あらすじ
『どくとるマンボウ航海記』前夜。慶應病院神経科に勤める若きマンボウ氏は、愛すべき患者たちとふれあい、変人ぞろいの同僚と安酒をあおりつつ、人間の本質に思いをはせる――。ユーモラスな筆致のうちに、作家・北杜夫の鋭い観察眼と深い内省が窺えるエッセイ。新たに武田泰淳との対談「文学と狂気」を増補。〈解説〉なだいなだ
目次
第1章 大遅刻と教授からしておかしいこと
第2章 医局員のほとんどが変っていること
第3章 フレッシュマンの生活とイカモノ食いのこと
第4章 朝寝坊の万年おじさんのこと
第5章 宇宙精神医学研究室のこと
第6章 精神科医一刀斎のこと
第7章 医局長の子分役のこと
第8章 留学を思いたつこと
第9章 山梨県の病院へ売りとばされたこと
第10章 助人ついに来たる
第11章 愉しい日々と悲惨な夜
第12章 東京へ帰ったことと航海のこと
あとがき
解説 なだ いなだ
対談 文学と狂気 武田泰淳・北杜夫
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Posted by ブクログ
『青春記』(1968)と『航海記』(1960)の間を埋める。でも、1993年(66歳)の出版だから、著者の躁鬱も相当進んでいる。
26歳で大学卒業、医師免許をとって、大学病院に医局員として勤務。なんのためかと言えば、勤めながら博士論文を書きあげ、ドクターをもったドクターになるため。でも無給。一種の徒弟奉公。東京の病院勤務だけかと思ったら、山梨の病院にも1年間の出向。
時代は1950年代後半。精神医学ではやっと薬物治療が登場しつつあった頃。電気ショックやインシュリンショックも行なわれていた。それに精神分析もまだ幅をきかせていた。医師として北杜夫がそうした状況をどう見ていたか、それも興味深い。
個々の文章はひじょうに論理的。いいことも言っているし、格言や警句にしたいものもある。ところがそれらをつなげると、?! でも、俯瞰すると、不思議なことに、全体が魅力的に輝いて見える。もちろん、登場人物たちがみな個性的で魅力的なのは言うまでもない。
文庫の解説を書いているのは、医局の同僚のなだいなだ。彼の「正常な」文章が締めくくる。読後感がすこぶるいいのはそのせいかも。
匿名
北杜夫氏の精神科医としての含蓄の深さと、患者さんへの深い理解に驚きました。
他のマンボウシリーズでのイメージとは一風異なる、医師としての北先生の姿が垣間見られます。
Posted by ブクログ
昔読んだことがあると思ったのだが、内容を全く覚えていなかった。それだけに新鮮に読むことができた訳であるが。
どくとるマンボウシリーズなので、いつものユーモアあふれるエッセイを想像したのだが、本作はちょっと雰囲気が異なる。
いや、最初の方はそんな趣で、医局にはこんなにも変人が多いのかと驚いたところである。
しかし、山梨県の精神病院に赴任した後の話になると、俄然内容に重みを増してきた。精神病者の症状にも驚くが、彼ら彼女らに対して医師や看護師も真摯に対応するのだが、一筋縄ではいかない。なかなか大変な仕事である。
現在の大部分の精神病院の状況は違っていると思いたいのだがどうなのだろう。それにしても、なぜ人はこうまで壊れてしまうのだろうか。
北杜夫氏は自身が躁うつ病であることを喧伝していたが、それは世間の人に精神病者に対する偏見を除きたかったからということを初めて知る。