松本清張のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
小説家松本清張になるまでの長い長い閉じ込められた半生の記
自伝。
ご本人は絶対に面白みも何もないし著名作家の知り合いもおらぬしつまらぬと書くつもりもなかったもの。
両親の話、生まれてから小説を書くまでの長く鬱々とした日々の記録は、実にじめじめと湿度が高く劣等感と閉塞感に満ち満ちていました。
金銭的な貧しさやそれゆえの学歴のなさ、それ故に差別を受けたことや両親の束縛などが綿々と書き連ねてあり、これは恨み言なのかと思いきや、戦地への出航時に自分だけ父親が送りにきたり、母親が迎えて泣いただの、束縛が苦しいと綴りながらも息苦しいほど愛されている実感も実はあったのではないか、など思ってしまった。
小 -
購入済み
葦の浮船
好対照な2人の助教授が織りなす物語。折戸二郎は上代史専攻の才能ある助教授であるが、好色漢で巧みに女性に接近しすぐに手を出す人物である。一方、小関久雄は中世史専攻の助教授で、まったく女性には縁が無いと思い込んでいる好人物である。なぜか2人は、深い付き合いである、小関は折戸の行動に納得していないが、学問上の実力差は認めざるを得ず、折戸にうまく牛耳られていることに自ら納得している。
2人の教授と、人妻笠原幸子、および近村達子、2人の女性が、ストーリーを展開する。前半は、不倫物語の様態で☆二つかなと思っていたが、後半になって、清張小説の面目躍如といったところである。
-
Posted by ブクログ
兄が殺人容疑で捕まり、無実の罪を着せられたまま獄中死したのは、高い弁護料を払うことができない自分を高名な弁護士が弁護を断ったからだ。こう捉えた瞬間から、その弁護士に対する妹の復讐が始まる。
誰もが自分の都合を持ち、時には他人の事情よりもそれを優先させて生活している。しかし、その他人の事情がいつまでも気にかかってしまうことはある。しかも自分の事情が大したことではなかった場合は特に。
そのように心に引っかかった一点の染みが徐々に大きくなっていく様と、そこに執念を燃やし復讐を遂げようとする様子を、高名な人間が転落していく様と周囲の人間模様から描き出している。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ上巻の元子は応援したくなり、やるねえ〜と思いながら読んだ。頭の切れる人はかっこいい。構成が良いのでサクサク読んだ。
だが、下巻の元子はどうにも好きになれなかった。安島のくだりでは、今まで数字を見つめてきた人間が、そんな急に熱心になるものか?と思い、「敏腕であっても所詮は女だ」とでも言わんばかりの描き様に、興ざめした。女性の描き方が時代ならではで、今の感覚で読むものではないということだろう。
最後のどんでん返しでは元子は裏切りに裏切られ、寒気がした。そんな、ここまでしなくても、いいじゃないですか?妊娠・流産に関しては、「成り上がった女の転落」を描きたいばかりのように思ってしまった。後味があまりに -
Posted by ブクログ
去年、死刑囚として47年もの間拘束されていた袴田さんの無実が確定し、釈放された。袴田さんはもはや、自分が釈放されたことがわかっているのかも疑問なぐらい精神をきたしてしまっている。。人生の大半を牢の中で過ごさせてしまった罪の大きさは計り知れない。
帝銀事件もまた然り。戦後間もない昭和23年、帝国銀行椎名町支店で青酸カリによる大量殺人が発生した。行動のスムーズさから判断するに、犯人は冷静沈着、慎重な性格で、かなり医療に精通した人間と推察される。そしてまた大量の死を目の当たりにしても動じないところを見ると残忍酷薄で精神力の強い人物である。そこで警察は軍関係、特に七三一部隊を含む科学研究所に焦点を