ヤマザキマリのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
-----おわりに より抜粋
『人間が70年なり80年なり生きていく上で、失望も屈辱も失敗も悲しみも避けて生きていける可能性など正直皆無と言っていい。なのに、私たちは自分たちの心構えや行い次第で、苦労も苦しみもない幸せに満ちた夢のような暮らしも可能だと子どもの頃から安直に思い込まされ、そうならなかった場合の対処をほとんど修練させられていない。水溜りを避けて歩く方法論ばかり学んだところで、水溜りに嵌まった場合にどうしたらいいのか、我々の得意な機能である想像力を稼働できない人間が今は多すぎるのではないだろうか。極端な人であれば、水溜りに足を濡らしただけで、「ああ、もう自分の人生はこれでおしまいだ」などと自分を追い詰めたりする場合もあるだろう。地球は水溜りを発生させる惑星なのであり、そこに嵌まって足を濡らしたところでなんぼだという原始的かつ進歩的な意識の稼働を必要としない現状というものを、我々はもう少し疑ってみたほうがいい。』
「旅する漫画家」ヤマザキマリさん。
コロナ禍で日本に長期滞在することで、様々な気づきや発見を得た。あちこち海外へ飛び回ってきたヤマザキさんだからこその気づき、日本らしさとは何か?
2020年刊行の前作『たちどまって考える』から2年(本書22年刊行)。
パンデミックが始まってから3年以上経ち、世の中も、たちどまったままではない。しかし、依然と先行きは不透明のまま。
戦争、災害、疫病。そういった予測外の事態と向き合うとき、私達人類はそれを起こってはならなかった不幸や不条理と捉え、幸せを遠ざけられてしまった無念な気持ちに見舞われて、落ち込んだり悲しんだりする。
「思考力と想像力は、人間にとっての自家発電装置であり、得体の知れないものに依存するよりもずっと、良質なエネルギーを供給してくれるはずだ」とヤマザキさんはいう。
周りの環境や意見、ネットの情報に妄信的な人が増えた現在、自分の頭で考え、何事にも懐疑心を持つこと。その知識とユーモアがたっぷり詰まった一冊である。 -
Posted by ブクログ
50年前の最初のテレビ漫画のゲゲゲの鬼太郎は見た。実写版の悪魔くんもうっすら覚えている。昭和ヒトケタの父親が鬼太郎は面白いと云っていたなあ。
子供時分は、水木さんの絵は少し苦手だった。手塚さんや石ノ森さんの丸っこい描線が好きだった。今見ると、背景や妖怪の緻密な描写や点描の凄さに驚きつつ、人物、人間側の鬼太郎達の描き方と奇麗な女性やイケメンの描き方にギャップがあるなと思う。
4人の語り手が水木さんを解き明かす。境港での幼少期、食うや食わずの紙芝居描き、貸本時代。死地を彷徨った軍隊時代、幻想怪奇譚好きが水木さんを形づくったとのこと。
成程、改めて、この人は野放図な天才だと知ったよ。 -
Posted by ブクログ
自分が想像していた内容とは少し違っていたけれど、欧州諸国と、日本を対比させたのがすごく面白かったし、学びになった。
やはり、日本は四方を海に囲まれ、欧州諸国のよりも侵略されにくい国。
それこそが、さまざまな日本人気質を産んでいるんだな。。
パンデミックの時に、アマビエが流行った理由も納得。
この科学の世界にいながらも、日本人の中には、妖が疫病をもたらすという、風俗がしっかりと残ってる。
ついでに。西洋のやり方をそのまま踏襲した民主主義が日本で成り立たない理由もしっくりきた。
あれだけ違ったら、そりゃ別物になるよな。。。
知らない、考えたこともなかった世界を知れて面白かった -
Posted by ブクログ
博学のお二人が現在の日本、日本人の状況について縦横無尽に語り合われた内容。
対談の部分については正義、生贄、世間体、個性を失う教育といったことに対して容赦ない分析が会話の中で行われていく。その知識のバックグラウンドは半端ではない。
対談の章では「なるほど」と思わされるところが多々あった。ただ、「で、どうしたら良い?」という問いに対する答えのようなものが見えてこなかった。
「自分は自分が大事、相手も自分が大事、それを尊重し認め合うこと」という言葉が最後の方で出てきた。まさしくその通りだと思う。
