井上荒野のレビュー一覧
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初・井上荒野。
75歳の静子さん。
軽やかな振る舞いで、なんでもお見通しのカッコいいおばあちゃん。
そんな静子さんにも、かつて「怒らなければならない理由」(=悪い猿みたいなもの)があった。
彼女は長年その猿と折り合いをつけ、あるいは猿なんかいない、と自分に思わせて生きてきた。
つまりは、とても見事な良妻賢母を、彼女は演じてきた。
夫の死とともに、夫の妻であることをやめ、自由を手にした静子さん。
スポーツクラブでスイミングを習い、
息子夫婦の危機を未然に防ぎ、
孫の彼氏とも友達に。
若くはない、と自覚しながら、でも
「新しい歌を知ることはできるんだわ」と呟く。
「自由であるためには、心強くあらねばならない」と分かっているからこその、軽やかさ。
いつか自分も手に入れたい。
そして過去を懐かしく愛しく
振り返りたい。 -
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閉鎖的な島で夫と暮らす「私」と、
島へ移住してきた男との心の揺れを
描く物語。
設定はいかにもだけど、
荒野さんの丁寧で緻密な文体と、
生命力溢れる島言葉が美しい。
そして何より、
「切羽」という場所に惹かれて読んだ。
タイトルを見て、切羽詰まる、の「せっぱ」かと思ったら違った。
「トンネルを掘っていくいちばん先」のことで「きりは」と読む。
「トンネルが繋がってしまえば、切羽はなくなってしまう」
「掘り続けている間は、いつも、いちばん先が、切羽」。
有って無いような場所。
先へ先へと求め続けるけれど、
いつかは無くなってしまう場所。
それ以上先へは進めない場所。
それとも、未来へ続く扉にもなる?
その切羽まで、「どんどん歩いて行くとたい」と夫に言い放った主人公の母親。その覚悟。
夫か、別の男か、どちらが切羽へ進む道なのだろう?
139回直木賞受賞作。
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ネタバレこの作品はまず、79歳の百々子が夫の拓人71歳を殺したことを家族に知らせて、息子の創太と娘の時子、文子がどうやってそれを隠そうかとするところから始まります。
夫は女性に若いころからだらしなく、妻の百々子は、何故今頃になってという感すらありました。
井上荒野さんの作品のレビューに、よく「白い方の荒野さん」とか「黒い方の荒野さん」とかいう言い方をされていらっしゃる方がいらっしゃいますが、その言い方で言うとこの作品は「真っ黒」だと思います。
こんな気持ちの悪い家族の関係の家族。
こんな家族でよく子供がぐれたりしなかったと思うほど、一致団結しています。
なんでこんな拓人のような男性に女性が多いのかもわからない。それぞれの女性に拓人に魅かれる理由は描かれてはいますが、気持ちが悪いと思いました。
当の正妻の百々子でさえ結婚のきっかけは、当時、高校の教師だった百々子が、女生徒と交際中だった拓人を生徒から略奪したことであり、その後女生徒は、自殺未遂をしています。
それぞれ語りが非常に上手いので、そういう状況ならこんな、男性でも好きになることがあるかもしれないと思わせますが。
でも、家族の団結の固さも恐ろしい。
この親にしてこの子供ありです。
母親が、父親を殺して、でも家族だからかばって、家族だから隠そうと画策します。
この母親も、父親も、子供達には親であり、家族だった。誰もどちらも責めていない。
隠すことに必死です。
最後はどうなることか、はらはらして読みましたが、これは限りなく純文学に近いホラーではないかと思いました。
上手い小説だとは思いますが、気分がよくなる話ではないので、星は減らしました。 -
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ずっと読みたかった本。ようやく入手。
●江國香織「生きる気まんまんだった女の子の話」
……世界観がそのまんま。いいねえ。
生きる気まんまんだった女の子は、なんだかんだで幸せな人生を送ったのだろうな。
●岩瀬成子「竹」
……よく分からなかった。児童文学の作者なのに、やや難解。
●井上荒野「ある古本屋の妻の話」
……夫婦は仲良くありたいね。分かりやすく。誤解を招かずにすむくらいに。
●角田光代「おかあさんのところにやってきたねこ」
……いろいろ深読みしたくなってしまう短編。
飼い猫の幸せ?野生の幸せ?
親の子知らず、子の心親知らず。
人生の因果、幸福とは?
そして、元絵本でねこが、王様や船乗りやおばあちゃんや女の子を大きらいだった理由も。
………中略…………飽きたから?むつかしいハナシが多いから?………
●町田康「百万円もらった男」
……意味不明。「ねこ」はいずこ?
●綿矢りさ「黒猫」
……綿矢りさは「インストール」だけ読んだことアリ。なかなか面白い作品だったから機会が合えば他の作品を読んでみたいと思っていたので丁度良かった。
……今回の短編集では一番好きかも。綿矢りさ、よし、「蹴りたい背中」を読んでみよう。
それと、元ネタの「黒猫」も読んでみたいとも思った。
●川上弘美「幕間」
と
●広瀬弦「博士とねこ」
……それぞれ、「白いねこ」との出会いの直前をイメージして描いたのだろうと思われる。
……「博士と・・」が、原作の文体で書かれているのが心地よし♪
●谷川俊太郎「虎白カップル譚」
……こちらは逆に「その時」と「その後」か?
ラストを飾るのが谷川俊太郎さんだというのが、しみじみくる。原作のテーマにも通ずるような・・・。
★3つ、7ポイント。
2019.10.15.新。
※芥川賞だとか「●●賞」だとかの受賞者たちによるアンソロジー。
「直木賞」だとか「本屋大賞」だとかではなく・・・。
↓
読んでいていまいち熱くなれずにいたこと、「むつかしい…」「意味わからん…」「つまらん…」と思えてしまった作品が多かったのは、
エンタテイメントではなく“ブンガク”系の作家さんによる物語だったから?
・・・と考えたら、自分で自分が「ちょっと残念なやつ」に思えてしまった(苦笑)。 -
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第六回中央公論文芸賞受賞作。
場所がタイトルになっている、七編の短編集。
賞を受賞されているということで、手に取りましたが、期待が少し外れました。
「遊園地」は三人も女性がいる男性。うちの二人には実子がいて籍を入れているのは一人。スマートで優しそうな普通っぽい人なのに、「アフリカに出張なんだ」と言って28日間も家を留守にしたりとか感心してしまいました。なんでこんなにひょうひょうと浮気を何年間にも渡ってできるのか不思議でした。この話は他人事として読めば面白かったです。
「団地」は不穏な空気間の、なんか怖い話だなあと思ったけれど、最後の主人公の女性がいきなり「今日はエイプリルフールよ」と言って突拍子もない嘘をつくのが一番怖いと思いました。
最後の「病院」の中学生の話は、人の死が絡んではいますが、唯一最後にほっとできる話でした。
正常な価値観というものがあるとして読むと、みんな怖い話だと思いました。正直読むのがつらい話もありました。この短編らを面白がって読む度胸は私はなかったです。
タイトルは「そこへ行くな」ですし、世の中健全な話ばかりではないし、読後感のいい話ばかりではなく、作者がプロとして仕事をされているのはわかりますが、行ってはいけない世界の入り口のようなお話ばかりだったように思います。
また、こういう話が好きな方もいらっしゃるかもとも思います。
作者の、未読の作品には期待しています。