北杜夫のレビュー一覧
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誕生日プレゼントに「私が手に取らなさそうな本」をリクエストした私に、友人が贈ってくれた本です。率直に面白かった…!それに表紙や冒頭の印象では、確かに私が選んで読むことは無かったような気がします。本をおすすめしてもらうの、すごく良いですね。
内容は愉快なお医者さんが独特の視点で書いた旅の記録です。諸外国を巡る船の旅というと、目眩く冒険や人生を変えるような出会いや旅を終えて生まれ変わった自分を期待したくなるけれど、そんなフィクションはこの本には登場しません。
旅の船内や旅先での出会いは、あくまで素朴なものであるにも関わらず、斜に構えた態度をとったり訝しんだり全く関係ないことを空想したりする著者の振る舞いを見ていると、不思議と自分も旅に出たくなりました。
今まで相当インドア派だったけど、コロナ禍が明けたら、私もまずは国内から巡ってみようかな。
面白い本でした。他のシリーズも読んでみたいです。 -
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恐ろしいほど狂気に満ちた作品だった。
ナチスドイツがさいしょに虐殺したのはポーランド人でもユダヤ人でもなく、同胞ドイツの精神病患者たちだった、という事実。それを当たり前だと賛同していた精神科医師たちが多くいたと言う事実。
狂気の沙汰にあふれた時代を舞台に、患者を救うため一か八かの博打に打って出た医師ケルセンブロック。しかしそれすら、使命感によって自己正当化された狂気の一端である。
精神科医でもある作者のリアリティ溢れる表現と、鮮明な描写、鬼気迫る行動で、気持ち悪い汗が止まらない。
蒸し暑さが増す部屋で読むべき作品ではなかったな。
正気と狂気の境目はいったいどこなのか?考えさせられる。 -
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時は大正時代。時代の流れのなかで紡がれる楡家の人々の物語。
物語はその中心地である楡病院の院長にして創始者である楡基一郎の一代記でもある。
楡基一郎は立志伝中の人である。大ぼらふきの気質にして、終始、躁状態を思わせるようなハイテンションで行動が変人。当時の時勢に乗って衆議院議員にもなるほどの野心家でもある。
そして、彼を取り巻く家族がまた個性が際立っていてなかなか楽しい。
印象に残る登場人物では、父・基一郎を尊敬して止まず、偉大な父を厳格に崇め奉っている長女の龍子。
ぼんやりしていてどこか抜けているが、おませなところもある三女の桃子。
龍子と桃子に挟まれてどっちつかずの存在である次女・聖子。
長女・龍子の夫にして「マスオさん」として楡病院を継ぐことになっている徹吉。
家族ではないが楡病院の事務長として権力をふるい、鶴のように歩く腰巾着の院代・勝俣秀吉などなど。
この物語の登場人物はどこか何かが変で抜けているか、規律が厳しいあまりやはりどこか変で可笑しみのある人々が次から次と登場してきて、魅力溢れる物語を形作っている。
物語の始終、どことなくユーモラスな旋律が底流にあって、物語全体に深刻さが欠けているところがまたいい。
『マンボウ』シリーズでも全開になっていたが、作者に流れるユーモアのセンスがこの大河な物語に彩りを添えている。
この楡病院の家族はどことなく作者の家族が投射されているように思われ、私は楡基一郎は躁状態の時の作者本人のことかと思っていたら、どうも大ぼらふきだったという祖父がモデルのようですね。(笑)
これほどの家族の大河な物語にもかかわらず、出だしはあまり登場しない飯炊きの伊助爺さんの豪快な仕事場面というところが、オペラの序曲にも似てわくわく感を醸し出していい。
特に序盤の病院職員全員を集めての賞与式の場面は、それぞれの個性と病院の雰囲気を端的に伝えてくれていてなかなか楽しかった。
時代は大正が終わり昭和の第二部に引き継がれる。
三島由紀夫が絶賛したという本書。第二部の展開が楽しみな限りです。 -
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「小説を飲食物にたとえると」『楡家の人々』は「山海の珍味が入った豪華な鍋料理に当たります。」
評したのは倉橋由美子(『偏愛文学館』)さん。
そう
