熊谷達也のレビュー一覧
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ネタバレ熊谷達也さんは戦争文学も書いていると知って、読んでみました。
17歳で特攻に志願することになってしまった少年の物語。特攻と言っても、よく知られている飛行機による特攻ではなくて、人間魚雷の回天でもなくて、戦争末期、飛行機も潜水艦も燃料も、何もかもが底を尽きている状況で考え出された、体一つで潜水して敵艦を待ち受ける「伏龍(ふくりゅう)」。
飛行機乗りにあこがれて、そうじゃなくてもカッコよく軍人として活躍したいと願って志願した少年にとって、変な形のかぶとをかぶって、歩いて潜水するなんて、「かっこ悪すぎる!」と思えた。
でも、そこで仲間たちと出会い、良い上司も悪い上司も含め、色々な大人に出会い、戦争の意味、この作戦の意味を考え葛藤する。
「伏龍」は作戦だけで終わったのか、実際に実行されたのかこの小説だけではわからなかったけど、なんとも恐ろしくて、言い方は悪いけど滑稽な作戦だ。こんな特攻もあったのかと、悲しくなります。
数ある戦争文学の中でも、主人公が17歳と若く、戦争を見つめる視点が新鮮に感じた。 -
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夏の音楽小説まつり。
ふと立ち寄ったギターの専門店で、'59モデルのギブソンのレスポールを衝動買いしてしまった50代サラリーマンの巧也。アンプやエフェクター等を買い込み、趣味のつもりで始めたギターであったが、ふとしたきっかけからバンドを組むことになってしまう…。
名作『邂逅の森』の熊谷達也なので、重く暗い話かと身構えて読み始めたが、そんなことは全く無く、軽い人間ドラマだった。
過去にブリティッシュ・ハードロックに傾倒していたが、大学の途中で挫折し、ギターをしまい込んでしまった50代。実際にはそこまでのブランクはなく40代で再開する人が多いのだろうが、実際の楽器の知識や1970~80年代のロック事情が実名で、特にくどい説明もなく放出される前半は、おお、こういう小説を書いてみたいと考えていたのもあり、自分の頭の中をなぞられるような快感があった。
ところで、中盤で大学時代に実は…という話から、思っていたよりも大きな話になってしまったのは、まあお話だからね、というところで許そう。そういう話だ。
「オヤジ・エイジ」という、わざといなたいタイトルにされてしまったのはちょっと今ひとつとっつきにくいものの、40代以上のギター再開世代や、中年以降でこれから趣味として始めてみようかなと言う人達に、ぜひ読んでもらいたい。
初心者でわからない?専門用語やバンドに関しては、ちゃんと巻末に(おもしろおかしい)説明が載っているので、「ジャズコって何よ?」って人にもちゃんと楽しめる。初心者ほど、ぜひとも、紙の文庫版を購入いただきたい。
熊谷達也の『ロックンロール』シリーズはもう1冊買っているのだけど、この人、楽器好きなんだろうなあというのが文章の端々からにじみ出ていて、実に好感を持てる1冊であった。 -
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熊谷達也『ティーンズ・エッジ・ロックンロール』実業之日本社文庫。
文庫で唯一未読だった仙河海市サーガの1作。高校生のバンド青春小説と言ってしまえば、それまでなのだが、田舎の小さな港町を舞台にした夢を追う若者たちの清々しい姿を描いた感動的な物語であった。
舞台は2010年の宮城県仙河海市。東日本大震災の前年の宮城県気仙沼市がモデルである。気仙沼市内に実在する駅や喫茶店、高校、中学校が名前を変えて登場する。
舞台となる年代からして、東日本大震災の描写は必須であり、本作ではどのように描かれるのか興味があったが、作中では大震災当日は直接描かれず、その前後だけが描かれている。東日本大震災の津波と火災で壊滅的な被害を受けた気仙沼市。小さな港町にひしめく建物は殆どが流され、道路は寸断、何も無くなった町中に大きな船が打ち上げられ、辛うじて残った建物の上にも流された車がのっかっているという異常な光景。果たして元の町に戻るのか誰にも解らない中で始まった復興への長くて苦しい道程。しかし、若者たちはへこたれず、未来に向けて走り出す。
