あらすじ
ネット発の流行語にみる
「息苦しい日本」の正体!
「親ガチャ」という言葉が話題を集めている。
まるでくじを引くかのように、生まれてくる子供は親を選ぶことができない。
人生が上手くいかないのは「ハズレ」を引いたせいだ――。
時に、そんな自虐や冷笑を含んだ思いも込められるというが、
そうした概念が多くの人の共感を集める背景にあるものとはいったい何なのか?
本書では、日本社会の表層に浮上しつつある違和感や陋習(ろうしゅう)、問題点などに着目し、
7つのテーマに沿ってそれぞれ識者が掘り下げる。
第1章 親ガチャという病
生きづらさのなかで固定化されゆく“自己像”
土井隆義(社会学者)
第2章 無敵の人という病
「真犯人」は拡大自殺報道を垂れ流すマスコミ
和田秀樹(精神科医、評論家)
第3章 キャンセルカルチャーという病
被害者への過度な感情移入が議論をシャットアウトする
森達也(映画監督、作家)
第4章 ツイフェミという病
フェミニズムを攻撃や誹謗中傷の「隠れ蓑」にしてほしくない
室井佑月(作家)
第5章 正義バカという病
スケープゴート叩きの裏に潜む「不都合な真実」
池田清彦(生物学者)
第6章 ルッキズムという病
「相手ファースト」で委縮し“素顔”を覆い隠す若者たち
香山リカ(精神科医)
第7章 反出生主義という病
「人生の虚しさ」の大衆化により蔓延している苦しさ
中島義道(哲学者)
「はじめに」より抜粋
生まれた地域や属性、性別などが、その人生に大きな影響を及ぼすことは間違いない。けれど、「ガチャ」というあまりに無機質な言い方にショックを受ける人も少なくないはずだ。そこには、自らの運命をせせら笑うかのような自虐、諦めのムードが漂う。内に秘めたとてつもない悲しみをごまかしているかのようにさえ感じられる。日本を覆う、閉塞感や生きづらさ。そういったものが一種、病理のように「ことば」として社会に浮上している側面はないだろうか?
本書はそんな思いを出発点とし、令和ニッポンにおいて注目を集めている流行語を軸に、6人の識者にインタビューを試みた。第1章に限っては、「親ガチャ」にかんする論考をまとめ、大きな反響を呼んだウェブ記事「『親ガチャ』という言葉が、現代の若者に刺さりまくった『本質的な理由』」(現代ビジネス、2021年9月7日配信)を執筆した社会学者・土井隆義さんに寄稿して頂いている。
「時代を一言で象徴するキーワード」など、あるはずがない。
しかし、話題を集めている言葉を突破口に、その背景にあるかもしれない何かを手探りで捉えようとする試みに意義を見いだしたい。
本書が照射しようとするものは、日本を覆う「空気」の一片だ。
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Posted by ブクログ
■生きづらさの果てにあるもの、その究極形態の一つが自殺といえる。
自殺した本人の遺書や遺族らへの聴き取りをもとに厚生労働省が集計した過去10年間の自殺原因・動機別の統計がある。それを見ると成人の場合、ずっと「健康問題」が第1位であるが、20歳未満ではその割合が年々減少し代わって「学校問題」が第1位となっている。また、小中学生を中心に「家庭問題」も増えている。
近年の日本では経済格差の拡大が大きな社会問題となっているが、それとともに「経済・生活問題」も自殺原因としてよく指摘されるようになった。事実、成人の場合ではそれが全体の2~3割を占めるようになっている。しかし20歳未満ではそれほど多くはなく、5%にも達していない。こうしてみると若年層の自殺では健康問題や経済問題よりも人間関係に関わる問題の比重が大きいと言える。
■人間関係に関わる問題に通底しているのは孤立状態の深刻さであるといってもよい。
■配偶者と死別した人・離婚した人・未婚の人は結婚して家庭を持っている人と比べると自殺率が3倍以上も高くなる。自殺が孤立の病であるといわれる所以である。
■2020年は20歳未満の自殺者も際立って増加した。自殺率の上昇はすべての年齢層で見られた現象であるがその倍率は若年ほど高い傾向を示している。20歳未満では前年比の2倍で過去最多となった。特に10代の女性で増加率が凄まじかった。
人間関係の孤立感と人生の不遇感は男性より女性の方が強く刺激されやすい構図になっている。2020年はとりわけ若年層の女性において社会的孤立が深刻化した年であった。
