井上荒野のレビュー一覧
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ネタバレ2月22日は猫の日ということで読んでみた。これまでアンソロジーはあまり手に取ることはなかったけれど、普段読まない作家さんの作品に触れることができてよかった。
1作品あたりのページ数も少なく、隙間時間で読むことができる。
【最も好きな作品】
柚月裕子さん「泣く猫」
17年会っていない母が猫に自分と同じ名前をつけていたことを知ったときの真紀の気持ちを想うとともに、母はどのような想いでマキと呼んでいたのだろうかと思う。
マキの登場が真紀の感情を引き出し、自覚させるきっかけになったのではないか。
【最も印象に残ったフレーズ】
北村薫さん「『100万回生きたねこ』は絶望の書か」
「本の読み方にひとつの正解はない。『100万回生きたねこ』を読んで素直に感動するのは正しい。……しかし《絶望の書》だと感じてしまう者を、ただ、ひねくれてるとはいえないんじゃないかな」 -
Posted by ブクログ
ネタバレ*夫に支配される人気作家・柚。先が見えない三流大学三回生の航大。二人はひょんなことから「綴り人の会」というサイトを介して、文通をはじめる。柚は「夫にDVを受けている専業主婦」を装い、航大は「エリート商社マン」だと偽って―。便箋の上に書かれた偽りが、いつしか真実を孕んで、二人をくるわせていく。掻き立てられた情動が、やがて越えてはならない一線を踏み越えさせて…。緊迫の恋愛サスペンス! *
うわー、捻じれてるな・・・!全員、いい感じに捻じれてる。手紙を小道具に使ってのその描写が、とにかく巧い。
いつこの嘘がバレるんだろう?どうやって収拾がつくんだろう?とドキドキハラハラしっぱなしでした。 -
Posted by ブクログ
東京在住35歳の人気女性作家は、夫の暴力に怯える28歳の専業主婦『凛子』に、
富山に住む21歳の三流大学に通う学生は、貿易関係の会社に勤める35歳のエリートサラリーマン『クモオ』に。
お互いの素性を偽り「綴り人の会」という文通コミュニティを通して、手紙のやり取りをする。
手紙は月に2回、綴りの会を介し、それぞれの自宅へ送られる。
こちらから出した手紙はすぐには届かないし、相手からの返事もすぐには来ない。すぐに来ないどころか、返事をくれるのかさえ分からない。
待っている間に想いが募り、相手の返事を待たずにこちらからまた出してしまう。そうやって、手紙の上での恋愛は、待ってる時間にどんどん狂おしくなっていく。
初めて読んだ作家だが、とても面白いなと思った。
クモオの人としての浅さの描写がリアルで秀逸だった。21歳ってこんなに馬鹿なんだろうか。わたしもその頃はこんなに愚かだったのだろうかと考える。
凛子はクモオに、自分との愛を成就させるためにDV夫を殺してくれと頼む。夫が生きている限り、わたしはあなたと会うことすらできない。
ここから更にクモオの浅はかさが加速する。呆れながらも、彼から目が離せない自分がいる。
肉体が伴わない恋は美しい。言葉だけが作り上げる愛の形は、ほぼ完ぺきな形状をしている。問題は寿命が短いということ。
実体がなければそこに悦びはない。
霞を食べて生きていけるのは仙人だけだ。
これをよんで、文通っていいなと思ったのは、わたしだけじゃないはずだ。綴り人の会のようなそんなコミュニティが存在するのかと、ネットっで検索した人もおそらくいるだろう。
そんな気持ちにさせる話だった。
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初・井上荒野。
75歳の静子さん。
軽やかな振る舞いで、なんでもお見通しのカッコいいおばあちゃん。
そんな静子さんにも、かつて「怒らなければならない理由」(=悪い猿みたいなもの)があった。
彼女は長年その猿と折り合いをつけ、あるいは猿なんかいない、と自分に思わせて生きてきた。
つまりは、とても見事な良妻賢母を、彼女は演じてきた。
夫の死とともに、夫の妻であることをやめ、自由を手にした静子さん。
スポーツクラブでスイミングを習い、
息子夫婦の危機を未然に防ぎ、
孫の彼氏とも友達に。
若くはない、と自覚しながら、でも
「新しい歌を知ることはできるんだわ」と呟く。
「自由であるためには、心強くあらねばならない」と分かっているからこその、軽やかさ。
いつか自分も手に入れたい。
そして過去を懐かしく愛しく
振り返りたい。 -
Posted by ブクログ
閉鎖的な島で夫と暮らす「私」と、
島へ移住してきた男との心の揺れを
描く物語。
設定はいかにもだけど、
荒野さんの丁寧で緻密な文体と、
生命力溢れる島言葉が美しい。
そして何より、
「切羽」という場所に惹かれて読んだ。
タイトルを見て、切羽詰まる、の「せっぱ」かと思ったら違った。
「トンネルを掘っていくいちばん先」のことで「きりは」と読む。
「トンネルが繋がってしまえば、切羽はなくなってしまう」
「掘り続けている間は、いつも、いちばん先が、切羽」。
有って無いような場所。
先へ先へと求め続けるけれど、
いつかは無くなってしまう場所。
それ以上先へは進めない場所。
それとも、未来へ続く扉にもなる?
その切羽まで、「どんどん歩いて行くとたい」と夫に言い放った主人公の母親。その覚悟。
夫か、別の男か、どちらが切羽へ進む道なのだろう?
139回直木賞受賞作。