最後の章のヤマザキマリさんのお考えは、とても納得のいく内容だったと思う。 -
Posted by ブクログ
日本より海外暮らしが長いヤマザキマリさんだから見えてくる日本のお国柄。
言われてみればそうかも知れないなぁ、と思うくらい、日本でしか暮らしたことのない私には極々自然な習慣や国民性ですが、海外と比較することで、日本の文化や習慣などの特性がよく見えてきました。
日本って意外とスゴイかもと思ったのは確かですが、その美徳も海外の人たちと渡り歩くにはパワー不足かも。
それでも誇れるところは沢山あるな、と再認識しました。
ヤマザキさんの切り口が面白く28のエッセイのそれぞれの終わりに出てくるそのエッセイの内容に沿ったイラストにもニヤリとしてしまいました。 -
Posted by ブクログ
ヤマザキマリ(1967年~)氏は、東京生まれ、北海道育ちで、イタリア在住の漫画家、随筆家、画家。
私は著者とほぼ同世代で、これまで何となく気にはなりつつも、漫画を含めてその作品を読んだことはなかったのだが、昨年12月にNHK番組「趣味どきっ! 読書の森へ 本の道しるべ」で紹介されたことから、所謂自伝である『国境のない生き方』(2015年)を読んでみたところ、実に刺激的・魅力的な半生を送っていることを知り、本書も新古書店で入手した。
本書は、2020年2~3月に新型コロナウイルスによるパンデミックが始まり、それまでは、日・伊の行き来のほか、世界各地を旅することをライフスタイルにしてきた著者が、日本に留まらざるを得なくなって、「たちどまった」ことで見えてきた景色を綴ったもので、2020年9月に出版された。
書かれているのは、主に、パンデミックという非日常的な事態に直面することによってより鮮明になった、日本(人)とイタリア(人)の考え方、行動の仕方の違いであるが、ひとつひとつの事象は、これまでも様々な日本人論・日本文化論で言われてきたことも多いし、全体のトーンとしては日本に厳しい印象が強いものの、全ての指摘が必ずしも日本(人)の短所ということではない。
ただ、次の3点については、大きな問題であることを私も共有する。
◆自分の辞書を厚くすること、即ち、知識や教養を深めることは、視野を広げ、思考力や想像力を逞しくし、ひいては生きる力そのものを強くする。辞書の情報量が少ないと、先の見通しが立たないパンデミックのような問題が起きたときに、自分で判断することができず、周りにたやすく流されてしまう。にもかかわらず、日本人は個々人が持つ内なる辞書が薄い。
◆現代の日本では、「不条理」、「失敗」、「屈辱」等は、生きていく上で必要のないもの、知らない方がいいものと考えられているが、それでは、人間が本来持っている強さや臨機応変性や適応能力を弱らせていくことになる。最初から人生とは思い通りにならないもの、どんな顛末でもあり得るものと理解していれば、もっと強く、楽に生きていける。
◆日本人は、日本という国がどのような歴史を辿ってきて、どのような特徴を持っているのか、日本人がどのような民族で、どのような性質を持っているのかを、知らなすぎるし、知ろうとさえしていない。それでは国として、民族として、成熟していないと言わざるを得ない。
また、過去数十年の間に、アイドルは松田聖子型からAKB48型へ、漫画のヒーローは「あしたのジョー」型から「ONE PIECE」型へ変わった、つまり、どちらもソロ型からグループ型へ変わったことを指摘し、それは、世の中が責任分散・リスクヘッジを好む風潮に変わったからだと分析しているのは、非常に面白いと思った。
著者は、実に様々な体験をしてきた(これについては『国境のない生き方』に詳しい)ことにより、現在のような考えに至ったのであるし、その著者の感じ方・考え方の全てが正解であるわけでもない。が、一つだけ間違いがないのは、本書のような本を読んで、全てを鵜呑みにするのではなく、自分なりに考えることの大切さであり、著者はそのことをこそ強調しているのだ。
3年に亘るコロナ禍を無駄にしないためにも、自分なりに「たちどまって考える」ためのヒントにしたい一冊である。
(2023年3月了)