星野智幸のレビュー一覧
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ネタバレ12編のアンソロジー。
どの作品も変愛の名に相応しかった。この一冊に密度濃く詰め込まれたそれぞれの変愛。愛と一口に言っても当たり前ながら1つも同じものはない。
その中でも特に好みだった2つについて書きたい。
『藁の夫』
2人の間に嫌な空気が流れる、その始まりはいつも些細なことなのだと思い出させる自然な流れだった。あんなに幸福そうだったのに、藁に火をつけることを想像させる経緯、鮮やかな紅葉にその火を連想させるところがたまらなく良かった。
『逆毛のトメ』
シニカルでリズムのいい言葉選びが癖になる。小説ってこんなに自由でいいんだと解放して楽しませてくれた。躊躇なく脳天にぶっ刺す様が爽快だし、愚か -
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短編が10.最初の「避暑する木」を読んで、意図がつかめなかったので、「あまりの種― あとがき」を読んでみると、作者の思いが何となく分かったと感じたので、最初から読み返した.植物化する人間がテーマではあるが、発想が飛んでおり、出てくる言葉も異様だ.「からしや」のコンセプトが全体にはびこっている感じだが、個々の作品自体は独立している.題名も飛んでいる.「ディア・プルーデンス」「記憶する密林」「スキン・プランツ」「ぜんまいどおし」「植物転換手術を受けることを決めた元彼女へ、思いとどまるよう説得する手紙」「ひとがたそう」「始祖ダチュラ」「踊る松」「桜源郷」「喋らん」.理解の範囲を超えた発想には驚いた.
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少し前の新聞に中村文則の「掏摸」が紹介されていた。中村さんは今や海外でも名を知られた作家だが、そのきっかけになったのが大江健三郎賞を受賞した本作が、賞の特典として翻訳されたからだ、という内容だった。
大江健三郎賞は聞いたことがあったが、選考委員は大江健三郎さんひとりで、賞金の代わりに海外に翻訳されて紹介される、賞は八年続いて既に終了しているということも知らなかった。
で、その賞の始めから終わりまでの受賞作の紹介とそれぞれの著者との対談を収録されているのが本作。
なかなか手ごわい本だったがおもしろかった。
受賞作のどれも読んだことが無いが、長島有の本は読んでみたいと思った。対談も一番楽しかった。 -
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「恋愛」ではなく「変愛」…変わった形の愛が描かれたアンソロジーです。
面白かったです。
ディストピア文学が大好きなので、「形見」が好きでした。工場で作られる動物由来の子ども、も気になりますが、主人公の子どもがもう50人くらいいるのも気になりました。色々と考えてしまいます。
「藁の夫」「逆毛のトメ」「クエルボ」も良かったです。藁の夫を燃やす妄想をしたり。クエルボはラストは本当に名の通りにカラスになったのだろうか。。
多和田葉子、村田沙耶香、吉田篤弘は再読でしたがやっぱり良いです。
岸本佐知子さんのセンス好きです。単行本から、木下古栗さんの作品だけ再録されなかったようですが。
表紙の感じに既視感が -
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ネタバレ自分は役に立たない、自分はクズだという思い込みは多くの人が持っている。
図領の意見は最初は正しい。
ー理不尽なクレーマーに屈してはいけない。毅然として戦う。
その軌道が少しずつ逸れていく。
ークレーマーや人に迷惑をかける者は失格だ、クズだ。クズの使命は何か。積極的に前向きに死ぬことでこの世の中をよくすることだ。だから一人で死ぬのではなく、できるだけ多くのクズを「覚醒」させ集団自決する。クズ道とは死ぬことと見つけたり。
新興宗教のように人々を洗脳し、自分に邪魔な者、いらない者を排除しようとしていく図領や栗木田。日本の社会は、成功できない者を努力の足りないクズとして追い詰め、居場所をなくしているの -
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ファーストフード店で、たまたま隣り合った男が携帯を「俺」のトレイに置き忘れていった。なんとはなしに、その携帯の持ち主になりすまして、その携帯の持ち主の親からお金の振込もしてもらい、俺俺詐欺のような話になったところで異変が起きる。金を振り込んでくれた「親」がアパートにやって来て、まるで最初から「俺」が息子だったかのように振る舞う。自分の実家に帰ると、同じ顔をした「俺」が応対に出て、この頃似たような「俺」が訪ねてきてトラブルになったという…
「世にも奇妙な物語」風味に話が進んでいく。途中から「自分と他者の違い」「自分の中に潜む凶暴性、凶悪性」が引き出され、職場でのいじめや、多数の「俺」が互いの