松本清張のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『紙の月』に続いて女性行員横領もの。超有名な作品ですが、ちゃんと読むのは初めて。
1980年の作品で、土地転がし、脱税、不正入学など、バブル前の欲望渦巻く雰囲気がよく出ています。何度もドラマ化されていて、その度に現代風にアレンジされているのだと思いますが、基本的にはこの時代背景があってこそ成り立つ物語だなと思います。
銀行から横領した金で銀座のママに転身したところから物語が始まるので、残念ながら思っていたほど横領の話は出てこなかった。この頃は架空口座や無記名口座が法律で禁止されてなかったことにまず驚きます。
「優生保護法」とかもさらっとでてくるんですが、これが1996年まで存在して -
Posted by ブクログ
清張の初期の短編作品を8編集めたもの。
過去に読んだ作品やテレビドラマや映画になり、なじみのある作品も幾つか収録されている。「市長死す」や「張込み」は、その最たるもの。
いずれも、今となっては、レトロ感が溢れているが、「声」は電話交換手ならではの発達した聴覚が取り上げられ、なかなかレアなネタで新鮮さを覚えた。
また、映画の世界に抜擢された劇団男優が顔を群衆に曝すことで“過去”の暴露に怯えるという皮肉な展開を描いた「顔」も面白いストーリーだった。
犯人に対し、過誤をしゃべらせる「ミュンスターバーグの方法」を使って追い込んでいく「反射」も興味深く、共犯者の自供からの破綻を怖れるあまり、ある男に調査 -
Posted by ブクログ
主人公の若手検事、瀬川良一の孤軍奮闘の調査により、真相まであと一歩というところで殺人事件の時効が明日成立してしまうところまで迫ってきます。ネタバレになるので結果は書きませんが、真相に近い大物の代議士は一筋縄ではいかない巨悪の根源のようなヤツです。
政治家、暴力団(反社)、 建設会社、 警察、 検察‥これらの持ちつ持たれつの関係の中で、悪人ほど高笑いする構造はこの頃も、60年経つ今もあまり変わらないのではないでしょうか。それを感じた作品でした。清張氏はこれらの組織を(今回は検察を)実によく調べて消化していることに恐れ入ります。
ただ、もっと優れた作品を知っているだけに、今回は遅々として、臨場感 -
Posted by ブクログ
松本清張氏の作品を文庫の新刊で読めるのは嬉しいですね。1971年に講談社文庫より刊行された本書を改訂し、文字を大きくした新装版です。清張氏56歳の時の作品で、読売新聞の連載小説でした。
そのため長編独特の丁寧さがあり、遅々としている印象ですが、清張ならではの風土性や、深層を追う者の心理描写がよく描かれています。
この小説の中での追う者は、検事の瀬川良一。松山地方検察庁 地方支部の倉庫から出火し、事務官の平田健吉が焼死し、戸棚の中から事件簿の2冊目(昭和25年から26年にかけての部分)だけが紛失しているのに気付きます。そのことに疑問を持った瀬川検事の単独での真相究明が始まります。
紛失し -
Posted by ブクログ
ネタバレ昨年から読んでいたこちらが、今年の一冊目になった。
実家(北陸)の暗い冬にピッタリすぎる、ゼロの焦点と、この黒革の手帖で年末年始を挟んで、なかなかの濃いお正月となった。
上巻は、原口元子がこわーい、と思いながら読んだ。
昨年末によくみかけた銀行の貸金庫丸パクリ事件は、この本の冒頭の顛末さながらである。
ブイブイ言わせる元子は、さらに上へ上へと挑戦していくのが上巻。
ところが下巻に入ってから、急に世界はガラリと足元から崩れていく。
そのおおもとは、上巻の元子の行動に恨みを持つ女たち。
ひどいしっぺ返しを受け、そのまま終わる…。
マジか、どこかでさらにやり返せるかと思ってたので、終わりまで見て頭 -
Posted by ブクログ
北陸の実家で年越しに読む。
ちょうどラストは大晦日の話だった。
暗いし怖いけど、面白い。
新婚の夫が失踪、その義兄も殺される。
調べるうちにわかる夫の正体。
夫が謎の人だとわかる展開が怖い。
戦後13年はまだこんな社会だったのだなあ。
この当時の金沢、東京の雰囲気も同じくなんだかこわいんですよ。
自分(主人公=妻)との結婚が、夫にとっての崩壊の始まりだった、とうすうす気づいてしまうのが、なんとも苦い。はあー。
そんなわけで、今年の本はこれで終わりです。
来年もよろしくお願いします。
これからも、みなさまのもとに本の神様が微笑まれますように。