熊谷達也のレビュー一覧
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震災前の東北の一都市を舞台に、陸上競技を介した若い中学教師と転校してきた女子生徒の交流を描いた作品。
著者の経歴から(中学教師の経験)から自伝的な小説らしいと思っていたのですが、後書きにもそのような事が書かれています。
物語の途中で「熱血教師が出てくる学園ドラマとか、見すぎなんじゃないの?」なんて言葉が出てきますし、さらに開き直ったように「学園ドラマを馬鹿にしちゃいけない…人々の願望がデフォルメされて提示されているからだ」などと書かれてますが、確かに学園ドラマの雰囲気がプンプンします。でも、確かに爽やかな良い話です。
やや、説明調な文章が多いのは気になりますが。
『七夕しぐれ』の続編でもあるのですが、震災を機に著者自身が住んでいた気仙沼(=仙河海市)を舞台にしたシリーズを書き続ける様です。 -
Posted by ブクログ
東北の港町を舞台に問題児の女子中学生を更生させようと奮闘する若き教師を描いた爽やかな物語。
仙河海市の中学校に転校してきた問題児の早坂希を更生させようと中学教師の和也は同僚の教師と様々な努力をするが、彼女は次から次へと問題を起こす。あることをきっかけに和也は希を顧問を務める陸上部に入部させるが…
舞台となる仙河海市は気仙沼市がモデルである。かつて、著者の熊谷達也は気仙沼市で三年間、中学教師を務めていたという。そうすると、主人公の岩渕和也は著者自身がモデルなのかも知れない。
物語の中に登場するジャストはジャスコだし、泰波山は安波山、唐島半島は唐桑半島なのだろう。そして、舞台となる中学校は気仙沼中学校だろう。 -
Posted by ブクログ
熊谷さんは私にとって当たり外れの多い作家さんなのですが、これは当たりでした。
大戦末期の知覧を描いた作品。そう、特攻隊です。
ただ特攻隊員では無く整備士を主人公に置いたところが目新しく。
特攻隊員のために昼夜を忘れて修理・整備を行う一方で、それが結局は多くの若者を死地に送り込むことに矛盾を感じて行く主人公。その周りに次々に現れる様々なタイプの特攻隊員たち。
特攻隊員の心情を描くのは、どうしても無理がある感じがするのですが、それを送り出す整備士ならば忖度できるような気がします。それが、この作品がリアリティを感じさせるところかもしれません。
ISの自爆テロという狂気の沙汰を不思議な気持ちでニュースで見る昨今ですが、特攻も同じようなものです。そのした狂気が70年前の日本でも起きていた事を不思議に思います。
熊谷さんというと私の頭には「邂逅の森」などの動物ものが浮かぶのですが、この作品も読み応えがあり、どこかノンフィクション的な感じのする熊谷作品が私の好みなのかもしれません。 -
Posted by ブクログ
「邂逅の森」を読んだのは5~6年前のことであり、森3部作なるものの存在は知っていたが手が出ないでいた。
順番でいけば、相克→邂逅→氷結となっているようで…完全に順番間違えているし!しかしながら今作も中々の佳作であると思う。
マタギを主人公に据えるのが3部作においての不文律のようである、そこには人と獣と自然のバランスがひとつのテーマとなっており「邂逅~」においては顕著に感じられた。今回主人公は元マタギであるが、さらに重い十字架を背負っていた。日露戦争に従軍しておりスナイパーとして活躍していたという、さらに故郷を離れる原因と相まって主人公弥一郎の生き様、未来を見ようとしない諦観が独特のハードボイルドタッチで描かれている。
前半は樺太の漁業、林業、己を敵とする亡き妻の弟からの逃避行が極寒の地を背景に描かれる。厳しいゆえに美しい自然が登場人物以上の迫力で読者に迫ってくる、しかしながら物語の中盤にかかると一転して別の物語となっていた。
「尼港事件」なるものを自分は全く知らなかった。大正期に革命の只中であったロシアで発生した邦人虐殺事件である。アムール川流域の港湾都市ニコラフエスクで起こった、国際的事件の顛末が架空のキャラクターを通して語られる。様々な陣営の思惑が錯綜し、裏切りと血風の世界がそこにあった。いつのまにか西村寿行か大薮春彦か?の世界がそこにあった。最初からのハードボイルドが一挙に炸裂して市街戦にまで発展してしまう。なんとも皮肉な結末も用意されていたが、彼に残された大切な者との未来を予想させる終幕が、読者を安心させてくれた。
物語より自然の圧倒的美に翻弄され心奪われる、命を賭けなければ目にすることができない美。経験はできないだろうけど経験してみたい…