北杜夫のレビュー一覧
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宗吉(北杜夫)が茂吉を父として認めた一瞬。
《本文より》
そのうち、苦労して「赤光」「あらたま」からの自薦歌集「朝の蛍」を入手した。
これらの初期の歌は、ずっと圧倒的な感動を私に引起した。
青年期の感情的、抒情的な歌どもであり、更に私の記憶に懐かしい青山墓地や私がそこで育って嫌だった狂院のことなどが詠みこまれていたからだろう。
私は暗記するまでそれらの歌を繰り返し読み、私自身のとりとめのない、だが切迫した感情にひたった。
そして、昔から単に怖いと思っていた父は、突如として茂吉という崇拝するに足りる歌人の姿として、私の内部で変貌したのである。
あの頃のわたしの異常ともいえる感傷癖は、やはり死が身近に迫っていることからもたらされたもあったかも知れない。父の歌の中でもとにかく「さびし」くて「悲し」ければ私の嗜好ぴったりするのであった。
輝子の天蓋無謀、我儘勝手、傍若無人がよくでている。
《本文より》
母は自分の息子が当時では滅多にいけなかった外国を訪れたことに対して、むらむらと負けてなるものかという持前の好奇心をおこした。それが生来の、母の本性であった。
母にとってはけしからぬことに、二人の息子、つまり私(杜夫)と兄が、「ハンブルクのレーパーバーンは…」云々と話しあったりしているのを聞いていると、彼女の胸の中に生来の祖父ゆずりの好奇心が抗いがたく沸いてきたのはごく自然のことであっただろう。
いや、そればかりではなく、母はッカチで、またいざという場合、男まさりの闘志をふるい起こす性であった。息子に負けてはならぬ。否、彼らを海外旅行においても凌駕してやろう。こうした意思が、母の胸の中にみなぎりだしたことは当然のことであったのである。 -
Posted by ブクログ
タイトルに惹かれてフラフラと手に取った。
すごく気になるタイトル。
北杜夫さんの本は初めて読んだ。
可愛いと思っていなかった孫がじわじわ可愛くなって、ついには爺馬鹿になるまでを書いた「デンヤ」。
タイトルの「デンヤ」についても読めば納得。
そしてとても可愛い。
「ジイジ」って可愛い呼び方だ。
内弁慶のフミ君がかたまる場面も非常に可愛らしい。
にこにこしてしまう。
ホテルのカンヅメでの大失敗を書いた「私はなぜにしてカンヅメに大失敗したか」は、かなりクラクラする長さ。
これでもかと言うほどに詳細。
お風呂にお湯をためる描写がすごく良かった。
こういう瞬間にも物語のプロローグを作れるのが作家なんだろうなぁ、なんて思ったり。
「日米ワールド・シリーズ」はさらに長い。
いったい何の話が始まったのかしら?と思ったら、野球というスポーツを通じて繰り広げられる日米の戦いの記録だった。
アメリカのプロ野球解説者の視点で書かれているので、日本は終始ジャップ呼ばわり。
そしてアメリカに負け続けていた日本が人造人間並みの強さを手に入れる過程と、日本に勝てなくなったアメリカがなんとしても日本に勝つために使うあの手この手がものすごい。
野球のことはあんまり知らないけど、それでもこれはないなと思う。
でもあったらあったでなんか面白いかもしれないとも思う。
日本の監督が作家だとかいうところも。
最後まで勢いに圧倒されてしまった。
読みやすくはなかったけれど、慣れればくせになるかもしれない。 -
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辻邦生について調べていて、この本にぶつかった。辻邦生と北杜夫が旧制松本高校の先輩後輩だというのは知っていたが、作品中に登場しているのは知らなかった。そう言えば、中学時代に北杜夫は結構読んだのだが、この本は読んでいなかった。
太平洋戦争末期の東京から始まり、壮絶な話もあるが、基本的には北杜夫のエッセイらしい馬鹿話・ヨタ話が中心である。彼のエッセイを読むと必ず感じるのは、自分のことを笑い飛ばす精神だ。したたかさとも言えるが、そのおかげで深刻な話も気楽に読める。
タイトルに「青春記」とある通り、北杜夫の青春時代、旧制高校時代から大学時代のエピソードが中心になっている。読んでいて、何だかとても懐かしかった。当然ながら私が行ったのは新制の高校・大学だけれど、雰囲気が似ているのだ。もちろん作中に描かれる旧制松本高校のように過激ではなかったけれど、本当に似ている。私が卒業した高校は、県下の公立高校普通科では一・二を争う問題校で、日々何かが起こっていた。けれど、教員と生徒は基本的には仲が良くて、今思えば一緒に問題を起こしてたような気がする。教育委員会ににらまれた教員は、私の高校に飛ばされるって話もあったくらいで、現在だったら新聞沙汰になるようなことも多かった。けれど、本当に、私たちは毎日精一杯生きていたし、精一杯バカをやったし、精一杯後で思えば恥ずかしいようなことをやった。それが、北杜夫の描く旧制松本高校に、驚くほどよく似ている。
もしかしたら、似ているのは私の高校と旧制松本高校ではなくて、ある程度の年齢になってから振り返る「青春時代」というものかも知れない。人みな青春時代があって、それに対する思いはそれぞれだろうけれど、何か共通する部分もある。その共通部分を思い出させるのが、この本かも知れない。上記のように、基本的には馬鹿話で、笑いながら読めるけれど、読後感はしみじみとしている。それは、読者の心の中の青春時代の印象なのかも知れない。 -
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『マンボウ航海記』と一緒に購入した一冊。
北杜夫氏の訃報を知ったからだ。
これは著者が59歳から84歳まで週刊雑誌に連載してきたエッセイの中から著者が選んで編集した文庫本で「あとがき」が…平成23年8月19日…軽井沢にてとある。
亡くなったのが同年の10月24日だからこの「あとがき」が絶筆だった可能性がある。
そう思って読むと複雑な思いに捕らわれる。
いきいきと夫であり祖父であり躁鬱患者としての日常が描かれている。共感する部分や安心させてくれる所が多い。
苦悩を笑いに描く理性と分析力、客観視できていることに感心した。
ご冥福をお祈りします。(合掌) -
Posted by ブクログ
ネタバレ【追悼・北杜夫―1】
思いっきりネタばらししちゃいますから、本書をこれから
読もうと思われてる方は、ぜひこのレビュー読んで欲しいんです?
これ、軽妙に書かれてるんだけど、
随分と考えさせられちゃいます…大人も読める童話…まさにそう!
つまり、オレンジとおっぱいが好き…という感情は、
どれほど同じでどれほど違うか…ってこと。実は…ボクは、
王様じゃあないけど、オレンジもおっぱいも大好きなんです。
…でもね…本当に欲しいのは…
きっと、愛しい人のおっぱいなんだろうね…つまりこれ、
恋愛感情ってやつです。ところが、愛しい人のおっぱいは、
なかなか容易には手中にできない…そうしたジレンマは
つのればつのるほど感情は高まるもんでしょ?
ほら…王様がさびしいように、多くの誰もがきっと、
さびしいんです…そんな気持ちを味わうようになりながら
人は大人になってゆくんですね。
どんなおっぱいでも好きになれたら楽なのに…
だから、ボク、この王様のこと大好きです。
どんなおっぱいも勝手放題に手中にできる王様より、
こんなふうに逡巡しながら、憧れのおっぱいに焦がれる王様に
限りなくシンパシィを感じちゃうのです。