高校1年まで中学の同級生と3人で続けてきたバンドを解散した主人公の匠は失意の中、半ば仕方無く高校の軽音楽部に入部する。入部した軽音楽部の女性部長の遥はちょっと変わった年上のクールビューティ。そんな遥に一目惚れした匠は、遥と共に故郷の小さな港町に初めてのライブハウスを立ち上げることを目指す。二人の恋の行方も気になるところ……
本体価格648円(古本100円)
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熊谷達也『浜の甚兵衛』講談社文庫。
宮城県気仙沼市がモデルの三陸の架空の町を舞台とする『仙河海サーガ』の最初の物語。
時代は明治。海の男が自らの人生を賭け、己の進むべき道を切り開くという力強い物語。終わりなき果てしない道程、それが人生というもの……
作中に登場する地名は現代の気仙沼市周辺の実在する地域を想起させてくれる。
仙河海で妾の子として産まれ、16歳から自らの才覚だけで仲間らと沖買業を営んでいた甚兵衛の波乱に満ちた人生が生き生きと描かれる。明治三陸大津波により破壊された仙河海と周辺の集落。大津波の後、漁業は振るわなくなり、甚兵衛は新たな仕事を見出だし、己の人生を賭ける。
ちなみに熊谷達也は東日本大震災後に『仙河海サーガ』として、『リアスの子』『微睡みの海』『ティーンズ・エッジ・ロックンロール』『潮の音、空の青、海の詩』『希望の海―仙河海叙景』『揺らぐ街』の6冊を上梓している。 -
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昭和の東北を舞台にした短編集。
「少しでも早く先を読み進めたい」とここまで思わせてくれた本は久しぶり。東北の田舎ではある意味当たり前だった”生活文化”を丹念に理解した上で、そんな生活者の一人である登場人物の想いを、派手ではないが丁寧な話の流れで描き、ほっこりとした感動短編や、ちょっと切ない短編として仕上げている。
「想いはあっても、あまりそれを表に出したがらない」東北の人によく見られる考え方も含め、東北出身のこの作者でないと描けない素朴でいて情動的な人物描写が秀逸。そんな人物が丁寧な時代考証・文化考証に裏打ちされた物語の中で、じわじわと躍動する。
堵殺行為も行うマタギ生活者や、川船輸送生活者など西日本ではやや扱いにくい生活者の姿や生活感が、東北ではまた違った形で捉えられている。文献では少し知っていたこととはいえ、それを物語という形でこうも活き活きと理解出来るとは思ってもいなかった。
「作者のすごさ」と「物語のすごさ」、それを両方感じられた一作。
NHKラジオ文芸館で「モウレン船」の朗読が2017年9月16日に放送。 -
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橋本愛主演の映画『リトル・フォレスト』に、母親の本棚にあった本を読もうとした彼女が、「自分で読む本ぐらい自分で選びなさい」と母親から言われ、母親が買った本を娘は読ませてもらえないシーンがありました。私も自分で読む本は自分で選ぶようにはしているけれど、知人友人からなかば無理やり貸された本に感銘を受けるのもよくあること。本作は直木賞受賞作といえども、自分では絶対に選ばない難しそうなタイトル(笑)。半年以上前に貸されて放置していましたが、読んでみればとても面白かった。狩猟で生計を立てる、秋田の「マタギ」の話で、厳しい自然の中で生きる男の人生を描いています。男を取り巻く、肝の据わった女ふたりもイイ。秋田出身の私の父にも薦めようと思います。きっと東北弁を懐かしがるはず。
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ネタバレ近年のライトノベルでは「異世界転移モノ」が活況だそうで、本作もある意味で異世界転移モノといえる。
主人公は親に倣いマタギとして狩りに出始めた若者であったが、とある事件により故郷を追われ、同じ山でも鉱山という別世界に飛び込む羽目になった。
なんとか鉱夫として独り立ちし、弟分もできて落ち着いてきた頃、その弟分が休みの日に山に入り猟をしていることを知る。
主人公はマタギの世界ではほんの駆け出しであったが、装備も狩りもおぼつかない鉱夫たちからすれば「狩りの達人」となる。
