星野智幸のレビュー一覧
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ネタバレ4年ぶりに再読。直前に宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』を読み、それを道標にまたこの作品を読みたくなった。
私なりにこの作品の構造を整理してみる。
ヤソキチがメガトンを辞めると言った時の大樹の反応などに例えられるように、【俺】たちは自分より劣っている存在によって自分の存在価値を感じているのである。
同時に自分も誰かから見下されていたり、同調圧力に晒されたりしていて、自分の存在価値が不安定であることを許せないのである。(「均」的考え)
自分が固有で特別な存在でありたいという思いから、自分を見下したり圧力をかけたりする【俺ら】を「削除」し始める。
しかし元々他の【俺】を見下すことで自分の存在 -
ネタバレ 購入済み
何度も読み返している
読後感がやみつきになる星野智幸。
特に「毒身温泉」はわたしの中で普段忘れていたり見えなくなるけど核ともいえる部分を刺激する、大事な作品。
独身をテーマにしているが、自立しながら他者と虚でないコミュニケーションを築くには、という読み替えも出来るかと思う。(虚でない、、とは上手く表現出来ていないが。馴れ合いでない、だけでも言い表せない)
「ブラジルの毒身」も大好き!「日輪の翼ごっこ」とは笑ったが、ダンス対決からの解放感が気持ちいい。ムズムズと踊りたくなるような、肉体の重さを伴った作品。 -
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Posted by ブクログ
この本での「俺」ってなんだろう。
クローン?コピー?
はじめは分からないまま読んでいた。
しかし、読み進めていくうちに、
「俺」には色んな一面があるんだと気がついた。
くだらないことも考える、
真面目なことも考える。
他者よりも優秀でありたい、
でも疲れた時にはだらけていたい。
そんな面を誰しも持ち合わせているから、
俺たちはみんな「俺」なんだ。
そう考えると、全く気が合わない人でも、案外自分に似ているのかもしれない、という気になる。
「自分」について考えるいい機会になった。
解説の、
「自分を演じながら他者とつながるのは疲れるが、1人でいるのは寂しい。
だから自分を演じなくてもよい他者とつ -
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*ネタバレ、っていうほどないです。
文章から、作家の波打つ動脈のようなものが感じられた。
今にもちぎれそうな、破裂しそうな血管と、その中に流れる熱い血潮。
喉にへばりつくような空気感、臭気、粘り気。
星野智幸の小説にはこういう「気候」がよく用意されてるけど
わたしこれが好きだなー。
この『無間道』という小説からは
すぐに読みとれるストーリーはない。
主人公の動きを追うようなストーリーじゃなくて
3章にわたって繰り返される構造が
「物語」として浮き上がってくる。
たぶんだれでも気づくだろうな。
「これは無限ループのおはなしだ」って。
物語の構造自体がストーリーを引き寄せ、
それはまた小説 -
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若松英輔さんと平野啓一郎さんの名前があるし、と軽い気持ちで手にした本。そして、長らく積読本。今回、ようやく読み始め、初めて世田谷事件の被害者家族である入江杏さん主催のミシュカの森という会があることを知った。そして、その会の講演をまとめたのがこの本であることも初めて知り、心して読まねば、との気持ちになって読んだ。
平野啓一郎さんの話では、死刑について考えさせられ、東畑開人さんの話では、居場所についてを考えた。特に居場所の話は自分レベルで考えられたと思う。そして、自分にとっての居場所について考えられた。もっと居場所を作らなくては、とも思う。居場所、座っていられる場所。立っている場所は落ち着かず、疎 -
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1965年生まれの鬼村樹(イツキ)の1976年から2022年までの人生を、彼の別のありえた人生ともいえる「架空日記」も交えて、追っていく。
600ページを超える大作で、読み進めるのはたいへんだったが、一人称の悩みや性の悩みなど、自分にも重なる部分もあって、本当に生に苦悩するイツキの人生を追体験するような感じだった。
イツキ自身も認識しているが、イツキは人との出会いに本当に恵まれていると思う。イツキのような生きづらさを抱えた人が、それぞれの人生のタイミングでこんなに波長の合う人たちと出会うということは奇跡に近いと思う。そういう意味でも、この小説自体が壮大な「架空日記」ということでもあるのだろう。 -
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家電量販店のカメラ売り場で働く永野均は、ファストフードの店で隣の客檜山大樹の携帯電話を持って帰ってしまう。その電話に檜山の母から電話がかかってきて、つい話し込んでしまった翌日、家の帰ると檜山の母がいた。人違いだというと、「母親の顔も忘れてしまったの?」…。
オレオレ詐欺で騙してしまったという罪悪感の話かと思いきや、自分が知らぬ間に檜山大樹になってしまい、別の永野均、同じく永野均と名乗る大学生が現れるという、不思議な展開になっていく。
単に似た人が現れて入れ替わっていったり、檜山家が自分を息子と間違えて…という話かと思いきや、俺がどんどん増殖していくというSF展開になっていく。
自分(俺) -
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ネタバレ未解決事件の遺族である入江杏さんが主宰する集まりの場「ミシュカの森」。
そこへ招かれた方々が「悲しみとともにどう生きるか」をテーマに様々に語ったことをまとめた一冊。
六人の方それぞれの悲しみに対する向き合い方に考えさせられたり理解が深まったように感じたり。
第4章東畑開人さんの「アジールとアサイラムとパノプティコン」という話が興味深かった。避難所と収容所。シェルターと管理所。
そしてその後の対談の中で「自分の物語を物語ることによる癒し」という話がなされます。河合隼雄先生が物語によって生きる力や癒しを得られるというようなことをいくつかの著作の中で語られていたことを思い出しました。
読みながら -
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岸本佐知子さんの編んだ書き下ろしアンソロジー、タイトルに惹かれてまず読んだ津島佑子の短編「ニューヨーク、ニューヨーク」が素晴らしかった。読みながら、読み終わってから、幾つものことを思った。
「ニューヨークのことなら、なんでもわたしに聞いて。それがトヨ子の口癖だった、という」冒頭のセンテンスを読んで、わたしも数年前の夏に数冊の本を読むことで行ったことのない「ニューヨークのことはもう分かった」と嘯いたことを思い出す。そこには彼女がニューヨークを思うのと同じように個人的で特別な理由があったのだけど。
その後に元夫と息子がこの世にいない彼女について語り合うことで明らかになり“発見”される、今まで知り得 -
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1.著者;星野氏は小説家。大学を卒業後、産経新聞記者になったが、会社を退職し、メキシコに私費留学。ラテン文学の影響を受けた。現実と幻想を掛け合せた小説を書き続けている。植物・水をモチーフにした作品や社会問題を問う作品が多い。「目覚めよと人魚は歌う」で三島由紀夫賞、「焔」で谷崎潤一郎賞などを多数受賞。
2.本書;永野均(主人公)は、些細な事で他人の携帯をポケットに入れオレオレ詐欺をする。それを契機に自分によく似た俺が大量発生。家電量販店で働く俺、公務員の俺、大学生の俺、・・自分だけの世界を作ってゆく。しかし、それは長く続かない。やがて俺同士の殺し合いへと発展。文庫あとがきより、「他人との違いが消