熊谷達也のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ骨太というか重厚というか、読後にいろんなこと考えさせる書物です。
時代は20世紀初頭、今から100年ほど前の東北地方。自然に翻弄されながらも自然に寄り添って生きるマタギの若者が主人公です。
失われた日本の風土の中で、因習に囚われ、過酷な運命に抗いながらもマタギであり続けようとした主人公富治の生き様は、現代の男性には稀少となってしまった獣性を感じさせながらも、一本芯の通った男気を見せてくれました。人としてどう生きていくのか?富治は絶えず問いかけながらも、獣を狩るマタギ仕事に己の答えを見出そうとしていたようでした。
序盤はマタギの狩猟について細かい描写がされており、冬山の寒さに凍えながら一緒にアオシシ(かもしか)やクマを狩る興奮に身体を熱くさせるほどでした。
中盤では運命に翻弄される富治の苦悩と、己の居場所を再びマタギに求め復帰するまでの道のりが描かれてます。一人の女に心奪われたことによって心ならずもマタギ仕事を絶たれ、村さえ追われ炭鉱夫として働き始める富治ですが、そこでの出会いがマタギとしての再スタートにつながっており、終盤に向けて富治が悟る(?)己の存在理由についても様々な伏線が張られているようでした。
全編を通して日本の山村の風習、因習、マタギの掟、狩猟などなど語られており、近代日本が帝国主義を突き進んでいった時代を、東北の山村視点で描かれていて、歴史視点でも楽しめる内容です。さらに主人公富治をめぐって二人の女性が登場しますが、性についての描写も多々あるものの、そこにはエロスを匂わせるものでなく人間の営みとしての性、生きる本能というか、男も女も理性でなく本能で感じたら交わる、というような、『おおらか』というか?個人的に感じました。ちょっと言葉にしずらいです。
終盤、マタギとして大成し壮年期の富治にも、自然の脅威とは別の脅威、戦争の道を進む社会、乱獲による獣の減少、そして過去から現れる女と、己の存在理由を揺るがす事由に直面していきます。マタギとして生きてきた彼はその答えを『山の神様』に求めようとし、クライマックスの『ヌシ』と呼ばれる巨大なクマとの一騎打ちへなだれ込みます。
ラストはとてもキツく感じました…しかしながら感じたことは、人間は生かされている!という自然や社会の厳しくも慈悲深い真理であると自分ながらの理解に至りました。
山本周五郎章、直木賞ダブル受賞の栄誉は納得の感動巨編でした。 -
Posted by ブクログ
熊谷達也のデビュー作です。
アイヌの人々は善い羆のことを山の神『キムンカムイ』いい、性悪の羆を『ウエンヤップ』という。そして人間を食ってしまった羆のことを、真の悪神『ウエンカムイ』と呼ぶ…
北海道で撮影旅行中だった動物写真家・吉本は、ある日巨大な羆と遭遇してしてしまう。しかし今まさに襲われそうになったとき、彼はひとりの女性に救われた。その女性はまるで羆を魔法にでもかけたかのように自在に操り、山へと導いた。
なぜそんなことが出来るのか。彼女は何者なのか。
一方でそれとは別の羆が、キャンプ旅行中の学生たちを襲い3人を惨殺してしまう。一度人間の味を覚えた熊は警戒心より、人肉への嗜好のほうが勝ってしまい再び襲う。『ウエンカムイ』だ。
羆の生態や、北海道の生態系が直面している自然破壊、そして羆を保護する調査研究の実態や、駆除か放逐かを分ける法律的基準など、羆に関するあらゆる情報が詰め込まれているし、羆から身を守るための様々な防御法なども詳しい。通勤の行きと帰りの電車の中で読みおわってしまうほど薄い本なのに内容は非情に濃い。
羆の恐怖という点では吉村昭『羆嵐』には及ばないし、ラストが意外とあっさりだったので物足りなさもありますが、いろいろと勉強になるので、自然保護とか動物の生態に興味がある人にはとくにオススメします。 -
Posted by ブクログ
マタギ三部作の最終話です。
今度は時代を遡って、日露戦争後の樺太です。
その当時は日本の領土になってた南樺太を縦横無尽に駆け巡る冒険小説です。
主人公はマタギだったのですが、日露戦争従軍後に帰還した後、故郷で事件が起こってしまい、故郷を後にします。
主人公を敵として付け狙う人間付で…。
樺太では旅仕事を重ねていき、一つのところには留まりません。
行く先々で、『ここに留まって根をおろせ』みたいなことを言われるのですが、必要以上に親しい人を作ろうとはしません。
その中でも親しくなってしまう人がいます。
食堂のお姉さんと、樺太アイヌの一家です。
主人公はかなり良いヤツで、昔の正統派ハードボイルドってかんじのキャラです。
樺太の国際色豊かな人間関係の中で、マタギで鍛えた銃の腕をついに披露しなければならない状況になってしまいます。
その時、主人公はどのような考えで、どのような行動をとるのか???
