松本清張のレビュー一覧
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11作品の短編集で、主人公はすべて女性です。いずれも愛と憎しみに拘るがゆえのドラマ、揺れ動き深みにはまっていく人間のこころが冷静な筆致で描かれています。
この本を買ったのは『再春』を読みたかったから。これはかなり昔に檀ふみさん主演でドラマ化された記憶があり、すごく印象的だったので小説を読んでみたくなったからです。
『百円硬貨』もドラマで見たような気が…松本清張作品は映像化された作品が多いですね。
今回この一冊を読んでみて感じたことは「よくこれを小説にしたなぁ」と思う作品がいくつかあったこと。
外国人カップルのアバンチュールを題材にした『北の火箭』、夫亡きあと懸命に子育てをしながら姑に使え、 -
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R新聞社に勤め、文化部の記者をしていた姉の信子が死んだ。静岡県の浜松市近くで起こったバスの衝突事故で。休暇を使って伯父の住んでいた仙台に向かっていたはずの姉が何故――? 死んだ姉のハンドバッグからは定期入れが抜き取られていた。誰かが姉と一緒に行動して、死んだ姉を見捨てて逃げたのだろうか。文化部長の口利きで姉の後を継ぐように、R新聞社に入社することになった妹の祥子は、記者として働く中で、姉の同行者をひそかに探しはじめる――。
というのが本作の導入。600ページ近くのそれなりの長さを持った作品ですが、松本清張の淀みのない(そして古びにくい)文章の読み心地の良さもあり、そんな長さを感じない作品 -
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高速道路での玉突き事故を偶然撮影した写真が脚光を浴びるも被害者(死んでいる)の婚約者が不審に思い執念の調査を繰り広げるサスペンス。報道写真であるが2025年の今ならYouTubeやTikTok辺りの動画配信者に同じ思いを見るのではなかろうか。大衆の求めるモノと承認欲求が普遍的である事を示した先鋭的作品と考える。
個人的にはその辺の先見性だけで無く、問題の報道写真を撮影したキャメラマンと婚約者の息詰まる対決という図式が非常に面白かった。狙われる側も用心深さと狡猾さが尋常では無く結果がどうなるか気になったのでサスペンスとして秀逸と思われる。
大麻編がちと蛇足の感があるがそれでも内容として駄目という -
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誰しも忘れたい過去があるはずだ
しかし
振り返って手を伸ばしてみても
掴んで修理することはできないし
スマホのデータのように
きれいさっぱり消去することもできない
「俺から逃げることはできねぇぜ」
忘れたい過去はそんな風にくっきりと
あるいはもやのようにぼんやりと
僕たちにいつまでもまとわりついてくる
この小説の主人公である和賀も
そんな過去に苦しめられる一人だ
天才音楽家として名声を手にし
彼の目の前には前途有望な将来しかない
だが過去は彼を逃がさない
どこまでいっても
どんな解釈を試みようとも
和賀の過去は和賀を追いつめていく
しかし過去と対峙しその過去を糧にして
力強く前向き -
Posted by ブクログ
ネタバレめちゃくちゃよかった。今回この小説を読むにあたって、私の中で松本清張作品が生々しく感じる小説なのかということを考えながら読んでみた。思うに、一つは真相を追求するにあたって、探偵役(今作だと今西刑事)が「推理の失敗」を重ねているからだと思う。松本清張において「名探偵」はあまり登場しないように思われる。(勿論全てを読んでいるわけではないので必ずしもというわけではないだろうけど)しかし、推理を百発百中で的中させる名探偵がいないからこそ、「この推測も違った、こっちはどうだろう」と悩みながら真相を追い求めていくその過程が、作品にリアリティを産んでいるのかな、などと考えた。
また、解説にもあるが、事件解決 -
Posted by ブクログ
ネタバレ三作ともおもしろかった。
松本清張は本当に何を読んでもおもしろい。
一作目の『歯止め』はなんとも言えないというか、まぁ気持ち悪い。
この作品では養母と息子だけど、血の繋がった母子でもなくはないんだろうなと思ってしまう。
ごくごく普通の人って感じている人でも、息子に関しては「…え!?」とドン引いてしまうような考え方の人いるもんね。
傍から見てると、愛というより暴走だよね。
三作目の『微笑の儀式』は「仏像かぁ…」と読み始めたけど、いつの間に夢中になって読んでいた。
ちょっと気になったんだけど、石膏でデスマスクをとって解剖の時に気付かれたりしないものなの?
いくら丁寧に拭き取ってもバレそうな気が