松本清張のレビュー一覧
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ミステリー・サスペンス作家だと思っていたが、文学者だった。構成はミステリー仕立てであり、謎が気になり最後まで読み進めてしまう。一方でただの謎解き小説にとどまらず、犯人の心情を感じさせる。生きてるって大変だよなあ、などと考えてしまう。
表題作の「張込み」は読み終わった後に数日考えてしまった。
●張込み
逃亡犯の昔の恋人を張り込む刑事。その女は子持ちの男と結婚し、平凡な主婦となっていた。やがて犯人から連絡があり、女は出かけていくのだが…。
●顔
殺人事件の前に顔を見られた男が俳優として映画に出演することになる。未来のために目撃者を消したいと考えた男がとった行動は…。まさに藪蛇。
●声
犯行現場に間違い電話をかけてしまった交換手の女。数年後、夫の同僚の声が犯人の声とそっくりだと気づく…。
●地方紙を買う女
指定した期間だけ地方紙を購入していた女。新聞小説が目的だと言うが、連載途中で購読を打ち切ってしまう。怪訝に感じた小説家が女の謎を追うが…。
●鬼畜
気の小さな印刷屋の主人が情婦との間に子供を三人ももうけるが、商売が行き詰まり生活の面倒が見られなくなる。怒った情婦は子どもを印刷屋に押し付け行方不明に。怒った印刷屋の妻は夫に子どもの処分を指示するのだった…。
●一年半待て
「一事不再理の原則」を利用し、完全犯罪を目論んだ女の話。
●投影
大手新聞社を辞め都落ちした主人公。地方新聞社で現地の汚職事件を告発する。
●カルネアデスの舟板
一つしかないポストを手に入れるために恩師を陥れる大学教授の話。 -
Posted by ブクログ
「松本清張」の晩年の短篇集『隠花の飾り』を読みました。
「松本清張」作品は昨年12月に読んだ『影の車』以来ですね。
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「松本清張」 生誕100年記念復刊第2弾。
愛を追い求めた女たちの運命――。
妻子ある男を好きになってしまった銀行勤めの「伴子」。
男と結婚するのに必要となる三千万円を横領するが、たった一枚の百円玉が、その運命を反転させる『百円硬貨』。
毎日弁当を作り、ボーナスで洋服を仕立てて、年下の男に尽くす「滝子」。
男が若い女と結婚することが決まり潔く身を引くが、結婚前夜に男が訪ねて来て……『記念に』。
愛を求めるあまり転落してゆく女たちの深い情念を描く傑作短編十一編。
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月刊誌に連作短篇としてされた以下の十一篇が収録されています。
■足袋
■愛犬
■北の火箭
■見送って
■誤訳
■百円硬貨
■お手玉
■記念に
■箱根初詣で
■再春
■遺墨
時代背景は現在とはやや異なるものの現在に通じるテーマも多かったし、エンディングでぞくっとさせられる作品もあり、なかなか愉しく読めました。
特に印象に残ったのは以下の4篇です。
『足袋』
不倫相手に見捨てられた女性が、元不倫相手の男性宅に無言電話を続けたあと、男性宅周囲を夜中に徘徊し、寝室や台所の横を革草履で地を舐めるように忍びやかに歩き回る… 現代で言うストーカー行為。
想像するだけでも怖いですね。
それだけでも不気味なのに、最期は郵便受けに足袋を残して逝ってしまう。
男性にとってはさぞかし後味の悪い幕切れでしょうね。
怖いわぁ。
『見送って』
夫の死後、自分を犠牲にして厳しい姑に耐え忍びながら、一人娘を育て上げ、そして嫁に出す披露宴が舞台。
披露宴での来賓挨拶等で、その忍従生活が明らかになるとともに、娘の回想シーンから母親の真の思いが徐々にわかり始める、、、
そして、空港で親戚一同とハネムーンに旅立つ娘夫婦を見送ったあと、姑と義妹夫婦に離籍を申し出て、自由な自分を取り戻す… 現代で言う熟年離婚(離婚ではなく離縁、もしくは離籍ですが… )に近いテーマですね。
スッキリするエンディングでした。
『百円硬貨』
本作がイチバン印象に残ってますね。
不倫相手が奥さんと別れるために必要な費用の三千万円を職場の銀行から横領し、彼の待つ鳥取の伯耆地方に向かいますが、、、
最寄り駅の倉吉線山守駅(現在は倉吉線の廃線に伴い廃駅)で心細くなり、彼に連絡を取ろうとしますが、電話をかけるための小銭(百円硬貨)が手持ちになく焦りに焦り… 駅窓口で忘れられた釣銭の百円硬貨に手を出し、それを見咎められ犯罪が発覚してしまうという哀しい物語。
お金は沢山あったのに、小銭は持ち合わせていなかったんですよねぇ。
銀行から大金を横領するだけの優れた知識や知能があっても、追い詰められると冷静な判断ができなくなるんでしょうね。
哀しくて同情してしまう物語でした。
『記念に』
「わたしはいつでも別れてあげるわよ。いっしょになるというのははじめから諦めてるんだから。そのときは遠慮なくそういってちょうだい。」 都合の良い、あっさりとした関係の相手だと思っていたら… 彼女は命を懸けるほど男性のことを愛していた。
女性の情念や欲望がストレートに表現された作品だと感じましたね。
いつでも別れる… なんて、絶対本心じゃないですよねぇ。
他の作品も、それなりに愉しめました。
「松本清張」作品は読み始めると癖になりそうですね。 -
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ネタバレ<蟷螂の斧 自制心と暗い衝動>
しがない公務員、浅井に嫁いだ身の丈に合わない美麗な妻、英子。そんな妻がある日、持病の悪化により急逝してしまう。その妻が亡くなった場所は、浅井には思い当たる節の無い、縁もゆかりも無い場所だった。
