中条省平のレビュー一覧
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70年代ノワール小説の最高峰マンシェット新訳だ。精神病院を退院したジュリーは企業家で慈善家のアルトグに雇われて彼の幼い甥っ子ペテールの世話を始める。屋敷のまわりではアルトグの昔の共同経営者で凶暴なフェンテスがうろついていた。ある日散歩中の2人は凶悪な4人の殺し屋に誘拐されてしまう。ジュリーは1人を殺してペテールと共に脱出。殺し屋は容赦なく追いかけてくる。銃撃、破壊、殺人、流血の逃走劇。殺し屋の背後に誰がいるのか?誰が味方で誰が敵なのか。実は登場人物全員がイカれている。善悪の話ではない。生きるか死ぬかの本能の話だ。そしてハッピーでもバッドでもないサバサバしたラストが印象的だ。
昔はノワール小説と -
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引用。
僕はマルトにキスをした自分の大胆さに呆然としていたが、本当は、僕が彼女に顔を寄せたとき、僕の頭を抱いて唇にひき寄せたのはマルトのほうだった。彼女の両手が僕の首に絡みついていた。遭難者の手だってこれほど激しく絡みつくことはないだろう。彼女は僕に救助してもらいたいのか、それとも一緒に溺れてほしいのか、僕には分からなかった。
平静に死を直視できるのは、ひとりで死と向かいあったときだけだ。二人で死ぬことはもはや死ではない。疑り深い人だってそう思うだろう。悲しいのは、命に別れを告げることではない。命に意味をあたえてくれるものと別れることだ。愛こそが命なら、一緒に生きることと一緒に死ぬことの -
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フランス語は、学生時代、テレビ講座を見たくらいで、きちんと学習したことはない。
フランス語と言えば、文法が難しい。
そんなイメージを一掃しようとした本だと思う。
綴りと発音、名詞・冠詞・形容詞と性、動詞の活用、否定・命令の形、人称代名詞、前置詞、そして時制。
書きだすとこれでも結構な学習事項だと思う。
しっかり身に着くまで、と思えば、やはりそれなりの時間は必要だろう。
でも、この言語がどういう仕組みなのかをまず概観するには大変優れた本だと思う。
まず、初学者がくじける発音。
振り仮名はダメ、という語学の先生方のおっしゃることはよくわかるが、これをあえてやってのける。
この割り切りっぷりがす -
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なにかよからぬことが起こるのでは、と家族目線ではらはらしながら読み進める。多感な子供はささやかな事でもそれを経験として取り込み成長する。子どもに愛情をそそくことなく、虐待する親が育てた場合、その経験が卑屈な人間に育てられるような、反面教師的な側面がある。昔は子どもにお酒を飲ませたり、銃を扱わせたりしたのか。
読み手に家族目線とにんじん目線と代わる代わる視点が変わるところも面白い。
とてもシンプルな文体で子供向けの本とはじめは思ったがそうではないらしいです。時折支離滅裂な文章があるところも不安にさせられる。
古典にはこんな斬新なものもあるんですね。色々発掘してみたくなります。 -
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蔦屋に積んであったのを何気なく手に取った。
バタイユ: そのパトスとタナトス 酒井健さんによる本を課題とした読書会 何回かに分けて行われたのに参加している最中だった。
そんなこんなで小説も手に取った。なんだこれは?話の筋が変態的で凄い。バタイユの生い立ちも凄い。父が梅毒で失明しており、まもなく四肢が麻痺する。その父の排泄の手伝いをしていた。目玉の話は悲惨な実話なのだ。玉子と眼球と睾丸は楕円的球体という形態上の類似と音韻上の類似を介して結びつく無意識の連続のドラマだという。シモーヌが司祭にとった行動は、想像だにしなかった。まさか。エドモンド卿と私 語り手?とシモーヌの関係に頭が混乱しました。マ -
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青く若い恋。
この主人公からは知的さと自己観察・分析力の高さを感じる。
そして、ずるさと短絡さも。
マルトへの恋ゆえ、未来の生活など考えていない刹那的な行動を積み重ねる。
欲望と妄想にひたる日々。
なんて地盤の弱い、綱渡りのような恋愛なのだろう。
青い。
しかし、青いからこそ傾けることができた情熱だったのだ。
その心理的な流れを読むのが面白かった。
2019.1.2
フランス文学は読みにくくわかりにくい、という偏見がありました。
コクトーとか、ちょっと苦手で。
でも、この本はすごく読みやすく、共感もでき、面白かった。
若いな、と。
向こう見ずで、刹那的で、疑い方も愛し方もまっすぐで。
おな -
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信仰と幸福の対立の物語。本当に徹底して信仰を実践すると救われるものも救われなくなってしまう、だから歴代の宗教は愛や慈悲というものを超越的なものに対置したのだ、というような説明を聞いたことがあるが、まんまそれを描いたようなストーリー。真の信仰と比べたら、幸福は彼岸のものではなく地上のものであるということを思い出させられる。けれども、悲痛な結末の印象は薄く、それよりも全編を貫く清廉さの方が強く残った。情景、心情、ストーリーのすべてがあまりにも清廉。この極端に汚らわしさを排除し美へと偏った小説を読んでいると、宗教というのは人間の美しいものを美しいと感じてしまう感覚のもとに道徳と幸福の妥結を図ったもの
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