村山由佳のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
恋人との事実婚状態、幼馴染、友情、同性愛…
周の遺言によって旅に出ることとなった4人の男女。
生と死を感じる時間の中で、それぞれが愛の形に向き合っていく物語。
お互いを想う気持ちは確かでもそれを表す形が同じではないばかりに悩み苦しむことは多々あること。
自分がその違いを受け入れて、それでも一緒にいたいと思えるか、そうではないのか…
また、考えさせられる部分が多くあったのと同時に、旅の中の情景描写がとても美しかったのが印象的でした。
特にラストシーンにかけてのサハラ砂漠の様子は息を飲むほど。まるで自分もそこにいるかのような錯覚と感動を覚えました。
久しぶりに心揺さぶられる作品に出会えました。 -
Posted by ブクログ
天使の卵、天使の梯子、ときて天使シリーズの最終章。だがこれだけでも十分読めるし、物足りなさは感じない。
「卵」から14年後の時代で、主人公は望まれない子として生まれ育ったために、自分を「汚い」と感じ続けている14歳の少女。彼女が出会うのが「卵」の主人公だった歩太だ。
「卵」も「梯子」も恋愛が軸になっているが、この作品はもっと根本的な「当たり前のようで当たり前ではない幸せ」が軸になっているような感じ。
主人公の再生でもあるけれど、「卵」で消えない喪失感を背負ってずっと1人で生きてきた歩太の再生でもある。
恋ではないけれど、お互いがお互いを必要とする「愛」がそこにはあってやっぱりこれはラブストーリー。
文庫の内容紹介にある「終わりにして始まりのものがたり」という文がぴったりだった。 -
Posted by ブクログ
3年落ちの新刊。
文庫化までの3年。
滅多なことではハードカバーを手にしない。いつも通りに待った3年。
『天使の卵-エンジェルス・エッグ』を読んだのは、1997年の夏。この『天使の棺』と同じでナツイチに選ばれていた。
村山由佳と出会ったのがその夏で、“いつものペース”から考えると、1年遅れで読んでいたことになる。『天使の卵』の文庫化は1996年だった。
それでも、ほぼ3年遅れのリアルタイムを辿ってきたことになる。
昨日『天使の卵』、『天使の梯子』、『ヘヴンリー・ブルー』を読み、今日『天使の棺』を読むのとは、感じるものが違うだろう。物語の中では15年の歳月、現実の世界では約20年という時を重ねている。その時間の重さも、物語に加味されているからだ。
もちろん、『天使の卵』は当時、完結した小説であった。だから、このような時を重ねることを、誰も──村山由佳さえも──考えなかったはずだ。
もし誰かが考えたとしても、こんなところへはたどり着かなかっただろう。
誰も考え得なかったところへ、物語が導かれた感じがする。
ただ今は、その3年遅れのリアルタイムで、この物語に追従できたことに感謝したい。最初から計算し尽くして、たどり着いた場所ではない。ここはそういうところ。
こんな奇跡のような体験は、そう頻繁に遭遇するものではないだろうから。 -
Posted by ブクログ
我が愛馬イリデッセンス号の待望のデビュー戦が終わった。結果は4着であったが、レースっぷりは悪くなかったと思う。勝ち上がる日を夢見て、また次走へ思いを馳せる。
しかし、馬はいいねぇ~。私は動物は好きではないのだけど、馬だけは別。馬が走ることを思うと色んなことを忘れるよ。
さて、この本、それぞれに心にぽっかり空いた穴を持ち、馬に携わることでしかそれを埋められない3人-乗馬牧場を経営する志渡、看護師の傍ら牧場を手伝う貴子、父親を亡くしイジメによって不登校になってしまったまりも-の物語。
冒頭描かれる札幌競馬場での出来事を経て、3人が出会ってからの牧場の場面からして良いな。北海道の碧い空と海、風の音、草の匂い、その中で弾む蹄の音。出産や馴致や牧場経営の実情の話も織り交ぜながら、馬との世界の楽しさが語られる。
その3人が“エンデュランス”という馬術競技の世界を知ることとなり、物語の後半、その世界最高峰のレース、テヴィズ・カップ・ライドを目指すところが描かれる。
馬のことは好きだけど、エンデュランスのことは知らなかった。
ウィキペディアによれば『一般的に数十キロメートルの長距離を数時間かけて騎乗し、その走破タイムを競う競技である。耐久競技のため、一定の区間毎に獣医師が健康診断を行い、獣医師の判断により競技の続行を決定する。そのため、騎手は常に騎乗馬の状態に気を配る必要がある』という競技は、速さの遺伝子を淘汰する競馬とはまた別の意味で、馬本位の競技であることが分かる。
終盤、厳しいレースの様が描かれ、これを完走するために多くの人々がひとつになる。馬に乗る者、横に添う者、ゴールで待つ者、これまでのしがらみを捨て、悩みを置き去り、それぞれの思いが静かに滾り平らかになる。
牧場で疾走する漆黒の馬の姿で締めたエピローグがグッと来た。