■「居場所がないと感じること」にストレスを覚える人は男女ともに年齢が低くなるにつれて多くなっており、20歳未満で最高値を示している。
■ニーチェも言っているが「その人にとっての一番の弱点がその人を救う」ということがある。
Posted by ブクログ
トレンディなキーワードを切り口に有識者が語る。親ガチャ、無敵の人、ルッキズム、キャンセルカルチャー、反出生主義など。読めばバランスの取れた意見が多く、一つ一つはあっさりとした内容だが、考えさせられる。
室井佑月が、性的搾取という言葉に対し、同性間でも意見が分かれる事を書いている。グラビアやホステスみたいな職業の是非を問うもので、女性にも賛成派と反対派がいるという事だ。こうした設問に対し、いちいち決着をつける必要はない。世の中に、両方の意見があって良いのだ。にも関わらず、正義バカと池田清彦が言うような、ポリコレの名を借りた、匿名のルサンチマンが奇妙な正義感と責任感で世直しを演じ、どちらに絞ろうと主張する。足りないのは知性。正義バカ、とはよく言ったものだ。
無敵の人に触れたのは和田秀樹。古くは、秋葉原通り魔事件、附属池田小学校事件など。これらは自爆覚悟の拡大自殺なので、マスコミも自殺報道のガイドラインに従い取り扱うべきだと。まあ、これも分かる気がするが、こうした事件を報じないわけにはいかないだろう。無敵の人を作らないためにどうするか、しようもない偏差値思考、生産性序列主義から、人間らしく生きられる社会を目指すべきだろう。親ガチャとか子ガチャなどと嘆く事になる採点基準、つまり社会制度と通念こそ、諸悪の根源である。
Posted by ブクログ
信頼している識者の方が何人かいたので、ある程度興味深く読みました。ただ、全体としては急拵えな感が否めないですね……。まとまりのある感じではないです。
Posted by ブクログ
親ガチャ・無敵の人・キャンセルカルチャー・ツイフェミ・正義バカ・ルッキズム・反出生主義、といったネットスラングをキーワードとして、その背景にある病的な社会状況について、6名の識者にインタビューした。
それぞれの言葉の背景について語られていること、なるほどで、こんな日本人で大丈夫なのか。。と暗くなりました。
Posted by ブクログ
それぞれ考えさせられる話だった。
相手を不快にさせないために、映える写真をアップし、親ガチャと言う言葉でオブラートに包んで深刻な自分の状況を軽く見せる。
コスパ、タイパという言葉が流行り、効率を追い求めて自分達を追い込んでいる世界で、たぶん私たちは立ちどまり、論破ではなく、対話していくしかないんじゃないか、という気がしてきた。
世界は繋がっているのに、そこに自分が困っていることを知っている人はいないし、だから助けてくれる人もいない。それは、たぶん、物凄い孤独だと思う。
Posted by ブクログ
親ガチャ、という言葉は刺激が強い。けれど、どこか、中空だ。親は選べないけど、こうした私がいるのは、先祖から延々とつないできた命の営みの必然だったりする。問題は、この言葉が一見生まれによる不運さ、を切り取っているようで、強烈に親ガチャで決まるような社会は生きるに値するのか? という問いを内包しているのではないか、ということだ。生まれに着目すれば、次にでてくるのは育ち。育ちとは何か。環境と引き継いだものの影響の及ぼしあい。
しかし、親ガチャで決まるということは、この間の一切合切が、省略されたレールの上に載っているということか。透明カプセルのなかで、社会そのものをスルーする。そこにあるのは、うまくやっていくために意図的にコントロールする仮面をかぶった自己と、そうでない自己の強烈な解離がおそらくあるのだ。
この本は池田清彦、中島義道、和田秀樹、室井佑月、森達也、香山リカ、土井隆義さんの小論集。視点が、それぞれ少しづつ違っていて、不思議なトートロジーの尾を踏むような現象が同時多発的にみられているようだ。これは何を意味するのだろうか。たぶん、突破力の圧倒的な不足なのではないだろうか。
Posted by ブクログ
和田秀樹さんや池田清彦さん香山リカさんなどの有識者との対談を交えて、ネット発の流行語から今の「息苦しい日本」の正体を暴いた一冊。親ガチャ、無敵の人、キャンセルカルチャー、ツイフェミ、正義バカ、ルッキズム、反出生主義など、どれも面白い題材かつ、超個性的なメンバーの対談もあいまって非常に面白かった。ネットが好きで、いつもツイッターで情報取集している人にオススメ。