北杜夫のレビュー一覧
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先日亡くなった北杜夫さんの自伝的小説で、『幽霊~或る幼年と青春の物語~』の続編。ドイツの神経研究所に留学した日本人が主人公。作家としての自覚を深めていく主人公の心の軌跡を、北杜夫自身が尊敬するドイツの作家、トーマス・マンの足取りと重ねながら描いています。
チューリヒ郊外キュスナハトまで旅して、そこに眠るマンの墓に語りかける場面はやや感傷的であることは否めないものの、自身のペンネームをマンの『トニオ・クレーゲル』のトニオから取った作家の信仰告白としてもうけとれる、心を打つ場面です。
ご冥福をお祈りします。
追伸
2011年10月27日付『日本経済新聞』に掲載された加賀乙彦さんの追悼文も、心温まる -
Posted by ブクログ
北杜夫さんが亡くなった.「楡家の人びと」を読んで以来,また彼の本を読み始めていたので寂しい.
この本は旧制松本高校から東北大学時代の回想のエッセー.旧制高校での生活を描いた本の中でも最もすばらしいものに入るのではないか.バカバカしいこともたくさん出てくるが,それとともに親友の辻邦生さんや望月市恵先生との出会いも語られる.そして文学に目覚め,真剣に取り組む様子などまさに「青春記」にふさわしい.
現在,旧制松本高校の校舎は旧制高校の博物館みたいになっていて,北杜夫さんの高校時代の物理の迷答案や,昆虫学者になりたいのを父茂吉に反対されてすねて作ったような短歌の色紙などもおいてある.この夏に見たばかり -
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Posted by ブクログ
ネタバレ一代で大病院を築いた楡家の栄枯盛衰。
のほほんと始まり気楽なユーモア小説的なものかなと思いきや、突如として数々の災厄が楡家に襲いかかる。
楡家の人員は、お互いに憎み合っているという程ではないものの、自分のために他人を利用するか、あるいは疎ましく思っているかで、心の交流というものがほとんどない。そのため共感できる登場人物がなかなかいない。強いて言えば院長基一郎の長女龍子の夫徹吉ぐらいだろうか。楡家のごたごたに巻き込まれた被害者的な立ち位置である。
全体的にかなり引きの目線で描いていて、途中からはテンポが速く、あらすじを読んでいるだけのような気分だった。展開としては面白い。