森達也のレビュー一覧
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オウム真理教のドキュメンタリー映画『A』の監督、森達也氏が作品上映までの道程を記した本書。ドキュメンタリー畑を歩んできた氏の文章はやはりドキュメンタリー的である。点の集合で絵柄が浮かび上がる点描画のように、遠目に見ると一つの像が現れるモザイクのように、本筋には無関係のような描写を書き込むことで、本筋の輪郭を浮き彫りにする。
オウム真理教にレッテルを貼らず、内部から見た外部を描くことで、オウム真理教の真実を描こうという試みは、ゆっくりと森氏に迷いをもたらす。それは、
①真実は一つではなく無数にある
②信じない者が信じる者に肉薄できない
③ドキュメンタリーに中立はありえない
という三重苦となり、難 -
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仏教、キリスト教、イスラム教(とユダヤ教)の出自とあらましが分かりやすく解説された本。とてもおすすめ。
人類史、世界情勢、自国・他国文化を理解する上で必須の教養だと思う。
それに海外文学、特に古典名作を読む上で、その地の宗教について知っていると理解が深まる。
他所の宗教はさておき、自分が拝んでいる相手が何であるか、どこから来たのかくらいは把握しておきたい。
・「創造主」「救世主」「悟りを開いた人」「精霊」を全て「カミ」という分類で一括りにしている現状は解せない。
そのいい加減さがいかにも日本の宗教観らしいとも言えるが、よく見てみると全く異なった存在。その中から一体何に手を合わせるのか、何を信 -
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■生きづらさの果てにあるもの、その究極形態の一つが自殺といえる。
自殺した本人の遺書や遺族らへの聴き取りをもとに厚生労働省が集計した過去10年間の自殺原因・動機別の統計がある。それを見ると成人の場合、ずっと「健康問題」が第1位であるが、20歳未満ではその割合が年々減少し代わって「学校問題」が第1位となっている。また、小中学生を中心に「家庭問題」も増えている。
近年の日本では経済格差の拡大が大きな社会問題となっているが、それとともに「経済・生活問題」も自殺原因としてよく指摘されるようになった。事実、成人の場合ではそれが全体の2~3割を占めるようになっている。しかし20歳未満ではそれほど多くは -
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辛口の映画評論家は絶滅危惧種なのか。
確かに平坦な褒め言葉ばかり並べる映画評ばかりだ。
新聞の書評、映画評を読むのは年寄りだけだそうだ。
そうなのか、今はそんな時代なのか。
私は未だに読んでるけど。
確かに誰かの映画評を頼りに映画を観に行く事はまま有る。しかしキネマ旬報すら信じられないなら何を頼りにすればいいのか。
邦画を見なくなって久しい。
学生時代、キネマ旬報のベストテンを見て「サード」を見て「赤い髪の女」を見て「曽根崎心中」を見て「太陽を盗んだ男」を見て「泥の河」を見た。
全てが面白かった。
大阪映画サークルに入っていた。
自主映画上映に面白い企画が沢山あった。
今の若い連中は何を観てる -
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2005年に発売された「一冊でわかる」シリーズの『政治哲学』の岩波現代文庫版。
<目次>
第1章「政治哲学はなぜ必要なのか」、第2章「政治的権威」、第3章「デモクラシー」、第4章「自由と統治の限界」、第5章「正義」、第6章「フェミニズムと多文化主義」、第7章「ネイション、国家、グローバルな正義」、解説「政治哲学はどのようなものとなりうるのか」、岩波現代文庫版あとがき
<レヴュー>
訳書の体裁は2005年版とほぼ変わらないが、文庫版では紙幅の都合で図版をカットしたとのことで、特にロレンツェッティの寓意画がないのは少々もったいない気がする。とはいえ代わりに参考文献リストがさらに充実したものとなって -
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オウムのドキュメンタリー映画「A」の撮影について、森監督自身が振り返っている本。
オウムサリン事件で、マスコミはろくな取材もせずに、あらかじめ用意されたストーリーに沿って、視聴者が望む形のレポートを量産する。
オウム内部では、外部世界と隔絶し、外のことを考えずに純粋培養的に生活をしている。
この外の世界と中の世界のはざまでもがいている荒木さんを取材することで、オウムの生活から外を見ることで新たな視点を得ようとする。
オウム、マスコミともに自らの主義主張で相手の立場での視点を失っている。その主義、ストーリーに乗れないものは排除される。
森監督の企画も、テレビ局の考える「企画」としてわかり -
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オカルトについて、賛成でも反対でもないニュートラルな視線から改めて見つめ直した森氏のルポルタージュ。
世の中なんでもかんでも黒か白かみたいな現代において、森氏のニュートラルな視線は冷静かつ論理的で読んでいて安心します。
山羊羊効果についての考察も面白いし、日本心霊科学協会などの団体のリーダーに直接インタビューする場面はなかなか知的スリルを味わえます。
てゆうかそんな公益財団法人があるなんて!
