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遂に太平洋戦争が勃発。開戦時の昂揚も束の間、苛酷さを増す戦況が一族の絆を断ち切り、大空襲は病院を壊滅させる。敗戦に続く荒廃の季節、残された者には、どんな明日が待っているのか――。人間のささやかな毎日の営み、夢と希望、苦悩と悲嘆、そのすべてが時の流れという波濤に呑みこまれ、「運命」へと変貌してゆくさまを、明治から昭和への時代変遷を背景に描きあげた一大叙事詩。
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Posted by ブクログ
戦時中の楡家の人びとの話。 何だか皆んな、可哀想。 あの熊五郎ですら可哀想。 それであって龍子だけはずっと、太々しい。 この先ももっと読みたかったな。 この小説みたいな小説があったら教えてほしいです。
戦争に翻弄される楡家の人々の個人史とも言うべきものだ。自分にはこの第3部が最もリアリティのある優れた文章に思える。各人戦争に呑み込まれ、いずれも悲惨な状況を迎えるが、きっと楡家は復活するのだろうと思えた。
「小説を飲食物にたとえると」『楡家の人々』は「山海の珍味が入った豪華な鍋料理に当たります。」 評したのは倉橋由美子(『偏愛文学館』)さん。 そう 豪華な食事、いえ読み応えのある小説でした。 歌人斎藤茂吉の息子北杜夫がご自分の実家「青山脳病院」をモデルにして 祖父母、叔父叔母、父母の生き生きした...続きを読む姿を明治大正昭和と描き切ったのですから。 脳病院!これだけでも尋常じゃありませんよ。 呼称は時代的でもちろん、今や精神科病院でしょうけど。 個人医師の経営するそういう病院・入院者もいろいろありそうですが、 明治期「脳病院」を創設する祖父基一郎(きいちろう!)さんをはじめ 経営する家族・人々の模様も尋常でなく、悩ましいというわけで なんでこんなに楽しく面白く描けるのか、ユーモアの秘訣とはこれか、です。 こうなると人間、尋常の人とはどういう人なのか、案外つまらない人なのに違いありませんよ。 時代経過にそったストーリーは知らず知らずのうちに戦前史を辿ります。 例えば1941年(わたしの生まれた年ですが)真珠湾攻撃に至る生々しい経過が迫真。 「ああ、そうだったのか!」と、とても興奮しました。 倉橋さんは「無人島に持っていく一冊の有力候補」「何度食べても飽きない」 だそうです。
第三部の舞台は第二次世界大戦である。登場人物のそれぞれが戦争の波の中で翻弄されていく。そして、ある人は死に、ある人は戦後を大きく生きていく。楡家もまた新しい時代にのって話も終わりになる。実に深い話であった。
アパートの図書コーナーに「楡家の人びと」を見つけました。たまたま、12月24日の日経に紹介記事があり、これも出会いだと思って読み始めたところ、夢中になってしまいました。 本書は楡脳病院を舞台に、大正7年から昭和22年までの約30年の中で、市井の人びとが何を考え、何を食べ、何に喜び、何で生計を立て、...続きを読む何を娯楽として、何に期待し、何に落胆したのかを、生き生きと描きます。 この30年は、軍縮会議、昭和恐慌、関東大震災、226事件、日中戦争、太平洋戦争、そして敗戦と激動の時代です。読み終わった後、本書の扱っているのがたった30年であることを不思議に思いました。それだけ、この作品の扱う時代は変化の激しい時代であることが実感できます。 苦難の時代を描きますが、ユーモアに溢れた描写もあります。特に楡脳病院を創設した前半の主人公である楡基一郎の俗物ぶりには、笑えます。また、当時の都市伝説もちらほらと紹介されています。「赤いマント」は東洋英和がルーツであると、初めて知りました。 三島由紀夫は本書を「戦後に書かれたもっとも重要な小説のひとつ」と評価しています。そんなことよりも、苦難の中で日本人はどうやって生きてきたかを知るために、本書は必読と思います。★★★★★
下巻は、もはやその殆どが戦争小説でした。反論はあるだろうけど、昭和時代、一番大きな事件はあの戦争だと思うし、その時代を生き抜いた一家を描く以上、頁数を割くのもむべなるかなと思ったけど、(今となっては)それほど目新しい描写がないこともあって、ちょっと冗長に思えてしまいました。影も形もなくなってしまった...続きを読む病院。一家離散してしまった家族。栄枯盛衰が見事に描かれた物語。後日談も知りたいと思わせられながらの閉幕。未読ながら、”どくとるマンボウ”ってタイトルで、なんとなくユーモラスなイメージを抱いていたけど、こういう作家さんだったんですね。機会があれば他の作品も、って思わされる力作でした。
「戦後に書かれたもっとも重要な小説の一つである。この小説の出現によつて、日本文学は、真に市民的な作品をはじめて持ち」「これほど巨大で、しかも不健全な観念性を見事に脱却した小説を、今までわれわれは夢想することも出来なかった」 ー三島由紀夫 ___ この三島の批評も、大好きで。 市井の人の普通の生活を...続きを読むみずみずしく。 本当に傑作。 楡家ほど個性的ではないけれど、北さんの家族への思い、共感できる気がします。家族って近すぎたり知りすぎたり。憎たらしく思うこと、呆れたりすることもあるけれど、そこも含めて家族愛。
完結編の第3部ではアメリカと開戦直後から日本の敗戦と同様に楡病院も消滅していく様子が書かれています。関東大震災の後に失火から甚大な被害を受け、間もなく初代の院長が病死。衰退の道を辿りながらも一度は再興した楡病院でしたが、戦争という国家同士の争いが民間の精神病院の存続を難しくさせていきました。病院の職...続きを読む員はもとより一家の壮年の男たちもことごとく戦場に駆り出され、そして女たちも子供や兄弟、想う人から否応なく引き裂かれる現実が描かれます。戦争という非日常がこれまでの楡家の人びとのささいな当たり前の毎日やちょっぴり贅沢な生活そして願いまでも奪い去り、時には人格までも変容させてしまう悲しい出来事を引き起こしてしまうのでした。戦争が激化して空襲があったあとの町の様子は、今回の大震災の津波の被害地の様子と重なって見えてしまいました。それでも、一家には誰かしらその血筋を一番濃く受け継ぐものが残っていることが救いに思えました。
作中で経過した30年弱を、最後にずっしりと実感できる構造でしんみりした。 第三部は戦争文学と言っても差し支えないシビアな内容だったが、時代と国のうねりに飲まれる市井の年代記として、迫力と厚みを加える内容だったと思う。時間を費やすに足る大作。
平和だった大正時代から震災、戦争へ。戦艦、南の島、中国で戦争した人々、東京で被災した人々、疎開先で過ごした人々。どれも実際に体験したのかと思うようなリアリティで書かれている。当時の様子を知ることができるのも貴重であるし、長い物語を通してすっかり馴染みとなった人物たちがどう考えどう行動しどうなっていっ...続きを読むたのかも興味深かった。
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