松本清張のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ出だしは男が女を誑かし翻弄する話かな、と思ってなんとなく『黒革の手帖』の対になるような作品と思っていたら、進むにつれて主人公の方が翻弄されてなんとか切り抜けていこうとするもので、また違った面白さがあった。
仕事には一切の興味を示さず、己の欲望のままに過ごす姿は突き抜けていて一周回って清々しくも感じた。彼と関係を持っていた女性達の目線での描写はなく、あくまで主人公の推測の元で心理描写がされていたが、微妙に噛み合わずもっと昏くドロドロとした思惑が絡み合っていてさすがの描き方だと思った。
途中杜撰に見える主人公の行動も、それが元で全てが狂っていったり、序盤でのシーンが終盤で重要な意味を持っていたりと、全てが計算され尽くされていて素晴らしい。上下巻とも分厚く長い小説だけれど、巧妙に作り上げられていて最後まで目が離せなかった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレとても面白かった。はじめ上下巻合わせての分厚さに読み終えれるか不安になったけれど、いざ読み始めると読みやすくあっという間だった。
はじめは繋がりの見えない点と点が後半に向かうにつれて徐々に繋がっていく様があまりに鮮やかで呑み込まれた。
途中何度も真実かと思えば異なる、の繰り返しで一見無駄足にみえる所も全て繋がっていくのが衝撃だった。
また途中の登場人物の何気ない行動が、そのキャラクターの人間性をありありと浮かび上がらせてくる。描き方の巧さに圧倒された。そこが冗長に感じて苦手な人もいるかもしれないけれど、私はとても好きだった。
犯人の動機、そしてトリックは今の作家さんでは書くことが出来ないだろう、当時だからこそ活かせる方法だったのが本当に衝撃でした。松本清張さんをよく現代作家だと言われても違和感のない読み易さ、と表現されているのを聞くけれど、現代作家では思いつかないだろう、あの当時に生きた人だからこその表現だなと強く感じる作品だった。 -
Posted by ブクログ
11作品の短編集で、主人公はすべて女性です。いずれも愛と憎しみに拘るがゆえのドラマ、揺れ動き深みにはまっていく人間のこころが冷静な筆致で描かれています。
この本を買ったのは『再春』を読みたかったから。これはかなり昔に檀ふみさん主演でドラマ化された記憶があり、すごく印象的だったので小説を読んでみたくなったからです。
『百円硬貨』もドラマで見たような気が…松本清張作品は映像化された作品が多いですね。
今回この一冊を読んでみて感じたことは「よくこれを小説にしたなぁ」と思う作品がいくつかあったこと。
外国人カップルのアバンチュールを題材にした『北の火箭』、夫亡きあと懸命に子育てをしながら姑に使え、ついには爽快に三行半を突きつける『見送って』、すぐれた言語学者である女性がなぜ誤訳をしてしまったのか、その真相に迫る『誤訳』、物語の内容がこれほどタイトルに直結しないのも珍しい『箱根初詣で』
いずれも清張さんが見聞きして、わずかに心に残ったことを力ずくで小説に仕立て上げたというような「さすがだなぁ」と感服せざるを得ない、実力がないと著せない作品群だと思います。
これらは昭和53年から54年にかけて『小説新潮』に連載されたということで、その頃の雰囲気というか、昭和の生活文化を味わいながら読むのも楽しいです。
「携帯電話があったらすぐ連絡がつくのに!」とか「今はこんな犯罪のやり方ぜったいできないよねぇ」とか…
そう考えると、令和のこの時代にもし清張さんが生きていらしたら、いったいどんな小説を書いてくれただろう…と、なんとなく寂しい気持ちになってしまうのでした。
清張さんの短編、他にも読んでみたいです。 -
Posted by ブクログ
R新聞社に勤め、文化部の記者をしていた姉の信子が死んだ。静岡県の浜松市近くで起こったバスの衝突事故で。休暇を使って伯父の住んでいた仙台に向かっていたはずの姉が何故――? 死んだ姉のハンドバッグからは定期入れが抜き取られていた。誰かが姉と一緒に行動して、死んだ姉を見捨てて逃げたのだろうか。文化部長の口利きで姉の後を継ぐように、R新聞社に入社することになった妹の祥子は、記者として働く中で、姉の同行者をひそかに探しはじめる――。
というのが本作の導入。600ページ近くのそれなりの長さを持った作品ですが、松本清張の淀みのない(そして古びにくい)文章の読み心地の良さもあり、そんな長さを感じない作品になっています。うさん臭さのある犯人候補、連鎖するように起こる事件、孤独な闘いの中で現れる協力者……そして謎を追っていくうちに浮き彫りになっていく真相の〈醜さ〉や〈愚かしさ〉、〈どうにもならなさ〉に、とても魅力を感じてしまいます。 -
Posted by ブクログ
高速道路での玉突き事故を偶然撮影した写真が脚光を浴びるも被害者(死んでいる)の婚約者が不審に思い執念の調査を繰り広げるサスペンス。報道写真であるが2025年の今ならYouTubeやTikTok辺りの動画配信者に同じ思いを見るのではなかろうか。大衆の求めるモノと承認欲求が普遍的である事を示した先鋭的作品と考える。
個人的にはその辺の先見性だけで無く、問題の報道写真を撮影したキャメラマンと婚約者の息詰まる対決という図式が非常に面白かった。狙われる側も用心深さと狡猾さが尋常では無く結果がどうなるか気になったのでサスペンスとして秀逸と思われる。
大麻編がちと蛇足の感があるがそれでも内容として駄目という訳でもない。 -
Posted by ブクログ
誰しも忘れたい過去があるはずだ
しかし
振り返って手を伸ばしてみても
掴んで修理することはできないし
スマホのデータのように
きれいさっぱり消去することもできない
「俺から逃げることはできねぇぜ」
忘れたい過去はそんな風にくっきりと
あるいはもやのようにぼんやりと
僕たちにいつまでもまとわりついてくる
この小説の主人公である和賀も
そんな過去に苦しめられる一人だ
天才音楽家として名声を手にし
彼の目の前には前途有望な将来しかない
だが過去は彼を逃がさない
どこまでいっても
どんな解釈を試みようとも
和賀の過去は和賀を追いつめていく
しかし過去と対峙しその過去を糧にして
力強く前向きに生きることができる
人間などいるのだろうか
僕たちは
和賀の犯した罪を責めることができるのか?
この小説のラスト一行は、美しい
和賀が奏でる音楽のように
どこまでも優しく暖かい。
何度も映像化された名作中の名作。
時代背景の古さなどお構いなしに
これからも読者の心を打ち抜いていくだろう -
Posted by ブクログ
ネタバレ三作ともおもしろかった。
松本清張は本当に何を読んでもおもしろい。
一作目の『歯止め』はなんとも言えないというか、まぁ気持ち悪い。
この作品では養母と息子だけど、血の繋がった母子でもなくはないんだろうなと思ってしまう。
ごくごく普通の人って感じている人でも、息子に関しては「…え!?」とドン引いてしまうような考え方の人いるもんね。
傍から見てると、愛というより暴走だよね。
三作目の『微笑の儀式』は「仏像かぁ…」と読み始めたけど、いつの間に夢中になって読んでいた。
ちょっと気になったんだけど、石膏でデスマスクをとって解剖の時に気付かれたりしないものなの?
いくら丁寧に拭き取ってもバレそうな気がするけどな。