森達也のレビュー一覧
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購入済み
グイグイ引き込まれる
特にプロレスファンという訳では無いのですが、森達也の作品がわりと好きで、立読みしたところ面白そうだったので購入しました。
本作は、戦後の日本とアメリカで、観客と関係者の憎悪を一身にニヤニヤとわらいながら浴び続けた悪役レスラー、グレート東郷に視点を当てたドキュメントですが、読んでいるうちに、当時の「社会」が見えてくるような気がします。
それと同時に、グレート東郷という人物にだんだん興味が湧いてきて、活字に吸い込まれました。
文章や内容としては、いつもの森達也らしく終盤の絶妙な尻切れトンボ感はありますが、作家のスタイルなのかな、と、慣れてしまったので気にはなりません。
間違いなく良作です。 -
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ネタバレ私たちの中に確かにあるオウムへの「得体の知れない恐ろしさ」。
当時のマスコミはオウムのカルト的側面のみを強調し、オウムを「麻原彰晃」とほぼ同義で扱っていた。
信者だって一人ひとり異なる人格をもっているはずなのに「オウム」と一括りにされて画一的にしか報道されない。著者はその報道に感じる欠落感を求めてドキュメンタリーを撮り始める。
広報の荒木をピンホールとして「オウムの中から見た外の社会」を照射しようと試みるが、結局オウムについては「何もわからないことがわかりました」。
非常に示唆に富んだ題材であり、また個人的にこういった「人を信じ込ませてしまう」ものに興味を持っているので、大変面白かった。オ -
Posted by ブクログ
職業をエスパーにした人たちの日常、メディアで見るエスパーたちの本音などがすごく丁寧に書かれていて面白かった!!超能力はあるかないか、幽霊や宇宙人はいるかいないか、この本はそんなことを主張したわけじゃないし、森達也なんて目の前で長年さんざん不思議な現象を見てきても、「結局わからない」っていうスタンスを取っている。さんざん見ても大槻教授のように「絶対インチキ」という認めない人もいれば、見てもないのに盲目的に信じる人もいる。この本はそんな頑なになってしまう人間の不思議さや、不可思議現象を隠そうする何年にもわたる社会の流れ、メディアのあるべき姿をできるだけ客観的に述べようとしている。清田益章、秋山眞人
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Posted by ブクログ
稀代の悪役レスラー「グレート東郷」とは何者なのか?という問いかけを追跡する旅。
数年前、著者が監修?してNHKで特集していたプロレスラー列伝から本書を知り、東郷に興味を持った。その後、DVDで試合も初めて観た。試合内容はともかく、登場から最後までの雰囲気がとても怪しく大いに楽しめる。大観衆の中で1人憎まれるためには、大いなる勇気と恍惚が必要であっただろう。
日本に対し敵国意識が旺盛であった戦後アメリカマット界に君臨し、一世を風靡した大悪役東郷。お約束な世間のコードにのって分かり易い「悪」に徹することで巨万の富を築いたが、また、プロレスラー力道山を育てた一人でもあり、その後、日本マット界へ執着し -
Posted by ブクログ
ネタバレ公正中立、客観的、わかりやすい報道…
テレビにおけるこれらの美麗文句を疑ったことがあるだろうか。またテレビやドキュメンタリーに対してこれらを掲げて批判をしたことはないだろうか。
筆者はこれらの美麗文句をすべて幻想であると切り捨てる。ドキュメンタリー、いや映像の産物はすべて作為的なものであり、表現行為であり主観的である、と。そしてそれら表現行為は、その加害性から脱却することはありえないと。
作中ではマスメディアに対する批判も行う。メディアの商業化が一気に進み、国民が望む「わかりやすい」簡素化かつ扇動的な報道ばかりが目立つと。特にオウム以降、それが加速したという。この原因を、筆者は個々人の葛 -
Posted by ブクログ
村上春樹の『アンダーグラウンド』を再読
→某雑誌の最新号で森達也のインタビュー記事を読む
→「そいえばこの人は『A』っていうオウムの映画撮っていたなぁ」
→某お気に入りの古本屋で本書の発見
というつながりで読んでみました。
自分はこの『A』という映画見ていないし、オウム事件の際のマスコミとかはまだそんなに気にするほどの年齢ではなかったので何とも言えないけ
ど、最近新聞を読んだり時々テレビを見る中で感じていた「マスコミに対する不信感」がこの本を読んで少し「理解できた」気がした。
そして、初めて村上春樹が『アンダーグラウンド』の「出口のない悪夢」で
述べていた怖さとかが「理解できた」気がした。 -
Posted by ブクログ
頁を捲る手が止まらず一気読みしてしまった。スプーン曲げの清田益章、UFOの秋山眞人、ダウジングの堤裕司という超能力者3者3様の在り方が非常に興味深い。そして森達也の著作に何度も出てくるメディアへの懐疑、ドキュメンタリーに対する姿勢、なにより物事へのアプローチの仕方というものが、地下鉄サリン事件をはさみ8年間にわたるこの取材過程(もちろんその間には『A』もある)の中で方向付けられたことがわかる。毎度ながらこの人の視点には共感できる。取材対象を撮りながら、自ら煩悶し続けるといういつものアレだが、ただ今回に関しては少し無理矢理拒否している部分が見えるようにも思える。文庫版あとがきの最後の最後の一言が