北杜夫のレビュー一覧
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幼少の頃は、目の前の事象を理解する際に紐付ける「経験や知識」が少なくて、「何か別のもの」に紐ついてしまう事がよくあった。「説明不可能なものは、神の仕業である」とする近代までの宗教観に近いものがあるが、人の一生で考えてみても、「説明不可能なものが多い時期」というのは確かに存在するのである。
物語の少年に影のように漂う「不安」の正体はこうした「説明不可能なもの」に象徴され、大人になっても理解はできない「死への不安」によって、その頼りなさは説得力を増す。
天井や壁の模様から空想して何かを生み出したり、小学校における自分自身を仮の設定で妄想を膨らませたり。誰もいない部屋に恐怖を感じたり。遠い記憶は -
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本著は、青春を追体験できる良書である。青春とはその生きた時代によって流行や生き方が如実に反映する。私たちの中にある青春とは違う景色かもしれないが、同時に本質的なところで、バカなことをして笑ったり、挑戦して失敗を多くしたり、恥ずかしいことをしたり、失敗や孤独、葛藤もあり、そして、完璧ではなく、精一杯生きる大切さを体験できる良書である。
本著から学べることは多い、現代(2025)では、SNSや動画が日常の一部となり、常に他人と比較し、挑戦するまでもなく挫折する人や準備中毒になる人、絶望する人はとても多い。そして、「失敗」を人生の終わりとして捉える風潮が強くなっている。
私は間違っていると思う。失敗 -
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北杜夫自選短編集
「岩尾根にて」「羽蟻のいる丘」「河口にて」「星のない街路」「谿間にて」「不倫」「死」「黄いろい船」「おたまじゃくし」「静謐」の10篇を収録。どちらかというと初期の短編集が中心に選ばれている。
「河口にて」「星のない街路」のような海外を舞台にした不思議な幻想的な雰囲気の短編もあれば、「不倫」のようなSF小説もある。若い頃は、「谿間にて」の蝶を採集するために台湾に渡った採集人の物語と信州の山中を舞台にした世界にあこがれ、信州大学に行ってみたいと思った時期もあった。
「黄いろい船」は作者の中期ともいえる時期のもの。こういう短編小説ももっと読みたかったなあ。 -
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自分が学生だった一昔前には「どくとるマンボウ」シリーズはかなり人気があった記憶があるが、その頃は”ユーモアもの”と聞いただけで手を出さない偏った読み手だったので、中公文庫で新版が出た今回、初めて読むことができた。
1958年の11月から翌年の4月にかけて、水産庁の調査船に船医として乗り込んだ著者。当時は留学等でなければまだ海外に行くことが難しい時代だった。行程と著者が立ち寄ったところは、おおむね次のとおり。シンガポール(館山を出て12日目)ーマラッカ海峡からインド洋ー紅海ースエズー地中海ーヴェルデ岬諸島からカナリア諸島(ここが目的のマグロ漁)-リスボンーハンブルクーロッテルダムーアントワ -
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日本語を活字で見ることが好きだ。
だから基本的には読み始めたものはどんなものでも倍速読みでもとりあえず読み終えようとする。
だが、今回は、短編にも関わらず、何度も本を置こうとしたくて堪らなくなった。
一言で言うと不快。
ナチスによる精神患者の安楽死、その大まかすぎる粗筋のみに依拠して手に取ったことを後悔した。そんな短絡化できない気持ち悪さ。
物語のプロットをここに書いてもこの作品の気味の悪さ、不愉快さはとてもではないが表しきれない。黒板に爪を立てたような、顔を背けたくなるような軋んだ音に満ちた正常を装った異常さ。
ナチスの命令に抵抗する医師たちのもがき苦しみ?そんなつまらない文で要約なん