熊谷達也のレビュー一覧
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大正3年頃から昭和初めにかけて秋田の山奥でマタギ(熊を獲る猟師)として活躍する富治の数奇な運命。若い日の地元の名士娘・文枝との恋、そして地元を追放されてからの鉱山夫、また猟師に戻っての日々と小太郎、その姉で妻になったイクとの出会い。そして猟仲間の鉄五郎などの脇役との出会いも魅力的です。小説の終盤での文枝との再会、イクへの愛情。そしてクマの格闘に生涯をかけた富治らしい大クマのヌシとの対面など、息もつかせぬ感動の連続で、泣かされる荒筋であると共に、古いこの時代のおおらかな若者の性などの風俗に驚きです。読後の余韻も快い、素晴らしいドラマでした。
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マタギって全国区の名詞なんでしょうか?
マタギとは、主に東北地方で熊やカモシカを狩猟して生計を立てていた人たちの呼び名です。本書ではそんなマタギを生業とする男の半生を記しています。とはいえ現代人から遠い昔のおとぎ話などではなく、実に生々しい人間模様と恋愛、家族、故郷について語られています。
里ではまったくの俗人である若者が、山に入り自然と戦う中で、獣となり、木となり石となり、山の神へと近づいていく姿に圧倒されます。
正直かなり性描写が多いので大人向けな内容ですが、その描写についても当時の風俗、習慣を入念に研究されたらしく、当時の平民の生の生活感もリアルです。
私は、読んだだけで映像や空気や息遣いまでが伝わってくる小説が好きです。本書はそんな小説です。
しかし、やっぱり第一次産業の男はかっこいいね。 -
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時代は大正初期、秋田県月山山麓。深い山に入り熊やカモシカなどの獣を猟とするマタギの物語。2004年直木賞受賞作。その時代の歴史物語としても民俗資料としても内容が濃く重厚な作品で読み応えがあった。マタギの家の次男として育った富治の生涯は波乱。東北の厳しい冬を思いめぐらしながら最初から最後まで圧倒されるような緊迫感と迫力をもって読み終えた。山歩きという趣味の世界でいろんな山に入る(入らせていただくと言ったほうがいいかもしれない)けれど、山への畏怖の気持ちを抱かざるを得ない。そこには自然への敬虔な気持ちが生まれている。
タイミングよく今年(2013年)になって新聞に阿仁マタギの資料を世界遺産級に指定する動きの記事があった。 -
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ネタバレ直木賞アーンド山本周五郎賞受賞作です~。
大正時代の東北を舞台にした猟師マタギの生き様を描いた長編小説です。
いや~~~~~。
これは凄かった!!
最初読み始めたときは
「え~?猟師のはなし~?」てな感じでちょっと躊躇したのよ。
でも、それがどっこい。
こんなに奥の深い小説を読んだのは初めてです。
かなり感動してて興奮してて、何から感想を述べていいのか分からない。
まず、驚いたのはマタギという仕事が、こんなにも神聖で先祖から仕来りや技、意志を代々受け継がれている仕事だとは思わなかった。ただ単に動物を殺して売りさばいてる仕事としてしか知恵がなかった自分を恥じました。
殺生な仕事だからこそ、そこには山の神様との関係が根強くあり、それを大切にとりもって仕事が出来るのだと思う。
そして、親子の絆と夫婦の絆。
親が子を思う気持ちほど大きいものはないし、愛し合った夫婦こそ絆の強いものはない。
村を追い出され何十年かぶりに帰郷した富治を見た富治の母親の姿。
子供のために身を削ってまで働いて娘を嫁に出した富治夫婦。
富治の初恋を成就させるために、自ら身を引こうとしたイク。
村の区長に言われ、なんとなく結婚してしまった富治とイクだったけど、長年連れ添った仲でいつの間にかお互いに大切な存在だと気づいた富治とイク。
富治がイクを探しまわって、最後に見つけた因縁のあるお店での再会。これには泣けました。
なーんかね、「ああ、夫婦っていいな~」って思っちゃった。
何度もクマを撮り、最後クマに足まで食べられながらも、最後はクマに助けれるところも感動。
そして、出てくる登場人物もみーんな味があって良い!