このギャップにより「異世界に転移して無双」へ至るという展開がとても自然であり、その一方で「前奏が長い」みたいなテクノサウンドへの心無い批評みたいなことにもなる。
(個人的にはこれくらいの前置きがあってもいいと思うのだけど、実際にはいろいろと難しいのかもしれない)
東北地方の鉄道網の延伸がところどころで出てきて、これが自然と文明のせめぎあいのひとつの象徴として描かれている。
民俗史的な裏付けもかなり取材しているようで、当時の奔放な性愛についてもかなりストレートな描写がある。
特に妻となるイクに関しては、魔性の女が婚姻を経て良妻賢母へ変貌するあたり、ある種の神話を髣髴とさせる。
今年は「真田丸」や「シン・ゴジラ」、「この世界の片隅に」などの徹底的にリアリティを追求した作品が話題を呼んでいることもあって、こういう静かに、しかし懸命に生きていく人の話はもっと注目されてもいいのかも知れない。 -
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2008年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震で大きな被害を受けた栗原市耕英地区を舞台にした祖父と父親と息子の三世代を描いた物語。
岩手・宮城内陸地震の翌年から東日本大震災を挟んで連載された物語は、多くの被災者に希望の光と生きることへの勇気を与えてくれる内容だった。直下型の地震に見舞われ、苦闘する父親と息子の現在と、祖父の開拓民としての苦難に満ちた過去が交互に描かれる。
開拓移民団として満州に渡った大友耕一は苦難の中、日本に引き揚げ、栗原市の共英地区に新たな開拓の地を求めるが…
ここからは蛇足。
あの日は土曜日だった。下から突き上げるような大きな地震にベッドから飛び起きたのを覚えている。自分の被害の大きかった栗駒山から離れていたので停電にはならなかったが、新幹線が止まり、高架橋から乗客が避難するのを目撃した。次第に明らかになる地震被害の大きさ、馴染みのある厳美渓から栗駒山に向かう道路の橋が落橋した姿に驚いた。その3年後にまさかあのような東日本大震災が起きるとは全く思っていなかったのだが、岩手・宮城内陸地震をきっかけに水や食糧などを家に備蓄したことを覚えている。 -
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共感覚を持つピアノの調律師の鳴瀬玲司を主人公にした喪失と再生を描いた7編を収録した連作短編集。
東日本大震災という決して忘れられない喪失の日を挟んで描かれた作品であるせいなのか、東日本大震災の前に書かれた最初の2編と後半の5編とでは明らかに味わいが変わる。特に主人公が過去に決別するという最終話には、強い怒りやもどかしささえ感じる。もしかしたら、それは著者が自分自身に向けた想いなのかも知れない。
『少女のワルツ』はオープニングを飾るのに相応しいハートウォーミングな短編。この連作短編集の方向性を示したかに見えたのだが…
『少女のワルツ』、『若き喜びの歌』、『朝日のようにやわらかに』、『厳格で自由な無言歌集』、『ハイブリッドのアリア』、『超絶なる鐘のロンド』、『幻想と別れのエチュード』を収録。 -
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ネタバレピアニストを断念し調律師として働き始めた主人公の物語。
ピアノの音が臭いでわかる嗅聴という不思議な共感覚の持ち主、というちょっとファンタジーな感じ。
物語としておかしいというわけではなく、むしろピアノの音が持つ表情や感情の揺さぶりをとてもうまく表現しているように思う。
ピアノの音がいかに環境に左右されるかなど、その設定などの描写がとても面白い。
音、色、臭い、環境など、4感が刺激される素敵な作品。
最後の2話、東日本大震災をはさんで執筆したとのことで、本来とは施作コンセプトが変わったそうで、執筆途中の苦悩が伝わって来る。
逃げるしかなかったことを仕方なかったと正当化するか、贖罪の意味で偽善に見えようが何か行動を起こすか、どちらにも正解はないのだろう。
「自然の力の前で、言葉の無力を思い知りながら、書き続けた。」
これが正しい思いなのかも知れない。