日露戦争直後という時代の中で、自分の行動規範で自分で責任を持って行動する。
かなりカッコいい主人公でした。
作者は樺太を体感するために、わざわざ冬の樺太を訪問したそうです。
そのため、樺太の寒さを感じられる文章になっております。
期待して読み始めましたが、期待通りの出来でした。
この人の作品が出たら、即買いですね。 -
Posted by ブクログ
新しい趣向をいろいろと思いつく人だなあ、熊谷さんは。
これは新しかった。
すこし講談調なのかなんなのか、ユーモアをまじえた語り口に熊谷さんの工夫が感じられたが、新しいのは、サンカが登場すること。
これまで、マタギや蝦夷を描いてきた熊谷さんだから、「お、今度はサンカか!」と期待するも・・・。
漂泊の民を主人公に描いたわけではない。
主人公は、秋田の箕作り屋さん。
東北では、箕直しをやって糊口をしのぐサンカ像、というのはないのだそうだ。
むしろ、技術のある職人さんとして一目置かれている。
そんな箕作り職人が関東にやってきて・・・。
こういうテーマをユーモアのある語り口でテンポ良く小説に仕立て上げた。
なるほどー、こういう手もあったか、と思った。 -
Posted by ブクログ
熊にもいい熊、悪い熊がいるらしい。
アイヌの言葉で、いい熊は「キムンカムイ(山の神)」悪い熊は「ウエンカムイ(悪神)」。
たとえいい熊だとしても、山の中でばったり出会ったら、怖いはず。熊は熊。
それもでかいヒグマならなおさら。
都会で生活しているとそんなシチュエーションは想像しにくいけれど、この「ウエンカムイの爪」を読むと、熊の息遣いを耳元に感じるような気がします。
駆け出しのフォトグラファー吉本は、北大の熊の研究チームのフィールド調査を取材する。
自然と対峙する世界へ踏み出した吉本と、金色に輝く毛並みの巨大な熊「カムイ」との出会い。
日本最大の野生動物であるヒグマを取り巻く自然環境の変化と人間社会との関わり。
自然と人間とがどのように関わっていくべきかを問いかけながら、シンプルかつ力強く、ヒグマとの緊張感あふれる対決を描いています。
子供の頃に「シートン動物記」を読んだときのドキドキ感を思い出しました。
この「ウエンカムイの爪」は熊谷達也のデビュー作。
文庫本はとても薄くて、すぐ読めちゃうのですが、「俺はこういう小説を書くんだ!」という作家自身の宣言のような小説です。 -
Posted by ブクログ
デビュー当時の熊谷達也さんのキーワードは「東北」と「自然・動物」。重厚で緊迫感がある物語でした。しかし、その後は色々な方面に手を出していますね。全てが成功しているとは言えませんが。
この作品は、部落問題という背景(そういえば「七夕しぐれ」でも扱っていました)はありますが、軽妙な作品です。大正末期を舞台にしていますが、どこか時代小説の雰囲気もあります。
主人公の若者・弥平の成長物語であり、友情の物語であり、淡い恋の物語でもあります。後にはあまり残らないけれど、読んでいて楽しい、そんな話です。
ただ、終わり方は中途半端。続編を出すのかなぁ。