井上荒野のレビュー一覧
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初井上荒野さん。二人の男女の間に愛の言葉など、何もない。関係を変えてしまうような事件も、これといって何もない。ただ淡々と物語は進み、ひょっとしたらこの作品を「退屈」と呼ぶ人もいるかもしれない。しかし、豊穣な情愛の芳香が作品の隅々に残る。その香りにつられてページをめくる手が止まらなかった、かつてない作品。
切羽(きりは)という単語も初めて知りました。「トンネルを掘って行く一番先」のこととか。「つながればなくなる」という意味において切羽は二人の切なく儚い関係性を暗じているようにも思えましたし、生きる、とか、死ぬ、ということにも通ずるように思いました。
人がただ繰り返してきた、生と死。 -
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ネタバレ喪失することが人生。
北の島。
養護教諭のセイは画家の夫をもつ。
新任教諭の石和にお互いに魅かれていく。
その先が切羽。トンネルを掘っていく一番先。
切羽へ。切羽へ。
そして、その切羽で石和は去る。
セイは夫の子を身ごもっていた。
欲しくて欲しくてたまらないけれど。
手には入らない。手には入れない。
そして喪っていく。
喪失こそが人生。
島という舞台が
その喪失感を象徴する。
この一節が印象的だ。
「彼らはすでに、石和を忘れる準備をはじめているようだった。
それは島の子供たち、あるいは島の人間が、
身のうちにこっそりと培っている方法なのかもしれない」 -
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「静子の日常」が自分の生き方を少し変えてくれる本だったので、
井上荒野という人に興味が出て色々調べてみたときに出会った本。
8篇の旅にまつわる短編集というところが気になった。
紹介の通り、日常からふっと離れる瞬間が8篇おさめられている。
人物の気持ちや、感じたことをいちいち細かく説明してくれる本ではないので、
はっきりすっきりと分かる気持ちの良い本ではない。
悪く言えば、なんだかごまかされている感じ。
「感じなさい」と強制されている感じがする。
私はうまく感じることができなくて、いつまでも釈然としない感じだった。
でもたぶん、あそこに書いてあったことが全てなんだ。
すっきりとしない、釈然としないものが残って、それが全てなのだと思う。
普段生きているときだって、
自分の中のモヤモヤとしたものの正体を見破るのはずいぶんと経ってからだ。
たぶん、本の中の登場人物だってモヤモヤしてるのだ。
彼らはそのもやもやを抱えて、また生きていくのだ。
物語の登場人物が、いつでもすっきりはっきり成長するわけではない。
むかし私は「おしなべて全ての物語は旅である」と習った。
主人公は、物語の中で自分の日常から非日常に旅立って、何かを得て帰ってくる。
そう習った。
何かは得るのだ。
でも、その何かがあいまいではっきりしないことだって、
あって当たり前なのだ。 -
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ネタバレ読後感が妙な物語だった。
母とその息子の駿と母の恋人とその娘の夏。
その二人の幼少期から中年までの物語。
語り手が駿と夏に交互にかわる。
二人が恋愛関係になるかと言えば、ならない。
でも人生の節目節目に思い出したように
連絡をとり、何かを確認しあう。
その微妙な空気感が題名である恋人でも妻でも夫でもない
その相手、駿と夏の間だけでわかることなのかな。
でもふあーっとした内容で、何が一番伝えたいことなのか
あまり伝わってこなかった。
夫に隠そうともせず恋人に夢中になり
恋人と別れた後は恋人相手に何かしら問題点を
みつけてからみつこうとする
ちょっとエキセントリックな駿の母親が病気になり
死に近づいて、駿の成人後離婚した父がいう、お母さんの
こういう感情も死ねばなくなるんだな、不思議だな
という言葉が心に残った。
極端な話、尼崎の殺人事件で自殺した犯人の
ものすごいどす黒い感情だって自殺してしまった後は
突然消えてしまうんだ。それが自分も子供の頃から
死んだら感情はどこへいってしまうんだろうって考えていた
その怖い気持ちと一致してなんかはっとした。
読み返しなし、読後感はうーん可もなく不可もなく。
読んで良かったどうかもわからない作品だった。 -
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古いビルにの最上階に住みながら、その地下で喫茶店を営む夫と妻。
夫と妻、交互に語られるお話は、常連客に仲睦まじく振る舞う姿とは裏腹に、それぞれが秘密を胸に、お互いの胸の内を探り合いながらの日常を映す。
『僕らは三本脚の椅子のようなもので、四本目の脚としてミノルが必要だという気分』という、結婚五年目というのに、この不安定で倦んだ関係…。
井上荒野って、こういう男女の機微を描かすと巧いよねぇ。
ただ、巧いとは思うけど、世の中の夫婦って、こんなに駆け引きしながら暮らしているのか?って、凄く現実感は薄い。
確かに心に疚しいところがあれば、これもありかもしれないけど、こんなやり取りしてたら、夫婦って続かないぞぉという気がするな。
この後に読むうちの嫁さんはどう反応するかな?共感したりすると、ちょっとかなわないなぁ…。 -
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恋愛小説は苦手な私なので、長編は無理だと思い
短編ばかり集まったものならどうだろうと思い購入。
好きな作家さんのお話が収録されているからというのも
ありました。
読みながら、やはり私は恋愛小説は無理だと再認識しつつ、
それでも印象深いお話や気に入ったお話に出会えました。
それだけでも大収穫かもしれません。
情景が思い浮かべにくい作品から、
読んでいて自分の目の前にスクリーンがあって
そこで話の映像がしっかり流れているくらい
鮮明に思い浮かべるものもあり
さまざまでした。
恋愛小説が苦手な人にも、このくらいの量ならば、
よみやすくていいと思います。