北杜夫のレビュー一覧
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時は大正時代。時代の流れのなかで紡がれる楡家の人々の物語。
物語はその中心地である楡病院の院長にして創始者である楡基一郎の一代記でもある。
楡基一郎は立志伝中の人である。大ぼらふきの気質にして、終始、躁状態を思わせるようなハイテンションで行動が変人。当時の時勢に乗って衆議院議員にもなるほどの野心家でもある。
そして、彼を取り巻く家族がまた個性が際立っていてなかなか楽しい。
印象に残る登場人物では、父・基一郎を尊敬して止まず、偉大な父を厳格に崇め奉っている長女の龍子。
ぼんやりしていてどこか抜けているが、おませなところもある三女の桃子。
龍子と桃子に挟まれてどっちつかずの存在である次女・聖子。 -
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「小説を飲食物にたとえると」『楡家の人々』は「山海の珍味が入った豪華な鍋料理に当たります。」
評したのは倉橋由美子(『偏愛文学館』)さん。
そう
豪華な食事、いえ読み応えのある小説でした。
歌人斎藤茂吉の息子北杜夫がご自分の実家「青山脳病院」をモデルにして
祖父母、叔父叔母、父母の生き生きした姿を明治大正昭和と描き切ったのですから。
脳病院!これだけでも尋常じゃありませんよ。
呼称は時代的でもちろん、今や精神科病院でしょうけど。
個人医師の経営するそういう病院・入院者もいろいろありそうですが、
明治期「脳病院」を創設する祖父基一郎(きいちろう!)さんをはじめ
経営する家族・人 -
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アパートの図書コーナーに「楡家の人びと」を見つけました。たまたま、12月24日の日経に紹介記事があり、これも出会いだと思って読み始めたところ、夢中になってしまいました。
本書は楡脳病院を舞台に、大正7年から昭和22年までの約30年の中で、市井の人びとが何を考え、何を食べ、何に喜び、何で生計を立て、何を娯楽として、何に期待し、何に落胆したのかを、生き生きと描きます。
この30年は、軍縮会議、昭和恐慌、関東大震災、226事件、日中戦争、太平洋戦争、そして敗戦と激動の時代です。読み終わった後、本書の扱っているのがたった30年であることを不思議に思いました。それだけ、この作品の扱う時代は変化の激しい -
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下巻は、もはやその殆どが戦争小説でした。反論はあるだろうけど、昭和時代、一番大きな事件はあの戦争だと思うし、その時代を生き抜いた一家を描く以上、頁数を割くのもむべなるかなと思ったけど、(今となっては)それほど目新しい描写がないこともあって、ちょっと冗長に思えてしまいました。影も形もなくなってしまった病院。一家離散してしまった家族。栄枯盛衰が見事に描かれた物語。後日談も知りたいと思わせられながらの閉幕。未読ながら、”どくとるマンボウ”ってタイトルで、なんとなくユーモラスなイメージを抱いていたけど、こういう作家さんだったんですね。機会があれば他の作品も、って思わされる力作でした。
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ネタバレ北杜夫という人物のルーツを垣間見る。
旧制松本高校時代、寮生活。東北大学医学部、下宿生活。主にその2つの時代を回顧して書かれた日記。
40歳間近の著者は、ただ昔を懐かしんでいるわけではない。嵐のように駆け抜けた10代20代の記録は戦中戦後の激動の時代を反映して活力、雄々しさを感じさせる。
父、斎藤茂吉を父に持ち”おっかない父”に医学に進めと強制されながら、文学への憧れを捨てず、詩や短歌、小説を書きつづける。
大学を卒業くらいになると内省はどんどん進み、当時の文学と相まって死をも思うようになる。
そんな北氏だからこそ、生きる事についてや、愛という言葉が重いのだ。
これは高校時代から書いて -