もうね~、1ページ1ページに読んでる意義があって、この一冊で人生を学べた感じがする。
もっともっと言いたいことがあるのに、何を言っていいかわからない。
大声で泣きたい心境です。
ほんと感動した。感動して泣きたい。
これは是非いろんな人に読んでもらいたい本です。 -
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ネタバレ本を広げると、大正三年とある。昔の話かぁ、しかもテーマがマタギって、どんだけとっつきにくいんだよ、と思いながら最初のペースは妙にゆっくり、読み返しながらなんとなーく世界観が分かりだす。
そう、舞台は東北。出だしは山形県の月山麓、肘折温泉とあるものだから、妙に親近感が沸き、会話も東北弁。そのまま読んでも理解できる(笑)。
「邂逅の森」は秋田県阿仁町打当のマタギ・松橋富治の生涯を描いた長編小説である。
一流のマタギの組に属し、だが、まだまだ一人前になっていない富治が今の生活を続けることができなくなる。
鉱夫になり、小太郎と出会う。そこで、小太郎が隠れて狩猟をする姿を目撃し、ここぞとばかりに小太郎にホンモノのマタギとは狩猟とはどういうものかを教える姿、そして、「見本」を見せるところなどは爽快な読み心地だった。
やはり、マタギの世界に戻ろうとした富治は小太郎の姉を嫁にもらい、17年の月日が流れる。娘を嫁に出した後の描写はあれど、娘に対しての描写が一切なかった。
さあ、ここからどんな展開が待っているか。本はまだ三分の一は残ってる。
予想通り出てきましたね。恋焦がれ、忘れることのできない愛しい女性・片岡文枝。久しぶりの再開にこれも予想通り、でもお互いいい歳だからないのかな、と思いながら押し倒し系(笑)。
難波イクの存在が当たり前だが家族となり、愛し続ける存在だってことが分かる部分は素敵だなと思った。
この小説から感じたものは、マタギという本能的な「狩」と近代において必要となった鉱夫との対照、そして富治のなんと男らしいこと。
現代の草食系男子に読んで欲しい一冊ではないだろうか。
浅田次郎氏は「本書は去勢された男たちのための、回復と覚醒の妙薬である。男とは本来どういう生き物なのかを、読者は知るだろう」と語っているそうである。 -
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雪深い山中のログハウスで愛する妻を野獣に食い殺された動物学者の城島。足首を噛み砕かれ、喉元を鋭い牙で刺され、腹を食い破られるという凄惨な現場写真をみて、その顎力の強さから大型犬の仕業ではないことを悟る。妻はオオカミに殺されたのか… しかしニホンオオカミははるか昔に絶滅しているはず。悲しみを胸の奥深くにしまい、城島は妻を殺した獣の正体を雪上に追う!
ニホンオオカミの詳しい生態と、農業や林業を生業としていた人間との共生関係、そして山を生活の場としていた漂泊民・サンカ。昭和の初期には失われてしまっていたそれらの古き山村の民俗文化を織り交ぜながらも、城島が一本気な行動で謎の獣を追い詰めて行く闘いの描写が非情に骨太で緊迫感があります。
次第に明らかになる獣の正体。その影に見え隠れする自然の摂理を無視した邪な人間の意思。冒険小説としても一級品ですが、ミステリーとしての展開もよく出来ていて一気に物語の世界へ引き込まれていきます。
「新田次郎文学賞」という冠に恥じない名作です。 -
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再読です。
読んでいて、やはり吉村昭との類似性を感じます。最終的には記録文学の方向に行った吉村さんですが、初期の作品は物語性が高く、そのころの吉村作品に近い雰囲気があります。ただ、熊谷さんの方がより奔放です。
印象に残るのは「ひらた船」と「川崎船」。自然との厳しい戦いと対比するように人(夫婦間、親子間)に対する優しさが描かれた作品です。"厳しさ"と"優しさ"の対比、そこに熊谷さんの作品の力強さがあるのかもしれません。
====05-060 2005/06/08 ☆☆☆☆☆=====
最初は読みながら「新田次郎に似てる」「いや、戸川幸夫か」「いやいや、やっぱり吉村昭だ」などと思いながら読んでいました。
解説の中でも吉村昭との比較は出てきますし、まんざら外れでもないのですが、誰かに似てるというのは失礼ですよね。しかし、最後の「川崎船」まで行って一気に吹っ飛びました。たまたま題材が似てたのであって、独自の世界なんだと。
ストーリーそのものは、むしろ陳腐といってもおかしくありません。しかし、それを覆い隠してしまう迫力と躍動感があります。そして、力に裏打ちされた優しさがあります。
熊谷さんは初めてです。一作で判断するのは尚早かもしれません。しかし、熊谷さんの描く「力感のある生活」といった世界に強く惹かれます。 -
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何とも骨太な一冊だった。
何かの雑誌の書評を読み、読んでみたいと思い、美和子さんにリクエスト。
読み始めは秋田弁で書かれた会話やマタギの専門用語の出現で、少々もたつく。
でも、読み進めるうちにそれが快いリズム感を伴ってくるから不思議だ。
そう、これは大正時代に厳しい冬山で野生の獣たちと「共生」してきた東北のマタギを描いた作品。
今は狩猟だけを生業とするマタギは存在しないという。
しかし、ある時期だけに狩りをするマタギの人たちは今もいる。
作者の熊谷達也はそんな人たちと一緒に過ごし、自分の目で身体でマタギを感じ、それをこの作品にしたという。
私は東北の奥深い山の暮らしも知らなければ、もちろんマタギはおろか狩猟者のこともこれっぽっちも知らない。
しかし、この作品の臨場感は、まるで読者をそこに引きずり出してしまうほどの迫力で迫ってくる。
気温30℃の夏に読んでいても、吐く息が凍り付いてしまうような…
獣の匂いがそこの開いた窓から流れてくるような…
マタギたちの熊を追い込む声が聞こえてくるような…
第131回直木賞・第17回山本周五郎賞ダブル受賞作品。