北杜夫のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
5編からなる短編集。表題作の「夜と霧の隅で」は、ナチスによる不治の精神病患者の安死政策に迫られる、第2次世界大戦終期のドイツのある精神病院が舞台。院長、医長が病気や戦線への出向で相次いで病院を退き、年次の関係で病院の責任者にならざるを得なかった、患者の治療に向き合うよりも研究にしか興味がない孤独な医師が、その政策に対し抵抗を試みるという話。
「目の前にいる一人の個人としての人間」には興味がないが、医学的倫理観は持ち合わせている研究者肌の医師が、患者の回復を試みナチスの担当将校にそれを証明してみせることで患者の処刑場送致を回避させようと、治療法も確立されていない人体実験さながらの苛烈な施術を患 -
Posted by ブクログ
ネタバレ10章のうち8章までが戦争中を描き、残りの2章も終戦直後の物語である。
戦争に翻弄される楡家とその周辺の人々の群像劇が描かれていく。
第一部からここまでかなり長かったが、読み終わってみると多くの人々の人生を実際に体験したような感覚が残っている。その「長さ」そのものに意味と重みが宿っている、そんな小説だったように思う。
桃子と藍子の人生は幼少期と成長してからの落差があまり大きくなんともやりきれない。
龍子は強い。常に我道を行き、負けない。基一郎の血の濃さが感じられる。
中でも周二の戦時中と敗戦後の黙示録的・虚無的な考え方は非常に印象的であり、もし自分が同じ時代に生きていたなら、似たような考えに -
Posted by ブクログ
ネタバレ基一郎没後の楡家と楡病院、そしてそれを取り巻く社会情勢が描かれる。
第一部ではどこかでたらめな人物に見えた基一郎だが、いなくなってみると、あれほどのカリスマ性と頼りがいを持つ存在はもう現れそうにない。作中では、なんとなく神格化されつつあるようにも感じた。
登場人物は多いものの、物語の軸は婿養子の徹吉に置かれているように思える。読み進めてようやく腑に落ちたが、徹吉は斎藤茂吉であり、その次男にあたる周二が北杜夫なんですよね。
徹吉・周二は楡家の内部にいながらも本来は外から入ってきた存在で、その“内からの視点”と“外からの視点”をあわせ持つ立ち位置が、この作品の独特の冷静に全体を見渡す視点を生み出 -
Posted by ブクログ
中学時代に北杜夫氏の本と出会い、高校時代に筒井康隆氏の本と出会ってしまった。
荒唐無稽でナンセンスなお二人の本に青春の苦悩がバカバカしく思えるゆとりをいただいた。お二人には感謝しかない。
久しぶりの航海記。
精神科医の北杜夫氏が漁業調査船に船医として乗り込んで、5ヶ月の回遊する。不純な?動機で。
読んでみると、いまでは考えられないほどぶっ飛んでいる。今書いたら、大炎上のことだらけ。このユーモアが許された時代にはその時代なりのよさがあった。
「アフリカ沖にマグロを追う」では、うんざりするほでトロを食べ、
「ドイツでは神妙に」トーマス・マンを味わいにいく。
あとがきにあった。
「私はこの本の中で -
Posted by ブクログ
マンボウ氏の青春期。「どくとるマンボウ」は高校生の時に読もうと思って挫折した記憶があって、ちょっと倦厭していたんだけれども。もったいなかった。早く読んでおけば良かった。
青春を終戦期で送ったマンボウ氏。日本中で思想が根本から覆り、休止していた学業が再び動き出した時代。帝国主義を取り壊し、新たな日本として一歩を踏み出した時期とはいえ、動き出したのは国のシステムばかり。若者の実情はまだまだ空腹と憂鬱に支配されていた時代。その中で若き医学生が何を思ってきたのか、マンボウ氏独特のユーモアとともに描かれる。
グッとくる名言が多く、それでいて文体は軽やか。心の栄養剤として手元に置いておきたい本です。 -
Posted by ブクログ
北杜夫先生の旅行記です
何十年かぶりの再読
私には「先生」とういう呼称を付ける作家さんが二人いて、それは北杜夫先生と星新一先生なのだが、あらためて考えてみると、この「先生」には教師とか師匠という意味が無意識に込められていたのだと思われる
孔子先生とかと同じ使い方だ
ようするに人生の師ということだ
では北杜夫先生は何を教えてくれたのか?
それは「自由」とは何か?ということだったと思う
北杜夫先生の旅行記はどこまで本当か嘘かよく分からないところがある
童話もそうだ
いや童話は基本嘘の物語なのだが
本当の先に嘘があって
嘘の先に本当がある
そんな本当とも嘘とも分からない物語で気付くのは、 -
Posted by ブクログ
ネタバレ表題作、名前だけは知っていた。この作品ではないが、読むべき本として北杜夫の名前が上がっていたことから、初めて手に取ってみた。
表題作と他四つの短編で構成されている。
最初の、岩尾根にて…は、前半ただひたすら山を登っていく様子が描かれる。そこでちょっとモタモタしてて、なかなか進めてなかったんだけど、後半は1人の男との出会いから、会話が続く。夢幻のようなその出会いは、ふと能の世界にも通じるような気がしてきた。
事物の描写も大したものだけど、こういった会話でも読ませる作家なのだなと思った。
どくとるマンボウ、船乗りクプクプあたりはもしかしたら昔読んだことあるかもしれないが、内容は忘れてしまった。なん -
Posted by ブクログ
どくとるマンボウこと北杜夫の、山に関するエッセイをまとめたもの。
子供の頃から、どくとるマンボウのシリーズや北杜夫の作品を読んで、大いに人生に影響を受けた私には、なかなか面白い本であった。
様々な媒体に書かれた既出のエッセイ等をまとめたものなので、どこかで読んだようなエピソードは多く、また本書の中でも同じような話が何度も出てくるきらいはある。
本書の中だけでも重複したようなエピソードが書かれているのであるから、北杜夫ファンとしては、そこここに聞いた話が出てくる。
しかし、本書によって集められたエッセイでしか見つけられないエピソードも集められている。
これは、ファンとしては読まずにおられな