【感想・ネタバレ】山背郷のレビュー

あらすじ

「山背」とは初夏の東北地方に吹く冷たい風のことをいう。その山背が渡る大地で様々な厳しい営みを続け、誇り高く生きる男たち。マタギ、漁師、川船乗り、潜水夫……。大自然と共生し、時に対峙しながら、愛する家族のために闘う彼らの肖像を鮮やかに描き、現代人が忘れかけた「生」の豊饒さと力強さを謳う九編の物語。作家の原点が凝縮された傑作短編集。

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Posted by ブクログ

昭和の東北を舞台にした短編集。

「少しでも早く先を読み進めたい」とここまで思わせてくれた本は久しぶり。東北の田舎ではある意味当たり前だった”生活文化”を丹念に理解した上で、そんな生活者の一人である登場人物の想いを、派手ではないが丁寧な話の流れで描き、ほっこりとした感動短編や、ちょっと切ない短編として仕上げている。

「想いはあっても、あまりそれを表に出したがらない」東北の人によく見られる考え方も含め、東北出身のこの作者でないと描けない素朴でいて情動的な人物描写が秀逸。そんな人物が丁寧な時代考証・文化考証に裏打ちされた物語の中で、じわじわと躍動する。

堵殺行為も行うマタギ生活者や、川船輸送生活者など西日本ではやや扱いにくい生活者の姿や生活感が、東北ではまた違った形で捉えられている。文献では少し知っていたこととはいえ、それを物語という形でこうも活き活きと理解出来るとは思ってもいなかった。
「作者のすごさ」と「物語のすごさ」、それを両方感じられた一作。

NHKラジオ文芸館で「モウレン船」の朗読が2017年9月16日に放送。

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2017年10月12日

Posted by ブクログ

再読です。
読んでいて、やはり吉村昭との類似性を感じます。最終的には記録文学の方向に行った吉村さんですが、初期の作品は物語性が高く、そのころの吉村作品に近い雰囲気があります。ただ、熊谷さんの方がより奔放です。
印象に残るのは「ひらた船」と「川崎船」。自然との厳しい戦いと対比するように人(夫婦間、親子間)に対する優しさが描かれた作品です。"厳しさ"と"優しさ"の対比、そこに熊谷さんの作品の力強さがあるのかもしれません。

====05-060 2005/06/08 ☆☆☆☆☆=====
最初は読みながら「新田次郎に似てる」「いや、戸川幸夫か」「いやいや、やっぱり吉村昭だ」などと思いながら読んでいました。
解説の中でも吉村昭との比較は出てきますし、まんざら外れでもないのですが、誰かに似てるというのは失礼ですよね。しかし、最後の「川崎船」まで行って一気に吹っ飛びました。たまたま題材が似てたのであって、独自の世界なんだと。
ストーリーそのものは、むしろ陳腐といってもおかしくありません。しかし、それを覆い隠してしまう迫力と躍動感があります。そして、力に裏打ちされた優しさがあります。
熊谷さんは初めてです。一作で判断するのは尚早かもしれません。しかし、熊谷さんの描く「力感のある生活」といった世界に強く惹かれます。

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2016年07月31日

Posted by ブクログ

熊谷達也『山背郷』(集英社文庫、2002年)は東北地方のマタギや漁師、川船乗り、潜水夫らを描いた短編小説集。山背は東北地方で春から夏に吹く冷たい東よりの風を指す。この山背が吹く厳しい自然の中で暮らす人々を描く。
「川崎船」は戦後すぐの青森県下北郡脇野沢村のタラ漁村を描く。タラ漁の場所取りは迫力がある。集英社文庫編集部編『短編工場』(集英社、2012年)にも収録された。
川崎船は沖合漁業に利用した比較的大型の漁船である。江戸時代から使われている。蟹工船に付属する発動機付小型漁船も川崎船と呼ぶが、それとは異なる。後者の川崎船は小林多喜二『蟹工船』にも登場する。そこから「川崎船」も『蟹工船』のような話と先入観を持つかもしれないが、異なる。
主人公の少年は漁船の機械化を目論むが、昔気質の父親に拒否される。頭の固い父親と思っていたが、鮮やかなどんでん返しになった。父親への疑惑、漁師として一人前になること、ライバルとの対立、恋の成就などが物語の主軸になるかと思いきや、見事に裏切られた。しかも、全体に予想できないオチではなく、きちんと前もって結末の可能性は語られていた。無骨な人々の物語であるが、小説の書き方として洗練されている。
村の中の人間関係の確執はもっと根深い話になると思ったが、尾を引かずにサッパリしている。厳しい自然の中で生きる人々は、そのようなものだろうか。しかし、これは小説の主題ではなかったということで、現実の昭和の村社会は陰湿なところがあるだろう。
父親と息子の対立は大塚家具など同族企業の経営方針の対立に重なる。息子は先を見ているように見えるが、直近の目の前のことしか見ていなかった。父親の方が先の先を見ていた。借金して過大な設備投資をしたが、好景気が続かず、借金だらけになり、借金を返すために事業を続けるような事業者は日本に多い。

