北杜夫のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
北杜夫の青春小説
以下書き抜き
模倣し、かつ模倣されない奴は駄目なんだ。
みんなが馬鹿に見えて仕方がないときと、自分が片輪に見えて仕方がないときがある。しかし、みんなが片輪に見えるときや、自分が馬鹿に見えるときは一ぺんもない。
・一体、この世の若者で、死への誘惑を受けなかったものがどれほどいようか。よほどの強者か、相当に鈍感な者か、あるいは外界の危機が自己の内部を覗きこむことを妨げた場合を除いて。
・スペインのことわざに、三十歳までは女が暖めてくれ、そのあとは一杯の酒が、またそのあとは暖炉が暖めてくれる
・他のすべてのことに無能力だとしても、残されたただ一つのことに才能があるとは限るまい。
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Posted by ブクログ
なかなか海外に行けない世の中なので、行った気分になろうと思って手に取った作品。
もう60年も前に書かれた作品なので、描写されている海外の様子などはだいぶ変わっては来ているだろうと思うが、漁業船の船医としての航海生活や寄港した港の風景や文化などの描写は、新鮮で面白かった。
医者というエリートでありながら、尊大振ることもなく、逆にホラ吹きだったり、ナマケモノであったり、まるで少年かのような無邪気さ・好奇心の強さ、そして偏屈さがこの作品を愉快にしているのだと思う。
独特なユーモア溢れる文章で、夢中になって一気に読みきってしまった。
著者はあとがきにて、「私はこの本の中で、大切なこと、カンジンなこ -
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水産漁業調査船の船医として日本からヨーロッパにかけて航行したときの体験をエッセイにした作品。
高校生に読んで以来、17年ぶりに思い立って読破してみた。どんな内容か全く覚えていなかったので実質初めて読む感覚だったが、自虐的な読み口、どこまで本当でどこまで嘘かわからない内容がすごく新鮮でおもしろかった。17年間の間に私が訪問した場所も増えたことで内容がより入るようになったことも、おもしろさを感じた要因ではないか。1960年頃はまだ海外渡航が珍しい時代だったと思うが、そのなかで海外に対して好奇心を持ちつつ、謙虚な姿勢で過ごされてこられたことに驚く。海外に渡航するにあたり大切な姿勢は、今も昔も不変だと -
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頭から順に読んでいくと文芸というか文学というか
解説に云う「透明な論理と香気を帯びた抒情」というふぜい
つまり「お話」のない小説でない文章で
心境を情景描写に仮託しているようなそれである
仮託とかいうことばを使う時点でそんなかんじお察し
最後に収められている表題作は他と違って「お話」が明瞭な小説として読める
こういうのだと読み下しやすい
またこのお話からみればその他の作品にある作者が描こうとしていたものも
なんとなく理屈づけられて見えるような気がしないでもない
つまり小説すなわち筋書きのあるお話でないものは
筋書きでいちおう方向が示されているものに比べてどうとでもとれるのではないか
どの作 -
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北杜生さんの訃報に接し、少し前に買っていたのを読みだした。
この「どくとるマンボウ」シリーズは、親の書棚にあったのを小学生の頃に読んでいた。当時、教室の後ろの掲示板に読書記録を貼りだしており、そこに何冊か感想を書いて貼ったのを覚えている。まったく小学生らしくない。この航海記を読んだかどうか記憶は定かでないが、少々アダルトと言えなくもない内容も含まれていることから察するに、もしかしてこれは読んでいなかったのではないかと思う(青春記や昆虫記は読んだはず)。こうした韜晦に満ちた書き振りのエッセイが小学生の人格形成に影響を与えたか否かは不明である。 -
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ひさしぶりに文学な作品を読んだ。
小説と文学の違い(とわたし流の分け方)は、
地の文が説明、解説になっているものと、
文が練れていて、雰囲気が漂うもの
とである。
もちろん、前者でも後者でもいいものはいい。
コクがあるものが傑作なのであるし、読む楽しみになる。
この短中編集に収めてあるのは
「岩尾根にて」「羽蟻のいる丘」「霊媒のいる町」「谿間にて」「夜と霧の隅で」
どの作品も心揺さぶられるのだが、やはり芥川賞の「夜と霧の隅で」が印象深い。
第二次大戦中、ドイツ南部の町にある公立精神病院の医師たちは、
ナチス政権による民族浄化というとんでもない思想の影響を受けざるを得ないそ -
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生徒が「面白い」と言っていたので読んでみました。
恥ずかしながら、北杜夫の作品は読んだ記憶がなかったのですが、エッセイはとても魅力的な文章が多かったです。
斎藤茂吉の息子として、医者になることを父から強くおしつけられながらも、旧制高校時代の話や戦後の混乱期を自身の望通りに生きてゆこうとする著者の姿は、滑稽ながらも読者の人生観に訴えてくるものがあるように思います。
自分がなすべき「仕事」とはどのようなものなのか、他者とのつながりをどのように持つべきものなのか、著者の一見すると自堕落で適当な生活にも、ヒントがあるのではと感じました。
エッセイの文章も軽快で笑いに富んでおり、著者のほかの作品もぜひ -
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Posted by ブクログ
「岩尾根にて」
山中で自我を失ったような気分になる話
クライマーズ・ハイかな?
「羽蟻のいる丘」
自暴自棄のため放射能Xの女王蟻に自分を重ねる女がいて
気の毒なのはそれにつきあわされる幼い娘だが
「霊媒のいる街」
逃げ場のない大人たちはロマンを求めてたわごとを言う
本当に過去を忘れられない坊やはハードボイルドにひたって生きる
「谿間にて」
蝶の採集で名を成したいあまりに精神の様子が少しおかしくなった人の話
かつて失われた全能性が蝶のまぼろしとなって現れるのだろうか
「夜と霧の隅で」
ナチスの断種政策によって収容所送りにされる患者を1人でも救おうと
無謀かつ無意味な実験手術に走る精神科医