北杜夫のレビュー一覧
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大正時代を生きた風変わりな精神病院経営の一族「楡家」の歴代記……に見せかけて、実際は作者である北杜夫の一族をモデルにした作品。北杜夫と言えば言わずもがな斎藤茂吉の息子であり、当然斎藤茂吉モデルのキャラも出てくる。作中に挟まれた「ドイツ留学中に憧れの心理学者にあったら握手を拒否され以後その人を恨み続けた」というエピソードもまさしく茂吉のエピソードらしい。茂吉は色々激しやすい人だったと聞いていたがさもありなん。とはいえこのエピソードはそりゃ怒って当然だが。
第一部は主に楡基一郎とその息子(婿養子)の徹吉(モデルは茂吉)、あとは楡家の三女桃子が中心だ。それ以外の楡家の人びとももちろん出てくるし、楡家にまつわる人々、主に楡家が経営している帝国脳病院に務める人々も多数登場する。楡家は基一郎が興してから1代で繁栄した一族のようで、基一郎の尋常ならざる手腕が伺える。とはいえそれに比例して基一郎はかなり変人だし家族も一癖も二癖もある。ありすぎる。楡家とそれにまつわる人びとという大所帯が作中これでもかと個性を発揮して暴れ回る様はシンプルに面白い。そこに当時の習俗や歴史的な出来事が絡み合いさながら歴史小説のような様相も呈している。
あくまで庶民(大病院の経営者であり一応政界進出も果たすのでかなり上層よりではあるが、それでも一市民の立場ではある)を材に取りながら生き生きとその実相を描き出し、当時の人々の生き方や思想を描き出している。三島が市民文学の完成と称えた理由がわかるような作品だった -
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今から50数年前の小説。今から40数年前に当時小学生だった私は夏休みの読書感想文にこの本を選んだ。しかし、ほとんど読まないうえで適当な感想文を作って提出した。
罪悪感から、いつかちゃんと読まないといけない、と思い、ずっと手元に置いていた。それを今日、読み終えた。もう50歳を超え、老後を気にする年になってやっとだ。本当に長いことかかった。
内容は子供向けの童話のようであり、難しい言葉も表現もなく、読みやすいと思うのだが、なぜか読めなかった。
どうしても読めなかった理由は、巻末の串田孫一氏の解説を読んで理解できた。
私はまじめでお堅い性格なので、北杜夫先生のユーモアがわからなかったようだ。 -
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ネタバレ一代で大病院を築いた楡家の栄枯盛衰。
のほほんと始まり気楽なユーモア小説的なものかなと思いきや、突如として数々の災厄が楡家に襲いかかる。
楡家の人員は、お互いに憎み合っているという程ではないものの、自分のために他人を利用するか、あるいは疎ましく思っているかで、心の交流というものがほとんどない。そのため共感できる登場人物がなかなかいない。強いて言えば院長基一郎の長女龍子の夫徹吉ぐらいだろうか。楡家のごたごたに巻き込まれた被害者的な立ち位置である。
全体的にかなり引きの目線で描いていて、途中からはテンポが速く、あらすじを読んでいるだけのような気分だった。展開としては面白い。 -
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本著は、青春を追体験できる良書である。青春とはその生きた時代によって流行や生き方が如実に反映する。私たちの中にある青春とは違う景色かもしれないが、同時に本質的なところで、バカなことをして笑ったり、挑戦して失敗を多くしたり、恥ずかしいことをしたり、失敗や孤独、葛藤もあり、そして、完璧ではなく、精一杯生きる大切さを体験できる良書である。
本著から学べることは多い、現代(2025)では、SNSや動画が日常の一部となり、常に他人と比較し、挑戦するまでもなく挫折する人や準備中毒になる人、絶望する人はとても多い。そして、「失敗」を人生の終わりとして捉える風潮が強くなっている。
私は間違っていると思う。失敗は誰でもする。歴史の偉人から現代で生きる全ての人間に失敗を多くし沢山乗り越えて今の社会は回っている。失敗を強く責める人の傾向は完璧完全思考、他責思考が強く、全てに受け身で、自己肯定感が低く、自分の弱さを受け入れない人らであり、失敗を責められた場合に、それは本当に励ましの意味で言っているのか、ただ責めることで過去の自分(責め手側)への執着やコンプレックス(劣等感)による責め手側の問題であり、失敗自体の本質的な問題ではない。
本著のあとがきで著者は「大切なことは省略し、くだらないことだけ書いた」と書いたが、得られるものは多く、「社会が若者の冒険や挑戦、時に失敗に寛容だった時代」を追体験することで、読み手の中にその空気感を纏うことができるであろう。挑戦し、失敗し、自分で立ち上がり、前のめりで前へ進む。多くのことが起きる人生だが、本著はきっと挑戦するあなたを応援してくれる一冊となるだろう。 -
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北杜夫自選短編集
「岩尾根にて」「羽蟻のいる丘」「河口にて」「星のない街路」「谿間にて」「不倫」「死」「黄いろい船」「おたまじゃくし」「静謐」の10篇を収録。どちらかというと初期の短編集が中心に選ばれている。
「河口にて」「星のない街路」のような海外を舞台にした不思議な幻想的な雰囲気の短編もあれば、「不倫」のようなSF小説もある。若い頃は、「谿間にて」の蝶を採集するために台湾に渡った採集人の物語と信州の山中を舞台にした世界にあこがれ、信州大学に行ってみたいと思った時期もあった。
「黄いろい船」は作者の中期ともいえる時期のもの。こういう短編小説ももっと読みたかったなあ。