北杜夫のレビュー一覧
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完結編の第3部ではアメリカと開戦直後から日本の敗戦と同様に楡病院も消滅していく様子が書かれています。関東大震災の後に失火から甚大な被害を受け、間もなく初代の院長が病死。衰退の道を辿りながらも一度は再興した楡病院でしたが、戦争という国家同士の争いが民間の精神病院の存続を難しくさせていきました。病院の職員はもとより一家の壮年の男たちもことごとく戦場に駆り出され、そして女たちも子供や兄弟、想う人から否応なく引き裂かれる現実が描かれます。戦争という非日常がこれまでの楡家の人びとのささいな当たり前の毎日やちょっぴり贅沢な生活そして願いまでも奪い去り、時には人格までも変容させてしまう悲しい出来事を引き起こしてしまうのでした。戦争が激化して空襲があったあとの町の様子は、今回の大震災の津波の被害地の様子と重なって見えてしまいました。それでも、一家には誰かしらその血筋を一番濃く受け継ぐものが残っていることが救いに思えました。
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北杜夫のお父さんは歌人の斎藤茂吉です。自伝的要素の強い小説として「楡家の人びと」が代表的ですが、この木精という題名も「はるかなる国とおもふに挟間には木精おこしてゐる童子あり」と詠った茂吉の短歌から採っています。私の父の本棚には茂吉の短歌集と北杜夫の小説が並んでいたのですが、娘の私は短歌にはあまり興味がなく、茂吉の方ではなく北杜夫の本を抜き取りよく読んだという経緯がありました。今回本屋さんで見かけて新たな気持ちで読みました。
副題にあるように、ひとりの精神科医の青年時代の追憶の中に住む人への思慕を中心に自分自身を語る形式を取っています。この小説の前に「幽霊」と題した幼年時代を語る小説がありこれも懐かしい本です。
若いということは悩みも純粋で、体験も瑞々しい。恋愛に関しては尚更のこと盲目的といってもいいのかもしれない。
留学のため異国ドイツにあって反芻する、別れてきた人との切ない回想シーン。そして異国の風景と共によぎるトーマス・マンの小説「トニオ・クレーゲル」の一説。幼少期から青年期にかけての精神形成期にぼくが惹かれるのは、光りとは反対の世界。夜や霧の中、そして霊界を彷徨う死者たちのこと。青年期をはるかに越した今読むと、若い頃の共鳴とは別な角度からこころが震えることに気づくのです。 -
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父の本棚から抜き取って読み始めたのは中学生の頃か高校生になってからのことか定かではありませんが、その頃読んだ本は立派なケース入りの分厚い単行本でした。つい最近逝去された北杜夫さんのマンボウシリーズも楽しく読みましたが、この「楡家の人びと」に代表される純文学といわれる数々の作品も愛読していました。本屋さんの店頭には”追悼北杜夫”の帯がついた文庫本が並んだので早速買い求め懐かしく読みました。
この小説は、大正末期から昭和にかけて東京の青山にあった楡病院(精神病院)を舞台にした物語です。院長の楡基一郎が一代にして築き上げたその病院には楡家の家族はもとより、従業員から患者さんまで大勢が混然一体となって過ごしています。その活気ある病院が関東大震災を経て、暗い時代に同調するように傾いてゆく様子がこの第一部ではかかれています。何といっても院長の楡基一郎のキャラクターが秀逸で、その子供たち特に三人の娘たちが三者三様の人生を歩む姿が印象的でした。 -
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やっぱり面白い。
昔、それこそ中学生ぐらいの頃に読んで面白いなあ~と思った記憶があるのですがやっぱり面白かったです。
とりあえず覚えていたエピソードはハナアブだかコガネムシだかを集めている趣味の2人のエピソードぐらいでしたが。
確かに人間の移動に伴い、今までその地域には生息したことのなかった動植物が繁栄してしまい、その結果その地古来より生息していたモノが被害をこうむる。その対策としてさらにお国はその動物の天敵を輸入する。そんなんで本当に大丈夫なのか?大丈夫じゃなかった例はアマミノクロウサギとか色々ありますよね。
それにしても私は昔ホームセンターで外国産のクワガタやカブト虫をつがいで売っておりました。こんなの繁殖させて良いのかな?と思ってたのですが案の定お客さんがこんなことを教えてくれました。
外国産のカブト虫は大体日本のカブトより大型なので国産カブトのメスは外国産と好んで交わり、その結果雑種がものすごい増えているのだそうです。子孫が残せることにも驚きですがそのうち純国産カブトなんてのはデパートに行かないと買えなくなる存在になるのかもしれない…
人間の都合で連れてこられて、売られて、捨てられて(もしくは逃げだして)繁殖したら今度は退治される。人間ってそんなにエライ存在なのかなあ…と思いながら読み終えました。 -
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美しい文体で、美しいモチーフを用いて、記憶をめぐる物語を描き出す。紡ぎ出された物語もまた美しいのは必然とも言える。
昭和初期、幼い少年の記憶で幕を開け、敗戦前後の高校生の追憶を中心にこの物語は語られる。
非個性的な彼の感覚を通して淡々と描かれる現実と非現実の世界は幻想的でもある。
他人の心を理解することが不可能である以上、「難解である」という感想はとても生まれやすい小説だと思います。山場もありません。それでも、その世界の美しさに、心を動かされます。きれいな文章です。
耽美よりの方、和風好きでかつ洋物に心惹かれるという方なんかにおすすめです。(H19.04.30) -
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海外渡航がまだ稀少だった昭和30年代、水産庁の調査船に船医として乗り込んだ北杜夫が、アジアから欧州までを巡る約半年の船旅を軽妙な筆致で綴った紀行エッセイ。当時としては珍しい海外体験を軽妙な文体でのびやかに描き、著者を一躍人気作家へと押し上げた、戦後ユーモアエッセイの地平を切り開いた記念碑的作品である。
同行した医師ならではの視点から、寄港地ごとの空気や人々の暮らしぶりが生き生きと描かれており、海外旅行がまだ夢のような時代にあって、読者にとっては異国を垣間見る貴重な窓口だったことがうかがえる。難しい理屈抜きに、飄々とした語り口でするすると読ませる軽さも本作の魅力で、今読んでも色褪せない旅の面白さが詰まっている。