豪華な食事、いえ読み応えのある小説でした。
歌人斎藤茂吉の息子北杜夫がご自分の実家「青山脳病院」をモデルにして
祖父母、叔父叔母、父母の生き生きした姿を明治大正昭和と描き切ったのですから。
脳病院!これだけでも尋常じゃありませんよ。
呼称は時代的でもちろん、今や精神科病院でしょうけど。
個人医師の経営するそういう病院・入院者もいろいろありそうですが、
明治期「脳病院」を創設する祖父基一郎(きいちろう!)さんをはじめ
経営する家族・人々の模様も尋常でなく、悩ましいというわけで
なんでこんなに楽しく面白く描けるのか、ユーモアの秘訣とはこれか、です。
こうなると人間、尋常の人とはどういう人なのか、案外つまらない人なのに違いありませんよ。
時代経過にそったストーリーは知らず知らずのうちに戦前史を辿ります。
例えば1941年(わたしの生まれた年ですが)真珠湾攻撃に至る生々しい経過が迫真。
「ああ、そうだったのか!」と、とても興奮しました。
倉橋さんは「無人島に持っていく一冊の有力候補」「何度食べても飽きない」
だそうです。 -
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アパートの図書コーナーに「楡家の人びと」を見つけました。たまたま、12月24日の日経に紹介記事があり、これも出会いだと思って読み始めたところ、夢中になってしまいました。
本書は楡脳病院を舞台に、大正7年から昭和22年までの約30年の中で、市井の人びとが何を考え、何を食べ、何に喜び、何で生計を立て、何を娯楽として、何に期待し、何に落胆したのかを、生き生きと描きます。
この30年は、軍縮会議、昭和恐慌、関東大震災、226事件、日中戦争、太平洋戦争、そして敗戦と激動の時代です。読み終わった後、本書の扱っているのがたった30年であることを不思議に思いました。それだけ、この作品の扱う時代は変化の激しい時代であることが実感できます。
苦難の時代を描きますが、ユーモアに溢れた描写もあります。特に楡脳病院を創設した前半の主人公である楡基一郎の俗物ぶりには、笑えます。また、当時の都市伝説もちらほらと紹介されています。「赤いマント」は東洋英和がルーツであると、初めて知りました。
三島由紀夫は本書を「戦後に書かれたもっとも重要な小説のひとつ」と評価しています。そんなことよりも、苦難の中で日本人はどうやって生きてきたかを知るために、本書は必読と思います。★★★★★ -
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下巻は、もはやその殆どが戦争小説でした。反論はあるだろうけど、昭和時代、一番大きな事件はあの戦争だと思うし、その時代を生き抜いた一家を描く以上、頁数を割くのもむべなるかなと思ったけど、(今となっては)それほど目新しい描写がないこともあって、ちょっと冗長に思えてしまいました。影も形もなくなってしまった病院。一家離散してしまった家族。栄枯盛衰が見事に描かれた物語。後日談も知りたいと思わせられながらの閉幕。未読ながら、”どくとるマンボウ”ってタイトルで、なんとなくユーモラスなイメージを抱いていたけど、こういう作家さんだったんですね。機会があれば他の作品も、って思わされる力作でした。
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ネタバレ北杜夫という人物のルーツを垣間見る。
旧制松本高校時代、寮生活。東北大学医学部、下宿生活。主にその2つの時代を回顧して書かれた日記。
40歳間近の著者は、ただ昔を懐かしんでいるわけではない。嵐のように駆け抜けた10代20代の記録は戦中戦後の激動の時代を反映して活力、雄々しさを感じさせる。
父、斎藤茂吉を父に持ち”おっかない父”に医学に進めと強制されながら、文学への憧れを捨てず、詩や短歌、小説を書きつづける。
大学を卒業くらいになると内省はどんどん進み、当時の文学と相まって死をも思うようになる。
そんな北氏だからこそ、生きる事についてや、愛という言葉が重いのだ。
これは高校時代から書いていた日記を読み返し、それをもとに書かれた青春記。
青春とは生きた時代によって内容がガラリと変わってしまうのだと思うと共に、これだけの日記が残せた著者は客観的、内省的な目を持っていて天性の作家なのだと思った。
(天性の精神科医でもあったらしい)