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2021年05月23日

Posted by ブクログ

短編集。昭和20年代の東北を舞台に、山だ海だの自然の中で生きる人々の営為。家族愛を描く作品多し。

抒情的な少年時代の回想「メリイ」
ホラー味の「モウレン船」
直球勝負でイイ話の「川崎船」

自分が読んだ作家との比較で言うと、ジャック・ロンドンを思い出す(特に「旅マタギ」とか)。

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2018年11月05日

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東北を舞台にした珠玉の作品集。どの短編も日々の暮らしを必死に生き抜こうとする人々への筆者の深い愛情を感じさせる。

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2018年09月03日

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熊谷達也ぽさ100%のナイスな短編集。熊撃ちと船乗りとオオカミの話が多くて、どれもいちいち素晴らしい。一番好きなのは、メリイの話で、飼い犬との触れ合いの描写はとても良かった。

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2018年04月21日

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大自然と人間の共存をテーマにした短編9作品。
短編にしとくのがもったいない気がするくらい
とれも読みごたえがあった。

森シリーズ全巻読まねばなるまい。

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2013年05月21日

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熊谷達也の短編集。
マタギ物、漁師物など9編が納められている。
彼が描く家族像がとても清々しい。

現代の日本は「家族」を失ってしまっていないだろうか。

収録作
 潜りさま
 旅マタギ
 メリイ
 モウレン船
 御犬殿
 オカミン
 艜舟
 皆白
 川崎船

熊谷達也、とても良いです。ファンになりました。

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2010年01月14日

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昭和初期の東北を舞台にして、農村の人々の生活の中のドラマを、史実を背景に描いた作品群である。ほどよく使われる方言が心地良い。

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2009年10月04日

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今までであればたぶん自分からはなかなか手を出さないジャンルの小説だったが、「幻の漂白民・サンカ」を読んでいてその話をM浦さんにしたら、「ちょうどこんなのを読んでいるよ」と言って貸してくれた。

タイトルからしてもう少し山の民や生活によっているかと思ったが、実際には「旅マタギ」「御犬殿」「皆白」以外はどちらかというと海や川といった水周りを舞台とした作品だった。「潜りさま」「旅マタギ」「御犬殿」「ひらた船」がよかったかな。もう少し民俗学的なところに寄っていてくれると個人的にはもっとおもしろかったんだけどな。

解説を読むとだいたいの作品が昭和20年代の東北を舞台にしているとのことで、ふと、そういえばM浦さんも秋田出身だったなと思い出した。サンカではないが、戦後という激動の時代の中でマタギのような山の民がどう変わっていったのかという小説が読みたいなあ。「邂逅の森」か「相克の森」どちらかの長編を読んでみたい。

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2018年10月15日

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(01)
9つの短編からなるが、近代東北の群像劇(*02)の様にも読める。人生のある瞬間というだけではなく、一人の一生や、数代にわたる因縁も綴られ、必然的に戦前戦中戦後の東北の生活が現れる。特に山に生態する狼や熊という動物や、漁業や運送に駆使された船が題材となって、現代では省みられなくなった習俗(*03)などにも焦点を当てている。

(02)
オチを知らないものにとっては、これらの短編がバッドエンドに終るのか、ハッピーエンドに終るのか、あるいはその間に宙吊りにされるのかを楽しむことができる。どちらかと言えば、「旅マタギ」や「モウレン船」などの唐突な終結が出色であるが、「艜船」のハラハラさせる展開と様相が最も出来がよいと思う。

(03)
近代マタギの分類、海上での漁法や操船術、漁村の人々の営み、北上川の舟運などは、調査とまとめが行き届いており、ストーリーとは別に読み応えのある生活誌となっている。東北地方ならではの鉱山に関わるエピソードも興味深い。

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2017年02月12日

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東北という地の厳しさ、優しさ。同じ日本でもその地域の空気感はまるで違う。各編様々な物語であるが、全体を通して人間の思いの強さを感じさせてくれる。

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2014年11月26日

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自然と対峙する為に自身の生業に命が掛かっている人達の短編集。
命が掛かっているが為に自然からの啓示を真摯に受け止めるが、逆に油断した時に大きなしっぺ返しを喰らう可能性がある。
そして自然を知る為に五感や、言い伝えや先人達の知恵を大切にする人達のお話。

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2011年10月26日

Posted by ブクログ

「旅マタギ」が圧巻。しかし、どちらかというと、短編より長編で本領が発揮されるタイプの小説家だとは思う。

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2009年10月04日

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