北杜夫のレビュー一覧
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表題作『夜と霧の隅で』、ナチス下のドイツで"真っ当な"血統保存を目的として行われた分裂病患者の殺害。精神病患者の病院を舞台に、そこで医師として働くケルセンブロック、患者として入院するも、ユダヤ人の妻を亡くし最終的には自殺してしまう日本人のタカハシ、年老いた院長、様々な立場に置かれたそれぞれの人々を描く。
有益か無益か、合理的思考からその二元論的な結論に達してしまいがちだが、そうだとしたら戦時中の精神病患者たちは軍部の目には間違いなく"無益なもの"として映るのだろう。「p252 人間についての僕の考察をいえば、この時代やこの戦争が特に暗黒な目をおおう時代とは思えないね。人間の文化、道徳、殊に進歩 -
Posted by ブクログ
宗吉(北杜夫)が茂吉を父として認めた一瞬。
《本文より》
そのうち、苦労して「赤光」「あらたま」からの自薦歌集「朝の蛍」を入手した。
これらの初期の歌は、ずっと圧倒的な感動を私に引起した。
青年期の感情的、抒情的な歌どもであり、更に私の記憶に懐かしい青山墓地や私がそこで育って嫌だった狂院のことなどが詠みこまれていたからだろう。
私は暗記するまでそれらの歌を繰り返し読み、私自身のとりとめのない、だが切迫した感情にひたった。
そして、昔から単に怖いと思っていた父は、突如として茂吉という崇拝するに足りる歌人の姿として、私の内部で変貌したのである。
あの頃のわたしの異常ともいえる感傷癖は、やはり -
Posted by ブクログ
タイトルに惹かれてフラフラと手に取った。
すごく気になるタイトル。
北杜夫さんの本は初めて読んだ。
可愛いと思っていなかった孫がじわじわ可愛くなって、ついには爺馬鹿になるまでを書いた「デンヤ」。
タイトルの「デンヤ」についても読めば納得。
そしてとても可愛い。
「ジイジ」って可愛い呼び方だ。
内弁慶のフミ君がかたまる場面も非常に可愛らしい。
にこにこしてしまう。
ホテルのカンヅメでの大失敗を書いた「私はなぜにしてカンヅメに大失敗したか」は、かなりクラクラする長さ。
これでもかと言うほどに詳細。
お風呂にお湯をためる描写がすごく良かった。
こういう瞬間にも物語のプロローグを作れるのが作家なん -
Posted by ブクログ
辻邦生について調べていて、この本にぶつかった。辻邦生と北杜夫が旧制松本高校の先輩後輩だというのは知っていたが、作品中に登場しているのは知らなかった。そう言えば、中学時代に北杜夫は結構読んだのだが、この本は読んでいなかった。
太平洋戦争末期の東京から始まり、壮絶な話もあるが、基本的には北杜夫のエッセイらしい馬鹿話・ヨタ話が中心である。彼のエッセイを読むと必ず感じるのは、自分のことを笑い飛ばす精神だ。したたかさとも言えるが、そのおかげで深刻な話も気楽に読める。
タイトルに「青春記」とある通り、北杜夫の青春時代、旧制高校時代から大学時代のエピソードが中心になっている。読んでいて、何だかとても懐 -
Posted by ブクログ
『マンボウ航海記』と一緒に購入した一冊。
北杜夫氏の訃報を知ったからだ。
これは著者が59歳から84歳まで週刊雑誌に連載してきたエッセイの中から著者が選んで編集した文庫本で「あとがき」が…平成23年8月19日…軽井沢にてとある。
亡くなったのが同年の10月24日だからこの「あとがき」が絶筆だった可能性がある。
そう思って読むと複雑な思いに捕らわれる。
いきいきと夫であり祖父であり躁鬱患者としての日常が描かれている。共感する部分や安心させてくれる所が多い。
苦悩を笑いに描く理性と分析力、客観視できていることに感心した。
ご冥福をお祈りします。(合掌)