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【第33回講談社ノンフィクション賞受賞作】「なぜあんな事件が起こったのか、その理由と背景を今最も考えているのは(これほど皮肉なこともないけれど)、この事件の実行犯であり、今は死刑判決を受けている元信者たちだ」――地下鉄サリン事件以降、日本社会は凶暴で邪悪な存在への不安と恐怖に煽られ、セキュリティ意識と応報感情を急激に高揚させた。事件の本質を探り、変化の方向性を見つめる問題作。
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Posted by ブクログ
オウム真理教事件の後に社会が変質した(あるいは、その速度を増した)ことについては銘記しておくべきで、その一助になる一冊。今の日本社会が「こうであること」は当然のことではないので。
テレビや新聞では分からない、疑問に思っていたことに答えてくれた本。教祖と弟子がお互いに忖度し合ったのではないかという話はありそうなことだと思った。そして、信じられないようなことが公然と行われていることに驚いた。
真相を究明するよりも、物事を収束させて早く安心したいと思う人の方が多いってことだろうか。それでほんとに安心できるのかは疑問だけど。
オウム真理教は、自分が大学のときに上京して初めて一人暮らしをした杉並区永福町が、彼らが立候補した選挙区になっていたので、毎日駅前で「しょ~こ~、しょ~こ~、あ・さ・は・ら・しょうこ~」という歌を聞き、なぜか今もって理由がわからない象のかぶり物をした若者たちが井の頭線永福町の駅前でチラシを配っているの...続きを読むを見ていた。 その後の1994年3月、就職前の卒業旅行で乗り継ぎ地のモスクワ空港で成田への帰国便を待っているときに、やたらと白衣の日本人が目についた。時折ヘッドギアをつけている人が混じっているのを見て、ロシアでは何か変な医療旅行が流行ってるのかと思っていたら、乗り込んだアエロフロートの飛行機のビジネスクラスのシートの一角を、さっき見た白衣の日本人が占めており、その中に麻原彰晃の姿を認めたことで合点がいった。成田空港でトイレに行くのもお付きのものがぞろぞろとついて回るのを見てすごいなあと思う一方、滑稽な人たちだなと思っていた。 彼らが、その一年後、あんな大事件を起こすとは思わなかった。 上の件は、飲み会で散々ネタにした後、裁判の行方も気にせず、日本が忘却するのと同じように、自分の中でも忘却するに任せていた。 その後、村上春樹が上梓した『アンダーグラウンド』と『約束された場所で』を読み、オウムのことを思い出したが、やはり深くその意味を考えることがなかった。著者がいう「忘却」に、自分も同調している側のひとりであった。最近になるまで映画『A』や『A2』の存在も知らず、もちろんこの『A3』という本もその存在自体が目に入っていなかった。麻原彰晃と同じ飛行機に乗って、そのことをネタにして自慢げに話していたのにも関わらず。 オウム事件と同じくらい、オウム裁判には注目が集まるべきだったと思う。 森達也がオウムに出会ったのはある意味では我々にとって幸運だったのかもしれない。 来年の2015年は、あの年から20年になる。
麻原彰晃および事件について、マスに扱われない視点を提供するノンフィクション。自分が10代の頃の事件、20代でのその後の裁判経過、30代での最近の動き。事件当時は多面的な見方があまりできておらず、マスメディアの情報によって作られる『雰囲気』への盲目的な追従をしていたなと振り返りつつ。オウム以前以後、は...続きを読む確かにあるな。
最初に読んだときは「知らないって恐ろしい」と思った。 再々読後の今は「知っていて何も出来ない」のが心底恐ろしい。 どうすればいいのかわからない。 だから一人でも多くの人に読んで欲しい。 そして考えて欲しい。 「これはおかしい、変だ、納得できない、どうにかしたい」 という声が増えて大きくなってくれるこ...続きを読むとを願います。
秀逸なメディア論であり、また、人間の弱さ愚かさを書いた本でもある。 あの、オウム事件の熱狂は何だったのか?そして裁判への無関心さは何だったのか?自分も思考停止していたが、改めて本書を読みその不可思議さ やおかしさを知った。 筆者のスタンスは誤解を多く産んだようだが、誤解する人は森氏の論旨を理解し...続きを読むているのだろうか。少なくとも私には、森氏の主張の方が正しいように思える。
雑誌への連載と同時にオウムの裁判が進行していく緊迫感がページをめくらせる。実際、このような形だけの裁判だったのか。 それに関してあまりにも無関心だった。世紀の事件だったのに。 もっと話題になっていい本。衝撃的な内容だった。 物事をt真円的に見る。意識しているつもりだが、まだまだだ。
なぜこのような事件が起こったのか。 その理由と背景は、未だ明確になっていません。 地下鉄サリン事件以降、日本の社会は邪悪な存在への不安と恐怖に煽られ、セキュリティを急激に強化してきました。 事件の本質を探り、不明な点を明らかにしていく問題作です。 時だけが過ぎてゆく。でもこの時は無限ではない。やが...続きを読むて終わりが来る。麻原は絞首台に吊るされる。そのときに自分が何を思うのかはわからない。でもこの社会がどのような反応をするかはわかる。 それはきっと、圧倒的なまでの無関心だ。 ー 261ページ
p.26 こんな事情を背景にモザイクは濫用され、やがて視聴者も馴れ始めた。つまり、例外の常態化だ。 p.93 かつて今も死刑を決めた判決文の多くには、「死刑を求めざるをえない」との常套句が、とても頻繁に使われている。つまり死刑は「突出した刑罰である」との前提が存在していた。実際に他の刑罰のすべてが...続きを読む教育刑であることを考えれば、死刑はきわめて例外的な刑罰だ。でも光市母子殺害事件において最高裁が出した「死刑を求めない理由はない」との二重否定が意味することは、まずは「死刑ありき」という前提だ。例外が例外ではなくなった。 p.249 強引な施設誘致の背景には、とにかくオウムの痕跡を消し去りたいとする地元の要望が大きく働いていた。跡地のままならば以前の記憶が滞留する。だから新しい何かで更新したい。 p.323 なぜオウムが不特定多数を殺戮しようとしたのか、その理由がどうしてもわからない。だからこそ不安と恐怖が疼き続ける。善悪二分化が進行する。これに対抗するために集団化が進み、見えない悪の可視化を求め、過剰なセキュリティ社会が出現し(現在の日本の監視カメラ数はイギリスを抜いて世界一位と推測されている)、厳罰化が進行した。 p.326 アーレントが(君が絞首されねばならぬとした)「その唯一の理由」としたことは、「多くの人の殺害に関与したから」ではなく、ましてや(最近の日本の裁判官が判決理由で述べるような)「残虐このうえく」とか「あまりに身勝手すぎ」とか「更生の可能性もなく」でもなく、ナチスという政治体系の指示に従ったことである。(アイヒマン) 裁かれるべきはアイヒマンの特異性ではなく、優秀な中間官吏としてのアイヒマンの凡庸さなのだ。
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