他にも森氏本人が体験した説明のつかない事象など…
子供の頃超常現象にハマっていろんな本読んだ身としてはこの本でまた考えをアップデートできて読んでる間ワクワクしてとても楽しかったです。
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コロナ禍での様々な出来事、事象をテーマ別に同じ執筆陣が1年半にわたり3回に分け論じていくという企画自体が素晴らしい。なるほどそれは戦後ということでは未曾有の長期にわたるインシデンスだからこそできる企画。しかも全く他人事ではなくリアルタイムで自ら関わっていく物語でもある。
しかも戦前では、自己であれ他者であれ何らかの規制とバイアスがかかったものになっていたはずだ。さらに現在のように圧倒的に世界中の情報が瞬時に手に入る環境ではない。
このことから今現在だからこそ出来る企画、やるべき企画、読むべき企画であることは間違いない。
執筆陣に偏りがないとは言えないが(いや、ある筋に言わせれば十分に偏って -
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渾身の一作。
これ、おかしくね??
が詰まっている。
地下鉄サリン事件が起きた当時、私はまだ小学校に入ったばかりで、麻原彰晃が逮捕されたとき、学校から帰ると母親がテレビにかじりついていたことをよく覚えている。
ショーコーショーコーショコショコショーコーアサハラショコー♪の歌を無自覚に歌って親に怒られたりしていた。
とにかくとっても悪くてひどいことをしたひとたち。ということだけが私の中には残って、その後特に自分の頭で考えることをしてこなかった。
野田秀樹のキャラクターを見たときに、少し興味がわいたけど、それもそんな捉え方ができるのかっていうようなレベル。
先日森達也さんの別著書を読んで、このA -
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以前から気になっていたが、なかなか手を伸ばせずにいた。
それが、このタイミングで購入。
品川のくまざわ書店で、森達也関連の本が3冊もあったのだ。
読んでみて、もっと早く読めばよかったと思ったほど。
マスコミの機能不全を指摘したいがためではなく、
日本全体が陥ってしまった「思考停止」という言葉に気がつくために。
オウム真理教は、明らかに私達の社会から生まれたもので、
理解できないかもしれないが、そこで思考停止するのではなく、
そこから問いを立てることが、知性のするべきことなはずである。
それを怠ってきた日本社会の20年近くの欠落はあまりにも大きい。
1995年以前の日本社会とその言論が -
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僕はお仕事の一つとして、「お肉はどのように作られて僕らの食卓に届くのか?」というお話をするために、小学校に招かれて授業をすることがごくごくたまにあります。名付けて「いのちの授業」というものです。
僕らが生きていくためには、栄養を摂らなければならなくて、そのためには「他の生き物の生命」をいただかなくてはならないわけで、それを残酷で嫌なことだと思ってしまうと、食べ物を食べることができなくなってしまうわけです。
でも、それでは健康に成長することができなくなってしまうのですから、「他の生き物の命」をいただくことについて、何らかの折り合いをつけなければならないということになるのだと思います。
僕の