あらすじ
男というものは絶えず急な斜面に立っている。爪を立てて上に登って行くか、下に転落するかだ──。10年ぶりに歌舞伎座で会った女は、豪華な装いで、男の勤める会社の実力派会長の愛人になっていた。彼女を利用して昇進に成功した男は、やがて彼女が邪魔になり……。表題作の他、強盗殺人犯の妻と張り込みの刑事を描く「失敗」、大新聞社の職をやめ、都落ちして勤めた田舎の新聞社で奇妙な事件に出くわす「投影」など、語り口のうまさに思わず唸る、全6篇を収録。
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Posted by ブクログ
さすが松本清張。会長の妾との逢瀬から殺人事件までのスピードと計画の発想がいい。
男は絶えず急な斜面に立って爪を立てて上に登るか、下に転落するだけ。いずれは転落する可能性があるが、常に上昇しようとする性がよく表現されている。
6話短編集。
『二階」
当作者の作品の大半は読んでいるが、長編、短編ともに高い完成度を持ったものが多い。中でも本編の「二階」は圧巻である。
登場人物を極めて少なく限り、舞台設定も、主人公の夫が伏せている病間のある二階である。主人公である印刷業を細々と経営している妻が夫の家政婦の登場で心理的に追い詰められていくサスペンスの盛り上がり方は読者を最後まで一気に引き込んで離さない。二階がこれほどまでに遠く、恐怖に満ちものになるとはだれが想像しえたであろうか。意のままになるはずの一介の家政婦の存在は夫婦の大きな亀裂を作り悲劇へと導く。短編ならではの筆致と構成に作者の技量を感じた。
Posted by ブクログ
表題作「危険な斜面」の他、「二階」「巻頭句の女」「失敗」「拐帯行」「投影」を含む短編集。短編ながら、読者の想像を掻き立て、また読者を煙に巻く筆致。
松本清張の短編集では『黒い画集』が有名ですが、クオリティの高さでは本書も負けていません。表題作は鮎川哲也ばりのアリバイ崩しミステリですし、数々のアンソロジーにも収録されている「巻頭句の女」は、無駄のない引き締まった本格推理短編の佳作です。
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本作の中の''二階''に五つ星です。
もしかしたらと、読者の予想が松本清張に追いつきながらも、彼の作品の特徴である個々の感情を描写しており、読者をあっと驚かせる展開へ。
男性はどう捉えるか分かりませんが、女性には読んで欲しい作品です。
Posted by ブクログ
謀(はかりごと)はなぜ成就しないのか。未来という時間の流れと人の感情という想定外要素が必ずや邪魔をする。それは意図的ではなく図らずもそういう運命なのかもしれない。何気なく過ごす日常に企みは潜んでいる。それを暴くのは決して正義ではない、因果から抜け出せない人の欲への愛おしさである。綺麗事では決して人の心は掴みきれないのだ。松本清張はその代弁者であろう。
Posted by ブクログ
「松本清張」の短篇集『危険な斜面』を読みました。
「松本清張」作品は今年の1月に読んだ『神々の乱心』以来ですね。
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男は絶えず急な斜面に立っている……。
爪を立てて上に登って行くか、下に転落するかだ??。
十年ぶりに会った女は、男の会社の実力派会長の妾だった。
彼女を利用して昇進に成功した男はやがて彼女の存在が邪魔になり……。
表題作『危険な斜面』ほか、刑事の張り込みを描いた『失敗』など全六篇の短篇を収録。
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本作品は昭和32年から昭和34年に発表された、以下の6篇で構成されています。
■危険な斜面
■二階
■巻頭句の女
■失敗
■拐帯行
■投影
『危険な斜面』は、出世のために女(十年前に付き合っていて、現在は会社会長の妾)を利用した男が、女の変心から人生を転落する物語、、、
西島電機の調査課長「秋庭文作」は、偶然、西島グループの会長「西島卓平」の妾と遭遇する機会があったが、その女は十年前に交際のあった「野関敏江」だった… 「秋庭」は、彼女を利用して会社での立場を好転させて行くが、「秋庭」との仲が深まった「敏江」は、「秋庭」との結婚を望むようになり、その存在が邪魔になった「秋庭」は、出張を利用してアリバイを作り山口県で「敏江」を殺害する。
完全犯罪と思われたが… 「敏江」には「秋庭」が知らない若い恋人「沼田仁一」という存在があり、その「沼田」が真相に迫る、、、
「松本清張」らしい作品でしたね。
『二階』は、病床の夫と夫に代わって印刷工場を切り盛りする健気な妻、そして派出の看護婦が織り成す心理サスペンス、、、
