『パパたちの肖像』は、父親を主人公にした短編集です。育児の喜びや苦労を描いた作品集ではありますが、読んでいて強く感じたのは、「家族の幸せの形は様々、一般論では語れない」ということでした。ノウハウでは語り尽くせない生々しさに心揺さぶられます。
特に印象に残ったのは「息子の進学」です。
父親は、豊かな暮らしや便利な都会での生活に価値を見出してきました。一方で息子は、収入や効率よりも、自分が本当にやりたい研究の道を選ぼうとします。どちらが正しいという話ではありません。むしろ、親子であっても見ている世界が違うこと、そして父親が息子の価値観を理解しようとする姿に心を動かされました。
「髪を結ぶ」も忘れられません。不器用な父親が子育てに悪戦苦闘し、自分は父親に向いていないのではないかと悩みます。しかし子どもは、完璧な父親ではなく、一生懸命向き合ってくれる父親をちゃんと見ている。長所だけでなく弱さも含めて受け入れていることに心打たれます。
そして「そういう家族がそこにある」。共働きから専業主婦という選択をした家族が描かれますが、本作が教えてくれるのは「一般論では人の幸せは測れない」ということです。外から見ればリスクに見える選択でも、その家族にはその家族なりの理由と幸せがあります。
読んでいて何度も感じたのは、家族であっても相手の気持ちは完全にはわからないということです。それでも理解しようとすることはできる。価値観の違いに戸惑いながらも、対話を重ねていく姿がとても温かく描かれています。
パパの育児小説の目線から、家族という小さな共同体の中で、人がどう成長し、どう相手を受け入れていくかを描いた物語集でした。
子育て中の人はもちろん、親との関係や夫婦関係について考えるすべての人におすすめしたい一冊です。