活は完璧である、とさなこは思う。これ以上ないくらい。引っ掛かりは何もない。足りないものも過剰なものもない。きっちりと働いて責任を果たし、働いた分の給料を適正にもらい、自分のために使う。
会社にも他人にも。与えた以上のものは求めず、求められた以上のものは与えない。さなこはイーブンと言う言葉が好きである。フェアと言う言葉より分かりやすい。入ってくるものと出ていくものが同じである事。全てにおいてどちらの負担にもならないもの。これで満足。
21 さなこはなんでもスケジュール通り行動したいたちである。
渋いC3PO
短気なR2D2
RB8は今探している
気まぐれ子猫ちゃん
60 いえそれ以上仰らなくて結構です。オールクリア、すっきりした。
おきになされませんよう。私は経理なので。数字は合っていますので何も問題ありません。
90 勝手な期待はしたくない。他人にこうあって欲しいとか願うのは、そうじゃないからと言ってその人を嫌いになったり自分を惨めに思うのは、不幸の始まりだ。
(さなこの友人の美月に超然としていてほしいと勝手に願っていたが、美月がプライベートでバラ園に女二人で行ったと言う話を聞いて。)
105 本当にわからないなら大谷さんにはもうお仕事を任せることはできません。そう言えたらどんなに楽かと思うが、言ったところで自己満足に過ぎない。
どうして咲は、咲の事が好きで心配したらかばったりしてくれる人間に対してばかり怒るのだろう。ゆかやみつきなんた、先の名前すら覚えてないだろうに。
さなこはできるだけ感情を波立たせずにつつがなく給料分の仕事だけをしていたいというのに。
土下座するなら機会はたくさんあるのになぜわざわざ今この場所を選ぶ?これは暴力だ。頼みたいことがあるなら言葉で頼めばいい。何も説明しなかったくせにいきなり土下座すれば言い分が通ると思ったか?お前は腹黒の政治家か?腹は熱いのに頭は急速に冷えていく。少なくともさなこはいい子でも善人でもない。この中でただ一人。ええ、それでちっとも構わない。
122 いい子、いい人、善人しかいない、さなこには住めない、優しくて湿った世界の味である。
127 太陽は昔から勘が良かった。迷ったら自分の声に従う。ピンときた方。そうすれば失敗はしない。誰かに嫌われることもない。学校、サークル、バイト、友達、彼女、住まい、会社
平均点と満点の間あたりが太陽の居場所だ。
139 わたしはあまり性格がよくないのかもしれない…自分でうっすらと考えている事を他人から突きつけられると辛いものである。
155 美月の打てば響くところは好きである。余分な会話をしなくてすむ。
156 こういうところは太陽の美点だ、とさなこは思う。人にはっきりと物を頼み、そのことについて礼や謝罪を言うところは。頼まれる内容はともかく、意思と責任はクリアである。
鎌本は責任をあいまいにしたがる。小さな事、たとえば領収書の宛名を描いて下さいと言うようなことでも、はっきりと頼まないのだ。困ったふりをしてさなこが言い出すのを待つ。
172 タイミングとは不思議だ。時が流れの早い川だとしたらデコボコした穴とな曲がり角のようなものだろうか?ひっかかったりしぶきが飛んだりして急に流れが変わるのだ。だったら凸凹してる方がいいのか、さなこは急に思い当たって愕然とする。なるべく滑らかに均等に、きれいに流れるまっすぐな川にしようとして、ずっと努力してきたのは間違いなのか?イレギュラーなことが起こってももとに戻さない方がいいのか?全てにイーブンを目指していたら大事なタイミングが消えてしまうのか?
179 やっぱりダメだ。耐えられそうにない。心臓が音を立てて静まらなかった。山田を好きなわけでもないのに。これは、何だ…
処理できない、とさなこは思った。タイミングなんて要らない。人生にこういう予定があるのならあらかじめ言っておいてくれ。
186 銀行の窓口でお金を数える。十年後も二十年後も同じ格好で、新しい何かを作り出すことなく、同じ事をしている自分があまりに安易に想像できてしまって。
月曜にはルーティンに還る。愛すべき乱れのない生活に。いつまで?十年後、二十年後までか?あの経理室で、同じ制服を着て。生活を乱されたくはないのに、このままでいるのは怖い。
このままでなくなる手段というのが恋人を作ると言う事なのかと思うとそのことにもうんざりする。
就職活動のように目標とすべきことがはっきりしていればいいのに。
194 さなこはこの人は面倒だからと言う理由で特別扱いすることが嫌である。いわゆるごね得が通ってしまう。真面目である事がそんであると言う事になる。いつかは解決しないとならないとおもう。
228 「わたしは相手の人間性によって行動を変えたくありません」
変えざるを得ないわけだが、実際は。
「あなた公平なんだから、不公平なんだか分からないわね。」
「私はフェアではありません」イーブンです。
個人不正にすぐ気づいて修正できたと言うのは会社の自浄作用があるということでもある。