病身の夫「竹沢英二」は、妻「幸子」に自宅での療養を強く望む… 「幸子」は、派出の看護婦「坪川裕子」を雇い、「英二」の希望を叶えるが、印刷工場兼自宅の二階で過ごす二人の行動に疑心暗鬼となる。
冒頭で「英二」の帰宅をさり気なく避けようとする「幸子」の言動に不信感を覚えてしまうところからミスリードさせられていましたね… 巧いなぁ。
誰が奪って、誰が奪われたのか、、、
死んでからもプライドを捨てられない… そんな人間の愚かさに憐れみを感じました。
『巻頭句の女』は、俳句雑誌「蒲の穂」の巻頭を飾っていた常連投稿者からの連絡が途絶えたことにより、俳句雑誌の主宰者と同人が真相を探ろうとする物語、、、
俳句雑誌の主宰者「石本麦人」と同人の「藤田青沙」は、常連投稿者「志村さち女」が入院していた施療院「愛光園」を訪ねるが、彼女は結婚して退所した後だった… 「さち女」が、胃癌で余命数ヶ月と知ったうえで結婚して自宅に引き取った「岩本英太郎」の行動や、「岩本」の自宅で「さち女」が亡くなった日の自動車の出入り、三日後にようやく親戚が訪ねて着たこと等に疑念を抱いた二人は地道な調査により真相を明らかにする。
俳句によって結ばれた仲間たちの友情が胸を打ちますね。
それにしても… 善人と思われた人物が、凶行犯だったという意外性が愉しめました。
『失敗』は、都内で発生した強盗殺人事件の犯人が、東北地方の自宅に立ち寄る可能性があるため、そこに張り込んだ刑事たちを扱った警察小説、、、
犯人「大岩玄太郎」の妻「くみ子」と五歳の息子が住んでいるのは粗末な長屋形式の公営住宅… その三畳の台所に所轄の刑事二人、古参の「島田」と若手の「津坂」が24時間張り込む。
貧しくても、日雇いの仕事で生活費を稼ぎながら貧しくても歯を食いしばって生きる母子… 張込みを続けるうちに刑事たちは母子との距離が縮まり、徐々に情が移り始めた頃、前代未聞の大失態が発生する、、、
犯人を取り逃がし、自殺させてしまったことに対して、若手の「津坂」は自ら処分を求め、結局、辞職してしまう。
「津坂」の上司で刑事部長の「山村」警部は、「くみ子」や「島田」、「津坂」の証言、翌日「くみ子」が畑を掘り返していたことや、当夜の布団の配置等から、真相に気付くが「津坂」の将来を考えて公表せず、酒を飲みながら「島田」にだけ真相を語る。
男と女って難しいですね。
『拐帯行』は、将来に夢も希望もない若手社員が会社の金を着服後、愛する女との逃避行を描いた物語、、、
「森村隆志」は集金した35万円を自分の鞄に持ったまま、恋人の「西池久美子」と九州へ旅立つ… お金を使い切った後、二人は指宿で心中しようと計画していたが、旅の途中で素敵な中年の夫婦と出会ったことから、自分の人生を立て直そうと翻意して自首するが、羨望して憧れた中年の夫婦の正体は!?
心理描写や登場人物の配置の仕方が巧いなぁ… と感じる作品でした。
『投影』は、上司とのトラブルから大手新聞社を辞職し、水商売の女と地方都市に流れた男が、再就職した地方新聞社での経験により人間的に成長する物語、、、
大手新聞社に努める新聞記者の「田村太一」は部長と喧嘩して新聞社を辞めてしまい、ホールで働いていた恋人「頼子」と瀬戸内のSという都市に都落ちする。
「太一」は、社長「畠中」と社員「湯浅新六」一人の小さな地方新聞社「陽道新報社」に就職し、S市役所の取材をしていたところ、地方の有力者で大物市会議員「石井円吉」と土地買収に絡んでトラブルのあった土木課長「南」が部下の送別会で泥酔した後、海に転落して死亡する事件が発生した。
「石井円吉」にとって、邪魔者であった「南」の死… その死因に疑問を持った「陽道新報社」の三人は真相究明に乗り出す、、、
「太一」は、正義感の強い社長「畠中」の激励を受け、目立たないが有能な同僚「新六」と協力して、「南」を死に追いやった犯罪を立証する。
市制の腐敗摘発という困難な取材を通じて成長する「太一」… エンディングでは東京での再就職が決まり、「松本清張」には珍しく、スッキリとして後味の良い作品でしたね。
「松本清張」の魅力がたっぷり味わえる短篇集でした。
Posted by ブクログ
全六編が収録された短編集。
私のオススメは何より二つ目の『二階』。
夫思いの出来た妻幸子と病身の夫英二、そして自宅に雇い入れた看護婦裕子。
妻の心理描写がうまいなぁーと感じながらも先は読めるぞ!などと思っていたのですが、ラストでやられました。
まさか、そうなるとは!!!!!
見事な心理サスペンスでございました。
Posted by ブクログ
面白かったです。松本清張は小説を読むのは多分初めてです。時代の違いは感じましたが、短編なのに重厚さがあって、でも読みやすかったです。「危険な斜面」「投影」が好きでした。人間模様がほろ苦くていいです。長編も読んでみたいです。
Posted by ブクログ
愛憎劇が多い。嫌いじゃないけど、ここに収録されているのはまあまあ。
その中で、最後に収録されている「投影」はとてもわくわくしたし、
最後もよかった。珍しく何かを学んだ気持ちになった。