そこに絡むタイトル。。
真実を知る為に、そして自分の仮説を否定する為に、推察と調査を重ねるほどに、信じたくない真実が近づいてくる。
丁度、境内にある小池で、水面に向かってゆらりと浮かび上がってくる鯉を見つけた時みたいな。
もう、鯉であることは間違いない。でも、鯉が口を水面から突き出す瞬間まで見つめてしまう、みたいな。
どう転んだって、鯉である。そんな確実性をもって、ぬるぬると真実と鯉は近づいて来る。
舞台は暗転。
逃げようとすればするほどに、偶然と自分で掘った墓穴に足を絡め取られる。因果応報とはまさにこのことか。
しかし、ここまで結び付けられてしまうものなのか、重なってしまうものなのかと思う。もはや神的な意志によって、絶望に誘い込まれているのでは? とまでも思える。でも、わざとらしくならない。それは浅井の心理描写が『そうゆう人間』そのものの動きやから、だと思う。すごく自然なのだ。
最期はたった数行。
しかし物語のその先にあるエンディングは明瞭にイメージさせられる。
堅実な生き方を重ねてきたのに。ぶち壊したのは、自分自身。
そう思う一方、突き動かされた浅井の気持ちが理解できないわけではない。もし自分が、、と主人公に重ねてしまって、胸が締め上げられた人も多いのではないか。
残酷な真実を無理に掘り起こす行為は危険なのかもしれない。危険やからこそ埋まっている。掘り起こせば最後、そんな真実よりも暗く重たい自分の衝動が襲いかかってくる。半端な覚悟では、あっという間に飲み込まれてしまう。
と、、なんかかっこよく書いてみました。いかがかしら。笑
あんまり書きすぎるのは良くないと思いつつも、熱中するあまり朝の通勤電車を乗り過ごしかけたのは久しぶりなのでその熱が乗ってしまいました。笑
文中『活字が模様の様に見える』って表現があるんですが、これは「分かるっ、、」てなりました。 -
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白い闇:北海道に仕事に行ったきり帰ってこない。東北本線を利用。TVでは新幹線利用。
捜査圏外の条件:会社の同僚が?
ある小官僚の抹殺:砂糖に関する癒着、急行なにわ
巻頭句の女:俳人の女性の死亡にまつわる保険金殺人
駅路:定年退職の男が80万円持参で蒸発。広島可部線
誤差:東海道線から私鉄で2時間の温泉宿。大井川鐡道?
万葉翡翠(ひすい):最初の部分はイマイチ理解出来ず。後半は面白い。準急アルプスの全盛時代。大糸線が開通して間が無い頃かも。しかし細い点と線をうまく結びつけるものだ。
薄化粧の男:テレビで見た事があった。50歳になると美男ほど見にくくなるものか。
偶数:映画の大映しのように出てきた茶碗、表現が上手い。
陸行水行:邪馬台国の調査がからんだトリック。しかし邪馬台国の事を徹底的に調べたものだ。 -
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清張初期の短篇集。社会派推理小説の影はなく、いわゆる中間小説だが、思いの外面白い。
白眉は丹羽長秀の心中を描いた「腹中の敵」。凡人と才人という対比において、凡人の立場から見る視点は面白い。また、秀吉という人たらしにも興味を覚えてきた。
人物伝風の「菊枕」、「断碑」、「石の骨」、私小説の「父系の指」、社会派推理小説の嚆矢「張り込み」、歴史小説(腹中の敵以外の2作はあまりに通俗すぎ、かつ不用意なオチで失敗だと思う)など幅広い作品を収めているが、やはり彼の主題は「人」であったといえる。
スーパースターや天才鬼才ではなく、日常の生活人たるわれわれが対象だ。それをもっとも如実に表現できるのが、彼にとってはミステリだった、ということなのだろう。
その枠を見つけるまでの、清張放浪時代の作品集である。 -
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<君は今どこにいる?>
売れない小説家に舞い込んだ一件の依頼。浜中にリードを引かれるが如く、伊瀬は連れ回される。
緻密すぎるストーリー。色鮮やな織物も、一つ一つの糸になるまで解いていくとそれがなんだったのかよく分からんのです。
偶然。思いもかけない出来事に遭遇することを言う。偶然、映画館で恋人とデート中の先生を目撃したりとか、偶然、無くなっていた片方のピアスを見つけたりとか、偶然、目の前で交通事故が起きたりする。どうして起きたのか、原因なんて見当たらないように見える。またえてして、そうゆうことは重なる。たまたま誤送信してしまったメールに限って、他人に知られては困るような内容だったりする。
でも、本当に「たまたま」なのだろうか。運が悪かった、もしくは良かっただけだろうか。その時集中力が切れていたのは、昨日夜更けまでゲームをしていたせいじゃないか? 先週彼女に振られたことを引きずっていないと胸を張って言えるだろうか? 突き詰めれば源泉が見えてくることがある。「偶然」とは濃い霧みたいなものなのかもしれない。晴れることもある。
伊瀬の浜中に対する胸中も、終始面白い。「知ったような顔をすぐにする小賢しい若造が、鬱陶しい奴め」と心中で毒づきつつも、「おい、なんで連絡してこんねん。心配したやろ」とキレもする。まあそんな憎めないやつ、いますよね。笑
最後、読み切った時に心に残る余韻、想い。そっくりそのまま主人公と重なったのか、これは、と思いました。
なんとなく「古い人でしょう」と今まで松本清張を読んでこなかったことを恥じております。と同時に、これからたくさん出会うことができるという事実にワクワクしています。良かった!