石田衣良のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
セックスって何なんでしょうね。
この歳になればセックスしてる人間のほうがマジョリティになるとは思うけど、そのマジョリティの一部である私もわかりません。
セックスが何なのか、輪郭すら捉えられず、何年もの時を生きました。
その何年かの間に自らの体や心を削ったこともあります。
それほど、私はセックスというものに惹きつけられました。
惹きつけられたなんて言い方をすると美化されているような気がしますが、結局はただの欲なんでしょう。
でも、ただの性欲ですね、で終わらせるにはどうも難しい何かがあると思うのです。
この作品は短編集で、様々な人々の様々なセックスを垣間見ることが出来ます。
彼らのセックスは多様で、性欲の陰に隠れた性欲以外の欲を隠し持ちながら、そこにありました。
それは私達も同じだと思います。
支配したい、認められたい、知りたい、壊したい、子どもがほしい、そして生きたい…などなど。
私達は性欲以外の欲を持ち合わせ、性欲を手放すときにその欲も一緒に手放す。
単純なようで、複雑で面倒くさくてよくわからない。
自分が誰なのかよくわからないように、セックスもよくわからない。
それでもセックスをセックスと名付けたのは人間くらいなもので、やっぱり人間はセックスをどうにか捉えたかったのでしょう。
この作品を読めば、セックスが何なのかわかるわけではないけれど、私達にセックスが何なのかという問いは与えてくれるような気がします。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ虐待描写が生々しく長く続き、途中まではまるで呪いの様だった。主人公の北斗の両親の思考と行動が恐ろしすぎて読むのをやめたくなるほど。
でも、そのしつこい描写が後半の魂の劇といわれる法廷劇で効果的になっている。
ある事件の被告人となった彼の人生、そして彼自身が法廷で丸裸にされていくのだが被害者と被害者遺族の心境を鑑みても、彼が披虐待児として生きてきた事を強く痛感させられ彼の人生に寄り添ってしまう。
裁判が進んでいき様々な人間が北斗を語る。
その中で遺族の息子の乱暴と思われる北斗への言葉に胸を打たれる。その息子は、母親を殺した憎むべき相手だというのに対等の人間として北斗に言葉を放つ。橋爪北斗さん、と彼は確かに言った。
北斗は対等な人間として見られた機会が少ない。だから北斗は彼の事を永遠に忘れないだろう。
立場が違えば友人になっていたかもしれない、という一文に切なさがこみ上げた。
又、虐待をし、又させた北斗の実の母親の登場場面も衝撃的だ。更に衝撃なのはその証言内容。
愛とは何なのかを考えさせられた。また、どんなに歪でも愛は愛だという愛の難しさを感じた。
そんな裁判で気づく。人を救うのは法律ではない。法律を作った未完成な人間が必死にその法律を使っているにすぎないことを。
法律上で親子と認められようがそのままにしてはいけない親子がいるように。
北斗は様々な証言者の言葉を聴き、仕事の立場以上に自分を思ってくれる弁護士や裁判官に出会う。それが自己肯定感のない彼の心を揺さぶっていく。そして同じ披虐待児童で同じ里親の子供であった女性の存在と、彼女の「生きて」の三文字が裁判の最後まで彼を支えることに。
独房で1年間、北斗は時に寝ずに自身の心と対話をする。裁判も終わりに近づき死にたくないと恐怖にかられた彼に全力でほっとした。
彼は今まで殺されかけ生き伸びてきたにすぎない。本当の意味では、一度たりとも生きていないのだ。今まで披虐待児童であったがゆえ心を殺してきた彼から出た些細な欲望を叶えてやりたくなった。
生をと…。独房の外で鳴く鳥の名前を調べるといった、平穏な時間をと…。
判決の主文の文字を見た時、声を押し殺して泣いてしまった。真夜中でなければ声をあげていただろう。そして、改めてこの裁判の弁護士と裁判官が彼らで良かったと天に祈るような思いにかられた。神様はいるのかもしれないと思わされた。
そこまで北斗を見守る気持ちになれたのは、作者の主人公の心理描写が巧いからに他ならない。
特に証言台での生きた言葉、北斗が初めて見せる本音には魂が揺さぶられる。
遺族への誠実な自省の言葉に回心とはこの事か…と唸らされた。