熊谷達也のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ骨太というか重厚というか、読後にいろんなこと考えさせる書物です。
時代は20世紀初頭、今から100年ほど前の東北地方。自然に翻弄されながらも自然に寄り添って生きるマタギの若者が主人公です。
失われた日本の風土の中で、因習に囚われ、過酷な運命に抗いながらもマタギであり続けようとした主人公富治の生き様は、現代の男性には稀少となってしまった獣性を感じさせながらも、一本芯の通った男気を見せてくれました。人としてどう生きていくのか?富治は絶えず問いかけながらも、獣を狩るマタギ仕事に己の答えを見出そうとしていたようでした。
序盤はマタギの狩猟について細かい描写がされており、冬山の寒さに凍えなが -
Posted by ブクログ
こういう書き方をされると、他の小説家が書きにくい。
どういう書き方かというと、綿密に調べ上げた膨大な資料の元に書いているからだ。
今回は日露戦争から満州事変にかけての、東北における「またぎ」の世界を詳しく描いている。
ついでに銅山で働く「炭鉱夫」の実態も微にいり細にいり描写されている。
インスピレーションに頼って、恋愛小説を書くようなお気楽(?)な小説家は、思わず居住いを正さなきゃっていう気になるだろう。
やはり直木賞は努力賞なのだろうか?
著者は東京電機大学卒のバリバリの理科系。
さもありなんと思わされる。
・・・・・・
ところが心理描写も巧みで、ストーリーテラーとしての -
Posted by ブクログ
熊谷達也のデビュー作です。
アイヌの人々は善い羆のことを山の神『キムンカムイ』いい、性悪の羆を『ウエンヤップ』という。そして人間を食ってしまった羆のことを、真の悪神『ウエンカムイ』と呼ぶ…
北海道で撮影旅行中だった動物写真家・吉本は、ある日巨大な羆と遭遇してしてしまう。しかし今まさに襲われそうになったとき、彼はひとりの女性に救われた。その女性はまるで羆を魔法にでもかけたかのように自在に操り、山へと導いた。
なぜそんなことが出来るのか。彼女は何者なのか。
一方でそれとは別の羆が、キャンプ旅行中の学生たちを襲い3人を惨殺してしまう。一度人間の味を覚えた熊は警戒心より、人肉への嗜好のほう -
Posted by ブクログ
マタギ三部作の最終話です。
今度は時代を遡って、日露戦争後の樺太です。
その当時は日本の領土になってた南樺太を縦横無尽に駆け巡る冒険小説です。
主人公はマタギだったのですが、日露戦争従軍後に帰還した後、故郷で事件が起こってしまい、故郷を後にします。
主人公を敵として付け狙う人間付で…。
樺太では旅仕事を重ねていき、一つのところには留まりません。
行く先々で、『ここに留まって根をおろせ』みたいなことを言われるのですが、必要以上に親しい人を作ろうとはしません。
その中でも親しくなってしまう人がいます。
食堂のお姉さんと、樺太アイヌの一家です。
主人公はかなり良いヤツで、昔の正統派ハードボイル -
Posted by ブクログ
新しい趣向をいろいろと思いつく人だなあ、熊谷さんは。
これは新しかった。
すこし講談調なのかなんなのか、ユーモアをまじえた語り口に熊谷さんの工夫が感じられたが、新しいのは、サンカが登場すること。
これまで、マタギや蝦夷を描いてきた熊谷さんだから、「お、今度はサンカか!」と期待するも・・・。
漂泊の民を主人公に描いたわけではない。
主人公は、秋田の箕作り屋さん。
東北では、箕直しをやって糊口をしのぐサンカ像、というのはないのだそうだ。
むしろ、技術のある職人さんとして一目置かれている。
そんな箕作り職人が関東にやってきて・・・。
こういうテーマをユーモアのある語り口でテンポ良く小説に仕立て -
Posted by ブクログ
熊にもいい熊、悪い熊がいるらしい。
アイヌの言葉で、いい熊は「キムンカムイ(山の神)」悪い熊は「ウエンカムイ(悪神)」。
たとえいい熊だとしても、山の中でばったり出会ったら、怖いはず。熊は熊。
それもでかいヒグマならなおさら。
都会で生活しているとそんなシチュエーションは想像しにくいけれど、この「ウエンカムイの爪」を読むと、熊の息遣いを耳元に感じるような気がします。
駆け出しのフォトグラファー吉本は、北大の熊の研究チームのフィールド調査を取材する。
自然と対峙する世界へ踏み出した吉本と、金色に輝く毛並みの巨大な熊「カムイ」との出会い。
日本最大の野生動物であるヒグマを取り巻く自 -
Posted by ブクログ
デビュー当時の熊谷達也さんのキーワードは「東北」と「自然・動物」。重厚で緊迫感がある物語でした。しかし、その後は色々な方面に手を出していますね。全てが成功しているとは言えませんが。
この作品は、部落問題という背景(そういえば「七夕しぐれ」でも扱っていました)はありますが、軽妙な作品です。大正末期を舞台にしていますが、どこか時代小説の雰囲気もあります。
主人公の若者・弥平の成長物語であり、友情の物語であり、淡い恋の物語でもあります。後にはあまり残らないけれど、読んでいて楽しい、そんな話です。
ただ、終わり方は中途半端。続編を出すのかなぁ。 -
Posted by ブクログ
はっきり言って文章は粗く、特に会話のやりとりなんかは拙いと感じた。
そのせいか、序盤はイマイチ感情移入しきることができなかったが、ある程度物語が進行してからのパワーたるや、さすがにはにゃ氏が勧めるだけのことはある。
皆川博子氏の作品を想起させるような、遠大なクロニクルはとても読み応えがあった。
それでいて、狩猟民族が農業に出遭った時の戸惑いなど、ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」が好きな向きならおおと感嘆してしまうような要素も散りばめられていたりするから、懐も深い。
ラストシーンを始め、グッと泣かせにかかる山場まであって、これほど連続テレビドラマにハマりそうな小説も珍しいのでは!